(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月6日23時10分
徳島県北泊ノ瀬戸
(北緯34度14.3分 東経134度35.5分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
油送船第三東栄丸 |
総トン数 |
128.36トン |
全長 |
33.65メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
(2)設備及び性能等
第三東栄丸(以下「東栄丸」という。)は,昭和55年8月に進水した,沿海区域を航行区域とし,不定期でA重油の輸送に従事する一層甲板船尾船橋型の油タンカーで,レーダー及びGPSプロッターが各1台装備されていた。操縦性能は,旋回径が全長の約2倍で,90度旋回するに要する時間は32秒ないし34秒であった。
3 事実の経過
東栄丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,A重油200キロリットルを積載し,船首1.9メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成16年2月6日17時40分岡山県水島港を発し,徳島県北泊ノ瀬戸を経由する予定で,同県撫養港に向かった。
ところで,北泊ノ瀬戸は,鳴門海峡西方の島田島と四国本土との間にあるほぼ南北に延びる狭い水路で,その北側入口付近には水深2メートル以下の浅所が両岸から張り出し,可航幅が最狭部で約50メートルに狭められているうえ,潮流が強いことから,夜間,順潮流時に,同瀬戸内に入航するときは,北泊ノ瀬戸入口から離れたところで,早期に水路内を見渡すことができる態勢をとり,レーダー等を援用しながら水路中央に向かう必要があった。
A受審人は,月に2回から3回,北泊ノ瀬戸を通航していたので,同瀬戸の浅所及び潮流の状況をよく知っており,北泊ノ瀬戸入航前に潮流を調べ,同瀬戸の通航予定時刻が,鳴門海峡の南流最強時の1時間前で,同瀬戸では南流約4ノットの順潮流となることを承知していた。
21時30分A受審人は,機関長と交替して単独の船橋当直に当たり,23時02分阿波瀬戸港北泊外防波堤灯台(以下「北泊外防波堤灯台」という。)から307度(真方位,以下同じ。)1,000メートルの地点において,針路を117度に定め,機関を全速力前進から半速力前進に減じて回転数毎分300とし,5.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
定針したとき,A受審人は,いつものように北泊ノ瀬戸入口に近づいてから水路中央に向けて,大きく転針しても大丈夫と思い,早期に同水路内を見渡せるところで,同入口中央に向かう態勢として入航することができるよう,北泊ノ瀬戸入口から十分に離れた海域に向かう進路をとることなく続航した。
A受審人は,操舵スタンド左前方の窓付近に立ち,遠隔操舵装置で操船しながら当直に当たり,23時08分北泊外防波堤灯台から015度160メートルの地点に至って,わかめ養殖施設東端の標識灯を航過したのち,北泊ノ瀬戸入口に接近する原針路のまま続航し,やがて,同瀬戸入口中央に向けて大きく右回頭を開始したところ,レーダー等を援用する余裕のないまま同入口東側の浅所に著しく接近する状況となり,23時10分東栄丸は,北泊外防波堤灯台から121度280メートルの地点において,約95度右回頭して船首が212度に向いたとき,折からの順潮流に乗じて9.0ノットの速力で,浅所に乗り揚げ,これを乗り切った。
当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,北泊ノ瀬戸には約4ノットの南流があった。
乗揚の結果,右舷船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 北泊ノ瀬戸入口付近の両側から浅所が張り出していたこと
2 進路の選定を適切に行わなかったこと
3 夜間,北泊ノ瀬戸入口に接近して大きく右回頭を行ったこと
(原因の考察)
本件乗揚は,夜間,徳島県北泊ノ瀬戸北側入口において,南下する際,同入口東側の浅所に著しく接近したことによって発生したものである。
定針したとき,北泊ノ瀬戸入口から十分に離れた海域に向かう進路をとり,早期に水路内を見渡すことができるところで同瀬戸入口中央に向かう態勢をとっておれば,同瀬戸入口東側の浅所に著しく接近することはなかったものと認められる。したがって,進路の選定を適切に行わず,北泊ノ瀬戸入口に接近して大きく右回頭を行ったことは,本件発生の原因となる。
北泊ノ瀬戸入口付近の両側から浅所が張り出していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,潮流の強い徳島県北泊ノ瀬戸北側入口において,南下する際,進路の選定が不適切で,同瀬戸入口東側の浅所に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,潮流の強い徳島県北泊ノ瀬戸北側入口において,南下する場合,同瀬戸入口東側の浅所に接近しないよう,早期に水路内を見渡せるところで同入口中央に向かう態勢として入航することができるよう,北泊ノ瀬戸入口から十分に離れた海域に向かうなど,進路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,何度も北泊ノ瀬戸を通航しているので,いつものように同瀬戸入口に近づいてから同水路中央に向けて大きく転針しても大丈夫と思い,同瀬戸入口から十分に離れた海域に向かうなど,進路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により,北泊ノ瀬戸入口に接近する進路をとり,大きく右回頭中に同入口東側の浅所に著しく接近して乗揚を招き,右舷船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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