日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年那審第23号
件名

貨物船かりゆし灯浮標衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年12月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平野研一,加藤昌平,安藤周二)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:かりゆし船長 海技免許:一級海技士(航海)

損害
かりゆし・・・左舷前部外板に擦過傷
浦賀水道航路中央第3号灯浮標・・・鋼製保護枠などに曲損,浮体部に擦過傷

原因
操船不適切(追越しを中止しなかったこと)

主文

 本件灯浮標衝突は,追越しを中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月15日22時22分
 東京湾浦賀水道航路
 (北緯35度16.4分 東経139度45.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船かりゆし
総トン数 9,943トン
全長 154.07メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 14,600キロワット
(2)設備及び性能等
 かりゆしは,平成14年8月に進水し,限定近海区域を航行区域として京浜港東京区と沖縄県那覇港間の定期航路に就航する,全通二層甲板型の鋼製ロールオン・ロールオフ貨物船で,右舷船首部及び同舷船尾部にランプウェイを備えており,船首端から約31メートルに操舵室を配置し,同室にはレーダー2台,自動衝突予防援助装置及びGPSを設置していた。また,1機1軸の固定ピッチプロペラで1舵を有し,推力16トンのバウスラスタ及び同13トンのスタンスラスタを装備し,航海速力及び港内全速力は,それぞれ機関回転数毎分380の21.5ノット及び同230の13.7ノットであった。
 海上公試運転成績書によると,全速力で航走中に舵角35度をとったとき,最大縦距,最大横距及び90度回頭に要する時間は,右旋回で460メートル,530メートル及び57秒,左旋回で420メートル,450メートル及び55秒であった。また,23.0ノットの前進速力で航走中,機関停止発令から船速5.0ノットとなるまでに要する時間及び航走距離は,それぞれ5分55秒及び2,250メートルであった。

3 事実の経過
 かりゆしは,A受審人ほか12人が乗り組み,雑貨2,200トンを積載し,船首6.2メートル船尾6.7メートルの喫水をもって,平成16年10月15日20時25分京浜港東京区を発し,那覇港に向かった。
 A受審人は,船橋当直を航海士3人による輪番制とし,各直に甲板手1人を配し,京浜港を出港する際には,自らが出港操船を行うほか,東京湾を南下して浦賀水道航路を出航するまで操船指揮を執ることとしていた。
 出港したのち,A受審人は,三等航海士を見張りに就かせ,甲板手1人を操舵員として配置し,機関長を船橋で機関当直に当たらせ,東京湾を南下して浦賀水道航路入航を控え,21時56分機関用意とした。
 22時02分A受審人は,浦賀水道航路中央第6号灯浮標(以下,灯浮標の名称については,「浦賀水道航路」を省略する。)の西方200メートルとなる,観音埼灯台から339度(真方位,以下同じ。)4.7海里の地点で,同航路に入航し,針路を145度に定め,機関を港内全速力前進にかけ,航路の区間の法定速力に調整したが,折からの南東流に乗じて同速力を超える12.8ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 定針したのち,A受審人は,レーダーを3海里及び0.5海里レンジにそれぞれ切り替えて三等航海士を前路の見張りに当たらせ,右舷船首方1.0海里に小型で速力の遅い同航船(以下「a船」という。)を,同船の右舷船尾方0.2海里に,a船より大型で速力のやや速い同航船(以下「b船」という。)をそれぞれ認め,また,第3海堡の撤去工事が行われていたことから,両船の左舷側を追い越すこととして航路中央寄りを左方に1度圧流されながら,144度の進路で続航し,22時16分観音埼灯台から003度2.0海里の地点に達したとき,a船の左舷側を220メートル離して追い越した。
 22時17分A受審人は,観音埼灯台から009度1.8海里の地点に達したとき,右舷船首37度500メートルとなったb船が斜航しながら次第に左方に寄ってくる状況を認め,そのまま進行すると中央第3号灯浮標南西方至近で,同船及び同灯浮標と著しく接近するおそれがあったが,速力差が大きいので,何とか替わせるものと思い,速やかに減速するなど,追越しを中止することなく進行した。
 22時17分半A受審人は,中央第3号灯浮標をほぼ正船首方0.9海里に見るようになっていたところ,東京湾海上交通センター(以下「東京マーチス」という。)から,航路中央に寄り過ぎている旨の注意を受けたので,右方に寄せるため,右舵7度をとって針路を4度右に転じて149度とし,その後b船の動静を見守りながら続航した。
 22時19分A受審人は,次第に接近するb船との距離を確保するため,機関を半速力前進としたが,同船が右舷船首方間近に迫り,衝突の危険があることを認め,22時20分同船との衝突を避けるため,微速力前進に,続いて極微速力前進に減速して進行し,22時21分半左舵一杯にとって続航中,22時22分かりゆしは,観音埼灯台から040.5度2,380メートルの地点において,b船との衝突は免れたが,船首が140度に向いて8.0ノットの速力となったとき,左舷前部が中央第3号灯浮標に衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の北東風が吹き,潮侯は下げ潮の末期で付近には南東方に流れる微弱な潮流があった。
 A受審人は,衝突と同時に機関を停止し,その後,東京マーチスから中央第3号灯浮標との衝突について確認のため,指定海域への移動を求められ,浦賀水道航路を出航し,同航路南西方沖合で海上保安部の実況見分を受けたのち,目的地に向かった。
 衝突の結果,かりゆしは,左舷前部外板に擦過傷を,中央第3号灯浮標は,鋼製保護枠などに曲損及び浮体部に擦過傷をそれぞれ生じた。

