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平成17年門審第54号
件名

漁船第1隆英丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年10月21日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,織戸孝治,片山哲三)

理事官
勝又三郎

受審人
A 職名:第1隆英丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第1隆英丸甲板員 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板に破口並びに推進器翼に曲損

原因
居眠り運航防止措置十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月10日04時20分
 福岡県糸島郡碣石埼
 (北緯33度37.6分 東経130度09.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第1隆英丸
総トン数 11トン
登録長 14.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 130
(2)設備及び性能等
 第1隆英丸(以下「隆英丸」という。)は,平成4年12月に長崎県平戸市で進水したFRP製漁船で,固定式刺網漁業及びまき網漁業に従事し,船体中央やや後部に設けられた操舵室には,操舵装置のほか,レーダー,GPSなどが設置されていたが,自動操舵装置は備えていなかった。

3 事実の経過
 隆英丸は,A及びB両受審人ほか4人が乗り組み,刺網漁の目的で,平成16年8月9日18時ごろ長崎県北松浦郡矢岳漁港を発し,同県二神島西方沖合の漁場で操業したのち,翌10日03時ごろ福岡県博多漁港に入港し,水揚げ作業を行った。
 ところで,A受審人は,隆英丸にB受審人以外に小型船舶操縦免許を受有する甲板員2人を乗り組ませていたが,平素から船橋当直を自らとB受審人の2人のみで行っており,博多漁港から矢岳漁港に帰航する際は約4時間の航程の前半をB受審人に行わせ,後半を自らが単独で同当直に就いていた。
 A受審人は,本件発生前の1週間はしけの日がなかったことから,連日出漁しており,この間,B受審人とともに,漁の準備,操業,水揚げ及び網の修理などの作業にあたっていて,1日の睡眠時間が約3時間となっていたことから,両人とも極度に睡眠が不足するとともに疲労が蓄積した状態となっていた。
 03時15分少し前A受審人は,水揚げ作業を終えて帰途に就くこととしたとき,疲労を感じるようになっていたものの,B受審人も自分と同様の休息及び就労状態であり,水揚げ作業を終えて引き続き発航すれば,前半の船橋当直を行う同人が居眠りに陥るおそれがあったが,同人に,疲れた様子が見られなかったことや,同人が単独で行う船橋当直が1時間半ばかりであったことから,同当直を任せても大丈夫と思い,発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった。
 一方,B受審人は,疲れを感じていたが,船橋当直を任された立場上の責任感もあって眠気を感じていなかったことから,休息が十分にとれる自宅に早く帰った方が良いと思い,A受審人に対して,発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとるよう進言しなかった。
 隆英丸は,03時15分船首1.10メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,博多漁港中央卸売市場前の岸壁を発進し,速力12.0ノット(対地速力,以下同じ。)で,矢岳漁港に向けて帰途に就いた。
 発進後,A受審人は,自らが操舵操船にあたり,B受審人に見張りを行わせ,他の乗組員には休息をとらせて,博多港を西進した。
 03時43分A受審人は,残島灯台から318度(真方位,以下同じ。)850メートルの地点に差しかかったとき,眠気を感じたことから休息をとることとし,B受審人に船橋当直を行わせ,見張りを十分に行うこと及び佐賀県東松浦郡玄海町所在の玄海原子力発電所付近で起こすよう指示し,292度の針路で,速力を19.0ノットに増速したのち,操舵室を離れて,船尾甲板上で休息した。
 B受審人は,操舵室右舷側のいすに腰を掛け,左手で舵輪を握り,右手で機関の遠隔操縦レバーを握った姿勢で船橋当直にあたり,04時00分西浦岬灯台から317度1,600メートルの地点に達したとき,いつものように針路を佐賀県唐津市呼子町沖合に向く247度に定め,同速力で手動操舵によって進行した。
 定針したのち,B受審人は,いすに腰を掛けた姿勢で続航していたところ,前路の視界が開け,海上も平穏で,前方に危険な状態となる他船もおらず,次の転針地点まで間があったことなどから緊張がゆるみ,覚醒度が急激に低下し,04時10分ごろ碣石埼を左舷側に2海里ばかりで並航したころ,舵輪を左手で握った姿勢で眠気を感じないまま居眠りに陥った。
 こうして,隆英丸は,居眠り運航となり,B受審人の左手が動いて左舵がわずかにとられたまま,左回頭をしながら進行し,04時20分灯台瀬灯標から134度4,600メートルの福岡県糸島郡碣石埼海岸に,船首が東北東方を向いたとき,原速力のまま,乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は高潮時で,視界は良好であった。
 A受審人は,衝撃により目覚めて,乗り揚げたことを知り,事後の措置にあたった。
 乗揚の結果,船底全体に破口を伴う損傷を,右舷水線下外板に破口を,推進器翼に曲損をそれぞれ生じたが,クレーン台船に引き上げられ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A及びB両受審人が極度に睡眠が不足した状態になっていたこと
2 A受審人が発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
3 B受審人がA受審人に対して,発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとるよう進言しなかったこと
4 B受審人が居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,船長が,博多漁港からの発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとっていれば,船橋当直者が居眠りに陥ることはなく,発生を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,疲労を感じるようになったとき,自らと同様にB受審人も極度に 睡眠不足の状態になっていながら,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 次に,隆英丸の船橋当直者が,船長に対して,発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとるよう進言していれば,船長が居眠り運航の防止措置をとり,本件発生を防止できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,極度に睡眠が不足した状態の下で,A受審人に対して,発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとるよう進言せず,居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,博多漁港から矢岳漁港に向けて帰航するにあたり,居眠り運航の防止措置が不十分で,単独の船橋当直者が居眠りに陥り,福岡県糸島郡碣石埼の海岸に向けて進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかったことと,船橋当直者が船長に対して,居眠り運航の防止措置をとるよう進言しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,博多漁港において,矢岳漁港に向けて帰途に就く発航準備中に疲労を感じた場合,前半の船橋当直に就くB受審人が自分と同様の就労体制をとっており,極度に睡眠不足の状態にあったから,居眠り運航とならないよう,発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,A受審人は,B受審人に疲れた様子が見られなかったことや,同人が単独で行う船橋当直が1時間半ばかりであったことから,同当直を任せても大丈夫と思い,発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,同当直中のB受審人が居眠りに陥って乗揚を招き,船底全体に破口を伴う損傷を,右舷水線下外板に破口を,推進器翼に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,博多漁港において,矢岳漁港に向けて帰途に就く発航準備中に疲労を感じた場合,極度に睡眠不足の状態であったのだから,居眠り運航とならないよう,A受審人に対して,発航を遅らせて仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとるよう進言すべき注意義務があった。しかるに,B受審人は,船橋当直を任された立場上の責任感もあって眠気を感じていなかったことから,休息が十分にとれる自宅に早く帰った方が良いと思い,A受審人に対して,居眠り運航の防止措置をとるよう進言しなかった職務上の過失により,A受審人が発航を遅らせて仮眠をとるなどの同措置をとらないまま発航し,自身が船橋当直中に居眠りに陥り,福岡県糸島郡碣石埼の海岸に向かって進行して乗揚を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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