(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月15日01時45分
北海道厚岸湾大黒島南岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八孝翔丸 |
総トン数 |
4.9トン |
登録長 |
11.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
213キロワット |
3 事実の経過
第十八孝翔丸(以下「孝翔丸」という。)は,船体のほぼ中央部に操舵室を設けた,さんま流し網漁業などに従事するFRP製漁船で,A受審人(平成10年5月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,さんま流し網漁の目的で,船首0.7メートル船尾1.6メートルの喫水をもって,平成16年7月14日06時00分北海道厚岸港を発し,同港南南東方30海里ばかりの漁場に向かった。
ところで,孝翔丸は,ほとんど日帰りでさんま流し網漁を行い,同月10日から厚岸港沖合を漁場として連日の操業を行っていた。
A受審人は,休息を入港時に数時間とるほか,沖で投網したのち揚網開始までの間に1時間ばかりとることもあったが,漁場往復の船橋当直を単独で行っていたので疲労が蓄積した状況にあった。
09時00分A受審人は,漁場に到着して操業を開始し,3回目の投網後に1時間ばかり仮眠をとり,21時00分網を揚げ,さんま120キログラムを漁獲したあと,漁場移動のため魚群探索を行いながら北東進した。
23時30分A受審人は,厚岸灯台から113度(真方位,以下同じ。)22.0海里の地点で,魚群探索を止め,操業を切り上げて帰途に就くこととし,単独の船橋当直に就き,針路をGPSプロッタに入力していた厚岸湾入口の地点に向く290度に定め,機関を毎分回転数2,000にかけ,折からの風潮流により3.5度右方に圧流されながら,9.7ノットの対地速力で,操舵室後部の寝台に腰を下ろした姿勢で,自動操舵により進行した。
翌15日01時00分A受審人は,厚岸灯台から112度7.5海里の地点に至り,右方に圧流されていることに気付かないまま,転針予定地点となる前示入力地点まで8海里ばかりとなったことをGPSプロッタにより知って安堵し,間もなく連日の操業による疲労の蓄積により,眠気を覚えたが,もうすぐ入港するのでそれまで我慢できるものと思い,直ちに立ち上がって見張りに当たるとともに休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,寝台に腰を下ろしたまま続航した。
こうして,孝翔丸は,A受審人がいつしか居眠りに陥って居眠り運航となり,大黒島に向けて圧流されたまま進行し,01時45分厚岸灯台から075度500メートルの大黒島南岸に,原針路原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は霧で風力3の南南西風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果,孝翔丸は船底外板に亀裂を伴う擦過傷並びに推進器翼及び舵柱などに曲損を生じたが,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,夜間,北海道厚岸港南東方沖合において,同港に向け帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,大黒島南岸に向けて圧流されたまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,北海道厚岸港南東方沖合において,単独の船橋当直に就き同港に向け帰航中,連日の操業による疲労の蓄積により,眠気を覚えた場合,直ちに立ち上がって見張りに当たるとともに休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし,同受審人は,もうすぐ入港するのでそれまで我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,大黒島に向けて圧流されたまま進行していることに気付かず,同島南岸への乗揚を招き,孝翔丸の船底外板に亀裂を伴う擦過傷並びに推進器翼及び舵柱などに曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。