(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年7月3日06時08分
関門港若松区
(北緯33度55.0分 東経130度49.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート美代丸 |
登録長 |
9.94メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
169キロワット |
3 事実の経過
美代丸は,関門港若松区北湊泊地を係留地として,船体後部に操舵室を有する漁船型の軽合金製モーターボートで,主として響灘におけるレジャーとしての魚釣りに使用され,平成13年3月交付の四級小型船舶操縦士の免状を受有するA受審人が1人で乗り組み,魚釣りの目的で,船首0.07メートル船尾1.00メートルの喫水をもって,平成17年7月3日06時00分同泊地を発し,響灘水路を経由することとして,響泊地北側付近の釣場に向かった。
ところで,北湊泊地を定係地とするモーターボートの多くは,若松区第4区の,若松航路西側境界線とその西側の陸岸の間を航行して同泊地に出入航していた。そして,A受審人は,同泊地を基地として約30年間にわたり魚釣りを行っていた。
発航後,A受審人は,操舵室右舷側に立った姿勢で操船を行い,06時07分少し過ぎ北湊泊地南西端角から072度(真方位,以下同じ。)1,080メートルの地点で,東方に向けて7.0ノットの対地速力で進行していたとき,若松航路第14号灯浮標(以下「第14号灯浮標」という。)を左舷船首20度170メートルばかりに認めるようになり,このとき,左舷船首50度700メートルばかりの,若松航路西側境界線とその西側の陸岸との間に南下してくる僚船を認めたので挨拶を交わそうと思い,電気ホーンを吹鳴するとともに操舵室右舷側の窓から手を振りながら,同灯浮標を右舷側に替わして北上するつもりで,徐々に左転を開始し,同時08分少し前北湊泊地南西端角から070度1,190メートルの地点で,針路を010度に定め,同じ速力で,手動操舵により続航した。
定針後,A受審人は,第14号灯浮標に向首接近する態勢となっていたが,前示僚船の動向に気を奪われ,前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず進行中,06時08分北湊泊地南西端角から067度1,225メートルの地点において,美代丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船首部が第14号灯浮標の灯火櫓に衝突した。
当時,天候は曇で風力1の南風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は,衝突時軽い衝撃を受けたが,浮流物にでも衝突したのだろうと思い,第14号灯浮標と衝突したことに気付かず続航し,後日,同灯浮標への衝突船舶を探していた海上保安官によりこのことを知らされ,事後の措置にあたった。
衝突の結果,美代丸は,右舷船首部に擦過損を生じ,第14号灯浮標は,灯火櫓の表示板及び手摺に曲損を生じた。
(海難の原因)
本件灯浮標衝突は,関門港若松区第4区において,釣場に向かう目的で航路標識設置水域付近を北上中,前路の見張りが不十分で,第14号灯浮標に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,関門港若松区第4区において,釣場に向かう目的で航路標識設置水域付近を北上する場合,航路標識を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,僚船の動向に気を奪われ,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,第14号灯浮標に向首進行して衝突を招き,美代丸の右舷船首部に擦過損を,同灯浮標の灯火櫓の表示板及び手摺に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。