(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月10日17時08分
高知県沖ノ島北方沖合
(北緯32度46.2分 東経132度33.3分)
2 船舶の要目
船種船名 |
交通船広洋丸 |
総トン数 |
11トン |
全長 |
15.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
301キロワット |
3 事実の経過
広洋丸は,船体中央部に操舵室が,その後部に客室が設けられ,GPSプロッターを装備したFRP製交通船で,平成15年9月交付の一級小型船舶操縦士・特殊船舶操縦士・特定船舶操縦士免許証を受有するA受審人が1人で乗り組み,土木作業員4人を乗せ,工事現場から帰港する目的で,船首0.15メートル船尾1.70メートルの喫水をもって,同17年5月10日17時00分高知県沖の島漁港母島地区を発し,同県宿毛湾港に向かった。
ところで,高知県沖ノ島北端にある土佐烏帽子埼灯台の北東方約1海里に位置する高さ49メートルの二並島の北西方500メートル付近には,高さ18メートルの黒碆及び数個の水上岩が,同島とこれらの岩の中央付近には,満潮時に水面下に没する干出岩が存在しており,このような水路事情は,海図第W151号を調査すれば,十分に認識可能であった。
一方,A受審人は,内航タンカーや引船の機関士として乗船し,昭和49年11月に小型船舶操縦免許を取得したものの,これまで船外機を取り付けた伝馬船を数回操船したことがあるだけで,小型船舶の操船経験はほとんどなく,沖ノ島近辺を航行したこともなかったが,平成17年5月10日から宿毛湾港を朝07時00分に出港し,沖の島漁港母島地区を夕方17時00分に出港する1日1往復の土木作業員の輸送を開始する広洋丸の船長として,臨時で雇用され,初めて両港間を航行することとなった。
これより先,A受審人は,沖ノ島の知人から二並島とその北西方の水上岩の間には中央付近に満潮時には水面下となる干出岩が存在することを聞いていたが,その間を通航するときは,中央よりも二並島に寄って航行すれば大丈夫と思い,海図第W151号を購入して干出岩の正確な位置を確認するなど,水路調査を十分に行わなかった。
A受審人は,操舵輪後方の台に腰掛けて操舵に当たり,17時03分少し過ぎ土佐烏帽子埼灯台から252度(真方位,以下同じ。)550メートルの地点で,針路を手動操舵で二並島と数個の水上岩の中央付近に向く035度に定め,機関を全速力前進にかけ16.0ノットの対地速力で進行した。
定針したとき,A受審人は,二並島北西方の干出岩に向首することとなったが,水路調査を十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま続航し,17時08分広洋丸は,土佐烏帽子埼灯台から025度2,000メートルの地点において,原針路,原速力で,二並島北西方の干出岩に乗り揚げ,これを乗り切った。
当時,天候は晴で風力4の北西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
乗揚の結果,プロペラ及びプロペラシャフトが損壊したが,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,高知県沖ノ島北方沖合において,沖ノ島と同県宿毛湾港間の土木作業員の輸送に従事する際,水路調査が不十分で,二並島北西方の干出岩に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,高知県沖ノ島北方沖合において,沖ノ島と同県宿毛湾港間の土木作業員の輸送に従事する場合,沖ノ島と宿毛湾港間を航行するのは初めてであったから,沖ノ島北方にある二並島と同島北西方にある数個の水上岩との間の約500メートルの水路中央付近に存在する干出岩に接近しないよう,海図第W151号をあたってその正確な位置を確認するなど水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,二並島と同島北西方の水上岩との間を通航するときは,二並島寄りに航行すれば大丈夫と思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,二並島北西方の干出岩の存在に気付かず,同干出岩に向首進行して乗揚を招き,広洋丸のプロペラ及びプロペラシャフトに損壊を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。