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平成17年神審第64号
件名

貨物船第十一福吉丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年11月22日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學,佐和 明,横須賀勇一)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第十一福吉丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
船首船底外板に破口

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月15日22時40分
 和歌山県湯浅湾
 (北緯34度00.1分 東経135度05.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十一福吉丸
総トン数 199トン
全長 55.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット
(2)設備及び性能等
 第十一福吉丸(以下「福吉丸」という。)は,平成元年2月に進水した,限定沿海区域を航行区域とする航海速力10.0ノットの鋼製貨物船で,船橋前面中央の窓に面して見張り用のいすが置かれており,その後方のコンソールスタンドには,レピーターコンパス,操舵輪,主従2台のレーダー,GPS及び機関操縦ハンドルなどが装備されていた。

3 事実の経過
 福吉丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,鉄粉613トンを積載し,船首2.4メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成17年3月15日17時00分兵庫県東播磨港を発し,千葉港へ向かった。
 出港後,A受審人は,同人と甲板長とが交互に入直する単独6時間交替2直制の船橋当直に定め,先ず,自らが17時30分から23時30分までの予定で入直して瀬戸内海を東航したのち,明石海峡及び友ケ島水道の由良瀬戸を経て紀伊水道を南下した。
 ところで,当時,A受審人は,前々日13日16時30分東播磨港に入港後,翌14日朝まで錨泊して不具合が生じていたハッチカバーの修理作業などを徹夜で行い,15日には08時30分シフト開始,09時20分接岸,同時40分積荷開始,16時40分積荷終了,17時00分出港という具合に連続して船務に従事したうえ,出港後も引き続いて船橋当直に当たっていたことなどから,少しばかり疲労が溜った状態であった。
 21時07分A受審人は,友ケ島灯台から195度(真方位,以下同じ。)2.9海里の地点に達したとき,大型船舶などが輻輳する紀伊水道の中央部を避けて,航行船舶が比較的少ない和歌山県側に寄った海域を南下することに決め,同県宮崎ノ鼻北西方約3海里付近に定めた転針予定地点へ向けて針路を159度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.5ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で,自動操舵によって進行した。
 定針後,A受審人は,前示いすに腰を掛けた姿勢で見張りに当たっていたところ,しばらくして,少しばかり疲労が溜っていたことに加え,紀伊水道の広い海域に出て,やや気が緩んだことなどに起因して,眠気を催すようになり,そのまま単独で船橋当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったが,当直交替時間まで約2時間であったことから,それぐらいならば,なんとか眠気を我慢できるだろうと思い,船橋当直に組み込まれていない休息中の機関長を呼んで2人当直とするなりして,居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったので,21時45分ごろ転針予定地点の約2海里手前に当たる宮崎ノ鼻北北西方5海里付近で,いつの間にか居眠りに陥った。
 こうして,A受審人は,その後も居眠りに陥ったまま,22時20分転針予定地点に至ったものの,針路を転じることなく続航中,22時40分紀伊宮崎ノ鼻灯台から173度4.2海里の地点において,福吉丸は,原針路,原速力で,黒島西端近くの浅瀬に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果,福吉丸は船首船底外板に破口を生じたが,自力で最寄りの造船所まで航行し,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 少しばかり疲労が溜った状態であったこと
2 いすに腰を掛けた姿勢で見張りを行っていたこと
3 紀伊水道の広い海域に出て,やや気が緩んだこと
4 居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったこと
5 いつの間にか居眠りに陥ったこと
6 転針予定地点で針路を転じず,浅瀬に向首して進行したこと

(原因の考察)
 福吉丸は,単独で船橋当直に当たっていた船長が,眠気を催した場合,速やかに他の乗組員を呼んで2人当直とするなりして,居眠り運航を防止する措置を十分にとっていたならば,居眠りに陥る事態には至らず,転針予定地点で針路を転じることができたと推認できることから,浅瀬に向首して進行するような状況を招くことはなく,乗揚を避けることは十分に可能であったものと認められる。
 したがって,A受審人が,少しばかり疲労が溜っていたことに加え,紀伊水道の広い海域に出て,やや気が緩んだことなどに起因して,眠気を催したとき,休息中の機関長を呼んで2人当直とするなりして,居眠り運航を防止する措置を十分にとることなく,いつの間にか居眠りに陥り,転針予定地点で針路を転じないまま,浅瀬に向首して進行したことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,いすに腰を掛けた姿勢で船橋当直に当たっていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,紀伊水道を南下中,居眠り運航を防止する措置が不十分で,転針予定地点で針路を転じないまま,浅瀬に向首して進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,紀伊水道において,単独で船橋当直中,少しばかり疲労が溜っていたことに加え,紀伊水道の広い海域に出て,やや気が緩んだことなどに起因して,眠気を催した場合,そのまま当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,休息中の機関長を呼んで2人当直とするなりして,居眠り運航を防止する措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,当直交替時間まで約2時間であったことから,それぐらいならば,なんとか眠気を我慢できるだろうと思い,居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかった職務上の過失により,転針予定地点の約2海里手前で居眠りに陥り,同地点で針路を転じないまま,浅瀬に向首進行して乗揚を招き,船首船底外板に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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