(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月16日22時35分
広島県下蒲刈島北西岸
(北緯34度11.6分 東経132度39.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八雄洋丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
54.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第八雄洋丸(以下「雄洋丸」という。)は,瀬戸内海諸港間において専ら砕砂,砂利,海砂及びスラブ等を運搬する船尾船橋型貨物船で,A受審人,B指定海難関係人ほか1人が乗り組み,空船のまま,船首1.2メートル船尾2.8メートルの喫水をもって,平成16年11月16日21時05分広島港似島西方の錨地を発し,広島県福山港に向かった。
A受審人は,福山港までの船橋当直を,錨地発航時から音戸瀬戸通過時までを自身が,同瀬戸通過時から柏島東方1海里の地点に達するまでを無資格のB指定海難関係人が,その後甲板員及び同受審人がそれぞれ入直したのち,三原瀬戸東口から福山港沖までの間を再び同指定海難関係人が入直する体制とした。
A受審人は,音戸瀬戸を通過したのち22時05分重岩灯台から259度(真方位,以下同じ。)6.2海里の地点に達したとき,当直をB指定海難関係人に当らせたが,特に指示することもないと思い,同人に対して眠気を催したときにはその旨を報告するよう指示しないまま降橋した。
B指定海難関係人は,22時07分半重岩灯台から259度5.7海里の地点において,針路を083度に定め,機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
ところで,B指定海難関係人は,前日の15日18時30分広島港似島西方で錨泊を開始後,機関室内において冷却海水系統の水漏れの修理などを翌16日未明まで行い,その後09時05分同錨地を発して広島港内のセメント工場岸壁で揚荷を行ったのち12時40分再び前示の錨地に戻って出港まで錨泊した。そして,その間自宅に帰って家事を行い休息はとらなかったので,睡眠不足の状態にあった。
B指定海難関係人は,22時19分重岩灯台から257度3.5海里の地点で猫瀬戸に向け続航していたとき,船首方1.2海里ばかりに他船の灯火を認めたので避航するため針路を092度に転じて操舵室内コンソール後方の椅子に座った姿勢でいるうち,22時23分ごろ眠気を催したが,なんとか我慢できると思い,船橋ウイングに出て外気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとらないで進行した。
B指定海難関係人は,その後,いつしか居眠りに陥り,前示の他船を避航し終えたのちも針路を原針路に戻せないで下蒲刈島北西岸に向首したまま続航し,22時35分重岩灯台から201度1.0海里の地点において,雄洋丸は,転針した針路のまま,全速力で同岸の県道の護岸に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,潮侯は上げ潮の末期であった。
A受審人は,乗揚の衝撃で急ぎ昇橋して事後の措置にあたった。
乗揚の結果,球状船首及び船首部船底外板に擦過傷を生じたほか,県道の護岸が一部崩壊した。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,広島県下蒲刈島西方において,居眠り運航の防止措置が不十分で,同島北西岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長が,無資格者に当直を行わせる際,当直者に対して,眠気を催したときにはその旨を報告するよう指示しなかったことと,当直者が眠気を催した際,外気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,音戸瀬戸を通過後,無資格者に当直を行わせる場合,当直者に対して眠気を催したときには,その旨を報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,特に指示することはないと思い,当直者に対して報告するよう指示しなかった職務上の過失により,下蒲刈島北西岸への乗揚を招き,球状船首及び船首部船底外板に擦過傷を生じさせたほか,県道の護岸の一部を崩壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人は,夜間,単独で当直に当たって下蒲刈島北西方を猫瀬戸に向け東行中,眠気を催した際,外気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,勧告しない。