(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月26日22時00分
愛媛県興居島北岸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八やわた丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
60.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
3 事実の経過
第八やわた丸(以下「やわた丸」という。)は,船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人ほか2人が乗り組み,合成樹脂586トンを積載し,平成16年12月22日17時20分茨城県鹿島港を発し,香川県坂出港で232トンを揚荷し,船首1.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって,同月26日14時40分同港を発進して大分県大分港に向かった。
A受審人は,発航操船に当たったのちしばらく休息し,17時30分単独の船橋当直に就いて来島海峡を通航し,21時27分半波妻ノ鼻灯台から280度(真方位,以下同じ。)2.1海里の地点において,針路を野忽那島灯台と安芸灘南航路第1号灯浮標とのほぼ中間に向く201度に定め,機関を全速力前進にかけ10.0ノットの対地速力で,所定の灯火を表示し,自動操舵により進行した。
ところで,A受審人は,主として合成樹脂の運送に従事しており,航海当直を一等航海士と折半していたものの,荷役作業が陸上の作業員によって行われていたので,荷役中は作業がなく,また,荷役が日中しか行われなかったことから,睡眠と休息を十分にとることが可能で,疲労も睡眠不足も感じるような状況ではなかった。
A受審人は,操舵室内を暖房し,舵輪後方に置いた背もたれと肘掛け付きのいすに腰掛けていたところ,21時32分ごろ付近に航行の妨げとなる船舶がいなくなり,気の緩みから眠気を催したが,まさか居眠りすることはないものと思い,立った姿勢で航海当直に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,短時間外気に当たっただけで操舵室に戻り,再びいすに腰掛けて続航した。
A受審人は,いつしか居眠りに陥り,21時49分少し前甫埼沖灯標から094度1.2海里の地点で釣島水道に沿う針路に変更することができず,愛媛県興居島北岸に向首したまま進行し,22時00分甫埼沖灯標から163度1.9海里の地点において,やわた丸は,原針路原速力のまま,同北岸に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,視界は良好であった。
A受審人は,乗揚の衝撃で目覚め,事後の措置に当たった。
乗揚の結果,船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,夜間,釣島水道を西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,愛媛県興居島北岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,単独で操舵と見張りに当たり,釣島水道を西行中,気の緩みから眠気を催した場合,立った姿勢で航海当直に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはないものと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,いつしか居眠りに陥り,愛媛県興居島北岸に向首したまま進行して同北岸への乗揚を招き,船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。