(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月30日14時19分
山口県岩国港
(北緯34度11.9分 東経132度14.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第八公星丸 |
総トン数 |
496トン |
全長 |
64.52メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第八公星丸(以下「公星丸」という。)は,瀬戸内海諸港や九州諸港間の原油及び重油を輸送する船尾船橋型油タンカーで,A受審人ほか4人が乗り組み,空船のまま,船首0.80メートル船尾3.05メートルの喫水をもって,平成16年10月29日14時25分福岡県三池港を発し,山口県岩国港に向かった。
A受審人は,船橋当直体制を,11時から15時まで及び23時から03時までを一等航海士に,03時から07時まで及び15時から19時までを甲板長に,07時から11時まで及び19時から23時までを自身にそれぞれ割り振り,単独の4時間3直制とした。
A受審人は,23時24分平戸瀬戸通航の操船を終えて自室で休息したが,持病による症状のため約1時間半しか熟睡できずに薬を服用して横になっていたところ,翌30日05時40分に関門海峡通航のため昇橋して操船に当たり,同海峡通過後も引き続いて船橋当直に当たって11時00分に当直を終えて降橋した。そして,同受審人は,12時40分山口県大畠瀬戸通航のため再び昇橋して操船に当たり,同瀬戸通過後も引き続いて当直に当たって広島湾を岩国港に向けて北上し,持病による不眠と,これらの長時間にわたる船橋当直のため睡眠不足の状態となっていた。
13時55分A受審人は,岩国港北防波堤灯台から133度(真方位,以下同じ。)4.4海里の地点に達して,針路を318度に定め機関を全速力前進にかけ,11.0ノットの対地速力で自動操舵により進行中,14時00分舵輪後方の木製いすに腰掛けていたところ眠気を催したが,いつものことなので居眠りすることはないと思い,他の乗組員を呼んで2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
A受審人は,その後間もなく居眠りに陥り,14時17分着桟予定バースである装港ふ頭に向かう転針地点に差し掛かったが,転針できないまま進行するうち,14時19分岩国港北防波堤灯台から055度650メートルの地点で,原針路,原速力のまま,岩国港装束ふ頭東側の護岸に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の東風が吹き,潮侯は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,船底外板に亀裂及び凹損を生じたが,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,山口県岩国港において,着桟予定のバースに向け進行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同港の装束ふ頭の護岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,山口県岩国港において,着桟予定のバースに向け進行中眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,他の乗組員を呼んで2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,いつものことなので居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥って岩国港装束ふ頭東側の護岸への乗揚を招き,船底外板に亀裂及び凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。