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平成17年長審第38号
件名

モーターボート トライ・テック乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年10月18日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:トライ・テック船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底に破口を伴う損傷及び機関に濡損

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月24日21時40分
 長崎県中ノ島南岸

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート トライ・テック
登録長 7.47メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 169キロワット

3 事実の経過
 トライ・テック(以下「トライ号」という。)は,船内外機を備え,レーダー,GPSプロッター及び魚群探知機を装備したFRP製モーターボートで,A受審人(昭和57年2月一級小型船舶操縦士免許取得,平成16年2月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み,釣りの目的で,船首0.5メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,平成16年7月24日18時00分長崎港北部にある福田浦の係船地を発して同港西方沖合を移動しながら釣りを行ったのち,長崎半島西方沖合に向かい,20時00分長崎県端島の南南西方約700メートルのところにある,水深約11ないし15メートルの端島尻と称する瀬に到着して釣りを始めた。
 ところで,A受審人は,会社経営の傍ら,週末を利用してほぼ毎週出航して釣りを行い,その際に端島尻付近の海域を度々航行していたので,端島の北東方約1,000メートルのところに長崎県中ノ島があって,同島南岸から南方約350メートルにまで険礁が拡延していることをよく知っており,平素,同険礁を安全に替わすために中ノ島の南岸を約800メートル離して通航するようにし,GPSプロッターに肥前端島灯台(以下「端島灯台」という。)から084度(真方位,以下同じ。)1,300メートルの地点(以下「中ノ島沖合のポイント」という。)を入力して同プロッターに表示するようにしていたものの,1週間ほど前に電動ウインチを使用して揚錨中電圧が降下した際,同プロッターに入力した航行目標地点のデータが失われ,その後再入力しないまま運航を続けていた。
 釣り場到着後,A受審人は,予定していた時刻を過ぎるまで釣りを続けたものの釣果がなかったので,係船地に向けて帰航することにし,操舵室右舷側にある舵輪の後方に備えた座席に座って同室前部中央やや右側に装備したGPSプロッターとレーダーを作動させたものの,中ノ島沖合のポイントが同プロッターに表示されない状況下,予定時刻を過ぎていたこともあって,早く発航して航行中に同プロッターで船位を確かめようと思い,レーダーを活用して端島及び中ノ島と自船の相対位置関係を把握するなど,発航する前に船位を十分に確認することなく,21時38分わずか過ぎ肉眼で見える端島の島影を左舷側に離して航行するよう,針路を046度に定め,機関を全速力前進にかけて端島灯台から205.5度830メートルの地点を発し,54.0毎時キロメートルの速力で帰途に就いた。
 発航したとき,A受審人は,中ノ島南岸沖合に拡延する険礁に向首する態勢であったが,このことに気付かず,すぐにGPSプロッター画面の輝度を上げて周辺の海域を拡大表示する作業を始めた。
 こうして,トライ号は,A受審人がGPSプロッターの操作に当たり,険礁に向首したまま進行中,21時40分端島灯台から063.5度1,000メートルの地点に当たる険礁の南端に,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力1の西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,トライ号は,船底に破口を伴う損傷及び機関に濡損を生じたが,来援した救助船により引き下ろされ,のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は,夜間,長崎県端島南岸沖合の釣り場から係船地に向けて発航する際,船位の確認が不十分で,同県中ノ島南岸沖合に拡延する険礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,係船地に向けて長崎県端島南岸沖合の釣り場を発航する場合,GPSプロッターに入力した航行目標地点のデータが失われて同県中ノ島沖合のポイントが同プロッターに表示されない状況であったのだから,レーダーを活用して端島及び中ノ島と自船の相対位置関係を把握するなど,発航する前に船位を十分に確認するべき注意義務があった。しかしながら,同人は,予定時刻を過ぎていたこともあって,早く発航して航行中にGPSプロッターで船位を確かめようと思い,発航する前に船位を十分に確認しなかった職務上の過失により,中ノ島南岸沖合に拡延する険礁に向首したまま進行して乗揚を招き,トライ号の船底に破口を伴う損傷及び機関に濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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