(本件発生に至る事由)
1 自船より遅い同航船2隻が航路を先航していたこと
2 第3海堡の撤去工事が行われていたこと
3 潮流の影響で左方に1度圧流されていたこと
4 航路の区間の法定速力を超える速力で航行したこと
5 a船の左舷側を追い越したこと
6 b船が斜航して左方に寄ってきたこと
7 追越しを中止しなかったこと
8 航路中央に寄り過ぎていたこと
9 右舵7度をとって4度右転したこと
10 中央第3号灯浮標手前で機関を使用し,左舵一杯にとったこと

(原因の考察)
 本件は,かりゆしが,夜間,浦賀水道航路において,航路中央に寄って南下中,先航する同航船が斜航しながら左方に寄ってくる状況となった際,そのまま進行すると中央第3号灯浮標南西方至近で,同船及び同灯浮標と著しく接近するおそれがあったから,追越しを中止していたなら,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,追越しを中止しなかったことは,本件発生の原因となる。
 航路の区間の法定速力を超える速力で航行したこと,航路中央に寄り過ぎていたこと,右舵7度をとって4度右転したこと及び中央第3号灯浮標手前で機関を使用し,左舵一杯にとったことは,いずれも本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 自船より遅い同航船2隻が航路を先航していたこと,第3海堡の撤去工事が行われていたこと,潮流の影響で左方に1度圧流されていたこと,b船が斜航して左方に寄ってきたこと及びa船の左舷側を追い越したことは,いずれも本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件灯浮標衝突は,夜間,浦賀水道航路において,航路中央に寄って南下中,先航する同航船が斜航しながら左方に寄ってくる状況となった際,追越しを中止しないまま,同船との衝突を避けるうち,中央第3号灯浮標に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,浦賀水道航路において,航路中央に寄って南下中,先航する同航船が斜航しながら左方に寄ってくる状況を認めた場合,そのまま進行すると中央第3号灯浮標南西方至近で,同船及び同灯浮標と著しく接近するおそれがあったから,速やかに減速するなど,追越しを中止すべき注意義務があった。しかし,同人は,速力差が大きいので,何とか替わせるものと思い,追越しを中止しなかった職務上の過失により,機関を使用し,左舵一杯として同船との衝突を避けるうち,中央第3号灯浮標に著しく接近して同灯浮標との衝突を招き,かりゆしの左舷前部外板に擦過傷を,中央第3号灯浮標の鋼製保護枠などに曲損及び浮体部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION