(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月16日04時50分
千葉港葛南区
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第五春日丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
57.09メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
3 事実の経過
第五春日丸(以下「春日丸」という。)は,船尾船橋型貨物船で,A受審人ほか2人が乗り組み,鋼材623トンを載せ,沖で荷役待機する目的で,船首2.4メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成16年2月16日04時30分千葉港葛南区市川ふ頭B岸壁を発し,掘下げ済水路(以下「市川水路」という。)経由で港外の予定錨地に向かった。
ところで,市川水路は,葛南区の江戸川河口沖合に広がる浅瀬を150度(真方位,以下同じ。)方向に水深6.5メートルまで掘り下げて整備された長さ約2.4海里,幅約240メートルの水路で,その南端付近に水路出入口を示す千葉港市川第1号灯浮標(以下,灯浮標の名称については「千葉港市川」の冠名を省略する。)及び第2号灯浮標が,同水路の中間部両側に第3号から第8号までの各灯浮標が順に設置され,更に北西端付近に第9号仮設灯浮標と西第2号灯浮標,北東端に第10号仮設灯浮標がそれぞれ設けられていた。
そして,A受審人は,市川水路の側方に浅瀬が存在することを承知していたので,それまで同水路の航行にあたっては,霧など視界不良時にはレーダーやGPSプロッターを使うものの,主に肉眼により,左右各舷対をなす市川水路の各灯浮標を目視しながらこれに沿って通航していた。
発航したA受審人は,視界が良かったので,GPSプロッターを起動したものの,2台あるレーダーをいずれも休止状態としたまま,単独の操船にあたって港奥を東行後,南下して間もなく市川水路に入航した。
04時46分A受審人は,千葉港葛南市川灯台(以下「市川灯台」という。)から081度1,610メートルの地点で,針路を第7号,第8号両灯浮標の間に向く149度に定めて自動操舵とし,機関を半速力前進にかけ,8.0ノットの対地速力により進行した。
定針後,A受審人は,前方にある市川水路の各灯浮標の灯火が陸岸の明かりや灯火など後背の灯火群に紛れるようになり,04時48分市川灯台から095度1,850メートルの地点に至ったとき,同水路の各灯浮標の灯火を識別することができなくなったが,市川水路東側に寄り過ぎたとの不安から右転すれば同水路に沿うことができると思い,直ちにGPSプロッターによるなど船位の確認を十分に行うことなく,自動操舵のまま針路を170度に転じ,機関を中立にしたものの,前進行きあしをもって続航した。
こうして,A受審人は,市川水路から外れて同水路西側の浅瀬に向首進行し,04時50分市川灯台から105度1,980メートルの地点において,春日丸は,船首を170度に向け,約4.0ノットの残存速力で乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力4の北西風が吹き,視界は良好で,潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果,船底外板に擦過傷を生じ,のちタグボートの援助を得て引き降ろされた。
(原因)
本件乗揚は,夜間,千葉港葛南区において,市川水路を南下中,船位の確認が不十分で,同水路西側の浅瀬に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,千葉港葛南区において,市川水路の各灯浮標の灯火を目視しながらこれに沿って南下中,後背の灯火群により同水路の各灯浮標の灯火を識別することができなくなった場合,市川水路から外れることのないよう,直ちにGPSプロッターによるなど船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,市川水路東側に寄り過ぎたとの不安から右転すれば同水路に沿うことができると思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,市川水路西側の浅瀬に向かって右転進行して乗揚を招き,船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。