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平成17年広審第32号
件名

貨物船新吉祥丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年10月5日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,黒田 均,島友二郎)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:新吉祥丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
船首船底に破口及び凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月23日06時18分
 山口県室津港
 (北緯33度50.6分 東経132度07.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船新吉祥丸
総トン数 199トン
登録長 53.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
(2)設備及び性能等
 新吉祥丸は,昭和61年6月に進水した航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型貨物船で,主として,広島県呉港において鉱滓(こうさい)及び山口県平生港において珪石(けいせき)を積載し,山口県徳山下松港で揚げ荷する航海に従事しており,呉港からは5時間及び平生港からは2時間を要した。また,操舵室中央に舵輪などを組み込んだ操舵スタンド,同スタンド左舷側にレーダー2台,同スタンド右舷側に主機操縦レバー及び舵輪後方には茶棚が設置され,自動操舵装置は装備されていたが,居眠り防止装置は装備されていなかった。そして,舵輪から手を離しても波などがなければ,しばらくは直進することができた。

3 事実の経過
 新吉祥丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,船首0.65メートル船尾2.50メートルの喫水で,平成16年11月23日04時00分徳山下松港を発し,呉港に向かった。
 ところで,A受審人は,徳山下松港近くに居住しており,午前中に同港を発航して呉港及び平生港に至り,午後には帰航する航海を繰り返しているので,1箇月に20日ばかりは自宅で就寝することができ,同月22日にも自宅で19時30分に就寝し,翌23日02時00分に起床して発航したものであった。
 A受審人は,出港操船に引き続いて大畠瀬戸通航終了までの予定で単独の船橋当直に就き,上関海峡を経由する予定で山口県沿岸を東行した。
 05時57分A受審人は,周防筏瀬灯標から212度(真方位,以下同じ。)400メートルの地点で,針路を長島北端と亀岩灯標の間に向首する095度に定め,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で,舵輪の前に立って手動操舵によって進行した。
 06時04分A受審人は,亀岩灯標から131度250メートルの地点に達したとき,針路を116度に転じ,10分後には上関海峡に向けて右転する予定で続航中,長島北端と亀岩灯標間の狭い水路を抜けたうえ,同海峡からの反航船もいなかったことから気が緩んで眠気を催すようになったが,睡眠不足や疲労はなかったことから,まさか居眠りすることはないものと思い,外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった。
 A受審人は,後方の茶棚に寄りかかっていつしか居眠りに陥り,06時14分ころには転針予定地点に達したことに気付かず,針路を転じることなく陸岸に向首したまま進行し,06時18分室津港昭和町防波堤灯台から007度600メートルの地点において,新吉祥丸は,原針路,原速力で,室津港内の陸岸に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力1の北風が吹き,潮候はほぼ高潮時であった。
 乗揚の結果,船首船底に破口及び凹損を生じ,救援船によって引き降ろされ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 居眠り防止装置が装備されていなかったこと
2 単独で船橋当直に就いたこと
3 気が緩んで眠気を催したこと
4 睡眠不足や疲労はなかったことから,まさか居眠りすることはないものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと
5 舵輪後方の茶棚に寄りかかって居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,眠気を催した際,居眠り運航の防止措置を十分にとっておれば,居眠りに陥ることはなく,予定の転針を行って乗揚は防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,気が緩んで眠気を催した際,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,舵輪後方の茶棚に寄りかかって居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
 また,居眠り防止装置が装備されていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項であるが,本件後装備された。
 A受審人が単独で船橋当直に就いたことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,山口県上関海峡に向けて航行する際,居眠り運航の防止措置が不十分で,室津港内の陸岸に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独で立った姿勢で船橋当直に就いて山口県上関海峡に向けて航行中,同海峡からの反航船がいなかったことから気が緩んで眠気を催した場合,外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,睡眠不足や疲労はなかったことから,まさか居眠りすることはないものと思い,外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,舵輪後方の茶棚に寄りかかって居眠りに陥り,予定の転針ができず,室津港内の陸岸に向けて進行して乗揚を招き,船首船底に破口及び凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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