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平成17年門審第79号
件名

漁船第一安成丸護岸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年12月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(尾崎安則)

副理事官
三宅和親

受審人
A 職名:第一安成丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
第一安成丸・・・球状船首を凹損,船首上部を圧壊,甲板長が左鎖骨骨折
護岸・・・スリットケーソンを欠損及び割損

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件護岸衝突は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月15日19時00分
 関門港六連島区
 (北緯33度59.4分 東経130度53.4分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一安成丸
総トン数 75トン
登録長 27.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 511キロワット

3 事実の経過
 第一安成丸(以下「安成丸」という。)は,従業区域を乙区域とし,沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型で自動操舵装置を装備していない右回転単暗車の鋼製漁船で,A受審人ほか9人が乗り組み,操業の目的で,船首2.4メートル船尾4.2メートルの喫水をもって,平成17年3月11日01時25分基地とする山口県下関漁港を同型船の第二安成丸とともに発し,福岡県沖ノ島北方15海里ばかりの漁場に至って操業を行ったのち,同月15日14時ごろ自船の揚網を終え,帰途に就くこととした。
 ところで,安成丸の操業形態は,同船を主船としてB丸を従船とする2そう引きで,1船が投網して両船で引き,投網開始から約3時間後に投網船側で揚網したのち,続いて他の1船が投網する作業を,昼夜の別なく1日に8,9回繰り返し,1航海の操業日数が4,5日で,その漁獲物の水揚げを下関漁港で行うものであった。
 A受審人は,漁ろう長を兼務していたことから,日中の操業では自ら操船に当たりながら従船の漁ろう操船を指揮し,夜間に行われる4回の操業では各揚網から投網完了までの操船等を行い,曳網中の漁ろう操船の指揮を従船の船長に任せ,自船の操船を甲板員に行わせるなどして,その間にそれぞれ1時間半ずつ休息を取っていたが,月初めに2日間の休漁日があったほかは連続して3航海行い,前2回の往路は甲板員に船橋当直を行わせるなどしたものの,各復路の同当直をいずれも自ら行ったうえ,水揚げ時における休息時間が2時間ないし3時間で,終了後すぐに出港していたので,疲労が蓄積した状態にあった。
 そして,A受審人は,この度の漁場発進に際し,疲れを感じていたものの,漁獲物が多かったことから,船橋当直を行わせている甲板員を漁獲物の選別等の甲板作業に就かせ,自らが単独で同当直に当たることとした。
 14時30分A受審人は,沖ノ島灯台から355度(真方位,以下同じ。)14.7海里の漁場を発進し,機関を毎分回転数780の全速力前進にかけ,針路を山口県蓋井島北方に向く121度に定め,11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,従船から約3海里離れて後続し,操舵室中央にある舵輪の船尾側に立って手動操舵で進行した。
 17時00分A受審人は,甲板作業を終えて昇橋した甲板長と交代し,いったん降橋して食事をとったのち,同時30分再び昇橋して立直し,操舵室にとどまっていた甲板長と雑談していたところ,18時10分ごろ同甲板長が操業の疲れから同室右舷側のいすに腰掛けたまま居眠りを始めたので会話の相手を失い,覚醒度が低下する状況となった。
 18時15分A受審人は,蓋井島灯台から052度2.3海里の地点に達したとき,針路を関門航路第3号灯浮標に向首する159度に転じ,同じ速力で水島水道を通航した。
 18時34分A受審人は,蓋井島灯台から122度3.7海里の地点に差しかかったとき,操業の疲れと長時間にわたる当直の疲れに加え,付近に航行の支障となる他船が存在しなかったことから,強い眠気を感じ始めたが,港まで近いので入港するまでは辛抱できるだろうと思い,操舵室で眠っていた甲板長を起こすなり,休息中の他の乗組員を昇橋させるなりして2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
 こうして,安成丸は,A受審人が両手で舵輪を握って舵をほぼ中央としたまま,意識がもうろうとした状態となり,その後わずかに左転しながら,関門航路東側の関門港六連島区で築造中の下関港(新港地区)沖合人工島(以下「人工島」という。)に向かって進行する状況となったが,同受審人が舵輪を握ったまま睡眠状態に入っており,また,甲板長も眠っていたので,2人ともこの状況に気付かず,修正針路がとられず,わずかに左転するまま,同じ速力で続航した。
 18時59分半少し前A受審人は,人工島の外周護岸北西面から250メートル手前の,六連島灯台から052度1.3海里の地点に差しかかったとき,尿意を催して目を覚まし,前方を一見したものの,このとき,同外周護岸から約300メートル離してほぼ400メートル間隔で並べられた,同期点滅する黄色標識灯の列を既に航過しており,前方近くに明かりなどを認めず,また,コンパスで船首方位を確認しなかったことから,障害物に向かっていることに気付かないまま操舵室を離れて左舷側上甲板に降り,小用を足して操舵室に戻る途中,19時00分六連島灯台から057度1.3海里の地点において,安成丸は,原速力のまま153度を向き,同島外周護岸の北西面西端部に衝突した。
 当時,天候は曇で風はほとんどなく,日没時刻が18時24分で視程は約8海里あり,潮候は下げ潮の末期であった。
 護岸衝突の結果,安成丸は,球状船首を凹損したほか,船首上部を圧壊したが,自力で帰港してのち修理され,人工島外周護岸は,スリットケーソンに欠損及び割損を生じ,甲板長が20日間の入院を要する左鎖骨骨折を負った。

(海難の原因)
 本件護岸衝突は,夜間,漁場から下関漁港に向け,山口県六連島北方沖合を帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,関門港六連島区で築造中の人工島に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,漁場から下関漁港に向け,六連島北方沖合を帰航中,連日の操業の疲れなどから強い眠気を覚えた場合,居眠り運航とならないよう,操舵室で眠っていた甲板長を起こすなり,休息中の他の乗組員を昇橋させるなりして2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,港まで近いので入港するまでは辛抱できるだろうと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,関門港六連島区で築造中の人工島に向かっていることに気付かず,修正針路がとられないまま進行して同島の外周護岸に衝突する事態を招き,安成丸の球状船首を凹損させたほか船首上部を圧壊させ,同護岸のスリットケーソンに欠損及び割損を生じさせ,同船甲板長の左鎖骨を骨折させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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