(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月7日12時49分
山口県徳山下松港
(北緯34度03.2分 東経131度42.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八幸福丸 |
総トン数 |
191トン |
全長 |
44.21メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
3 事実の経過
第八幸福丸(以下「幸福丸」という。)は,液体苛性ソーダなどを運搬するケミカルタンカーで,A受審人ほか2人が乗り組み,空槽のまま,船首0.4メートル船尾3.0メートルの喫水で,平成16年9月6日09時45分広島県呉港広区を発し,山口県徳山下松港に向かった。
A受審人は,発航後,台風18号の接近に備えて海水バラスト約35トンをフォアピークタンクとバラストタンクに張り,船首0.6メートル船尾3.0メートルとなった喫水で,同日16時45分徳山下松港に至り,黒髪島313メートル頂から316度(真方位,以下同じ。)2,100メートルの地点で船首の振れ止めとして右舷錨鎖3節及び左舷錨鎖7節のうち5節を水深10メートルの海中に進出して錨泊した。
ところで,翌7日05時30分台風18号接近にともない,山口県全域に暴風,波浪,高潮警報が発令されていた。
同日07時30分A受審人は,台風18号の接近に備えるため機関長と一等航海士とともに昇橋し,機関長に機関の用意を指示して守錨直に入っていたところ,09時00分南東の風が毎秒10メートルに増勢し,波浪も4メートルから5メートルに達するようになったが,そのころ自船の周囲には台風避難のため多数の船舶が投錨していたこともあって,これらの船舶との間隔を十分に離そうと思い,装備する錨鎖を全量伸出するなど台風の接近に対する荒天準備を十分に行わなかった。
09時50分A受審人は,GPSの画面を見て自船が走錨していないか船位の確認を行っていたところ,同画面上で船位がわずかに北西に移動していることを認めて自船が走錨していることを知り,機関を半速力前進とし,その後更に増勢した風浪に抗して機関と舵を適宜使用したが,幸福丸は船首が136度を向いたまま,真後ろの方向に走錨を続けた。
10時00分A受審人は,船首に機関長と一等航海士を配置させて錨鎖を延ばそうとしたが,増勢した風浪により白波が甲板上に打ち上げて危険なため,船首に前示の要員を向かわすことができず,走錨を止めることができないでいるうち,12時49分黒髪島313メートル頂から316度3,600メートルの地点において,船首が146度を向いたまま,右舷側船底が四十鼻の岩場に乗り揚げた。
当時,天候は雨で風力6の南東風が吹き,波高は6メートルで,潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果,舵及び推進器翼が曲損し,船底に亀裂を伴う凹損を生じたが,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,台風が接近する徳山下松港において錨泊する際,荒天準備が不十分で,走錨したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,台風が接近する徳山下松港において錨泊する際,走錨しないよう,あらかじめ錨鎖を全量伸出するなどの荒天準備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,荒天準備を十分に行わなかった職務上の過失により,走錨して乗揚を招き,舵及び推進器翼に曲損を,船底に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。