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平成17年広審第44号
件名

旅客船しらきさん乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年11月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,吉川 進,島友二郎)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:しらきさん船長 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:しらきさん一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
C 職名:D社運航管理者

損害
船首部船底外板に破口及び凹損

原因
居眠り運航防止措置十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月2日04時35分
 広島湾南部
 (北緯33度59.6分 東経132度19.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船しらきさん
総トン数 441トン
全長 62.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,500キロワット
(2)設備及び性能等
 しらきさんは,平成16年1月に進水し,航行区域を平水区域と定め,バウスラスターを装備した2機2軸の旅客船兼自動車渡船で,航行予定時間3時間未満の場合の最大搭載人員は154人で,上層から順に船橋甲板,遊歩甲板,客室甲板及び車両甲板を有し,船橋甲板船首部に操舵室を配置していた。
 操舵室は,船首側中央部に舵輪及び主機操作レバーなどを組み込んだ操縦スタンドが設置され,同スタンド右舷側に第2レーダー及びGPSプロッタ,同スタンド左舷側に第1レーダーがそれぞれ設置され,自動操舵装置は備えられていなかった。

3 D社
 D社は,しらきさん及び高速船E号(総トン数48トン)の2隻を所有して山口県柳井港と愛媛県松山港間の定期航路に就航させており,船長,機関長及び航海士2人のそれぞれ4人で運航に当たらせていた。

4 船橋当直などの状況
 しらきさんは,柳井港と松山港間の定期航路を1日に4往復運航しており,そのうち2便は両港間の直行便で片道2時間20分,他の2便は途中山口県屋代島伊保田港に寄航するもので片道2時間25分をそれぞれ要し,船橋当直は,柳井港から松山港に向かう間はA及びB両受審人が,松山港から柳井港に向かう間は二等航海士及び機関長が当たっていた。また,乗組員は,2日乗船すれば次の2日間が休暇となり,3日乗船すれば次の3日間が休暇となっていた。

5 B受審人の就労状況
 B受審人は,平成16年9月28日09時50分柳井港着便で下船して休暇をとり,同月30日12時40分柳井港発便に乗船し,10月2日09時50分柳井港着便で下船する予定であった。

6 C指定海難関係人の安全運航についての指導模様
 C指定海難関係人は,海上保安部や運輸局から送付された安全運航についてのパンフレットなどを乗組員に回覧し,半年に2回訪船していたが,作業基準で定められた船内巡視を当直者に行わせており,非直の乗組員に行わせるなど常時2人当直態勢が維持できるよう安全運航についての指導を行わなかった。

7 事実の経過
 しらきさんは,A受審人,B受審人,二等航海士及び機関長が乗り組み,旅客10人及び車両5台を乗せ,船首2.55メートル船尾3.00メートルの喫水をもって,平成16年10月2日03時50分柳井港を発し,伊保田港経由で松山港に向かった。
 B受審人は,A受審人と2人で船橋当直に就き,04時08分半大島大橋橋梁灯(C1灯)(以下「C1灯」という。)から100度(真方位,以下同じ。)1,100メートルの地点で,針路を049度に定め,機関を全速力前進にかけて16.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
 A受審人は04時10分,船橋当直をB受審人1人に任せ,自らは船内巡視のため降橋したところ,車両甲板から客室甲板に上がる階段の汚れを認めたので同階段の水洗いを始めた。
 一方,B受審人は04時13分,C1灯から065度1.6海里の地点で針路を055度に転じ,背もたれ及び肘掛け付きのいすを舵輪後方に移動して腰を掛け,04時17分C1灯から061度2.8海里の地点で針路を065度に転じた。
 04時20分B受審人は,C1灯から062度3.6海里の地点に達して更に針路を084度に転じたのち,眠気を催すようになったが,A受審人が昇橋するまで我慢できるものと思い,いすから立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった。
 B受審人は,同じ姿勢で続航するうちいつしか居眠りに陥り,04時26分転針予定地点に達したが,このことに気付かず,針路を転じることなく黒島に向首したまま進行し,04時35分久賀港大崎鼻灯台から047度3.3海里の地点において,しらきさんは,原針路,原速力のまま,黒島南岸に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力1の北風が吹き,潮候は低潮時であった。
 乗揚の結果,船首部船底外板に破口及び凹損を生じたが,救援船により引き降ろされ,のち修理された。
 A受審人は,衝撃を感じて急いで昇橋し,旅客の安否の確認や救援船の手配などの措置に当たった。

8 事後の措置
 C指定海難関係人は,船内巡視を非直の乗組員に行わせて船橋当直を常時2人で行うことができる態勢に改善し,船位が基準航路線から離れると警報を発する機能をGPSに取り付けるなどの再発防止措置を講じた。

(本件発生に至る事由)
1 C指定海難関係人が,常時2人当直態勢を維持できるよう安全運航についての指導を行わなかったこと
2 A受審人が,当直中に降橋したこと
3 B受審人が,いすに腰を掛けたこと
4 B受審人が,眠気を催したこと
5 B受審人が,船長が昇橋するまで我慢できるものと思い,いすから立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,当直者が眠気を催したときに居眠り運航の防止措置を十分にとっておれば,居眠りに陥ることはなく,予定の転針を行うことが可能であり,本件を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,当直中いすに腰を掛けて眠気を催した際,船長が昇橋するまで我慢できるものと思い,いすから立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人が常時2人当直態勢を維持できるよう安全運航についての指導を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 A受審人が当直中に船内巡視などのため降橋したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,柳井及び松山両港間の定期便に就航して松山港に向けて航行する際,居眠り運航の防止措置が不十分で,黒島に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 B受審人は,夜間,柳井及び松山両港間の定期便に就航して松山港に向けて船橋当直に就き,いすに腰を掛けて航行中に眠気を催した場合,そのままの姿勢でいると居眠りに陥るおそれがあったから,いすから立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,船長が昇橋するまでは眠気を我慢できるものと思い,いすから立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,予定の転針ができず,黒島に向首したまま進行して乗揚を招き,船首部船底外板に破口及び凹損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
 C指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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