(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月14日04時25分
来島海峡航路
(北緯34度09.4分 東経132度55.4分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船ミヤ |
貨物船リダ |
総トン数 |
1,205トン |
952トン |
全長 |
65.30メートル |
66.65メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,213キロワット |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
ア ミヤ
ミヤは,1981年に建造された船尾船橋型の貨物船で,船橋前方に貨物倉1個を有し,操舵室には,中央に操舵スタンドが,同スタンドの左舷側に隣接して2号及び1号レーダーが,右舷側に主機遠隔操縦装置がそれぞれ配置され,ジャイロコンパス及び汽笛などが装備されていた。
ミヤは,月に2ないし3航海の頻度で,中華人民共和国海門港と大阪港間の航海に従事し,専ら,往航時はコークスを,復航時はスクラップをそれぞれ輸送していた。
イ リダ
リダは,1983年に建造された船尾船橋型の貨物船で,船橋前方に貨物倉2個を有し,操舵室には,中央に操舵スタンドが,同スタンドの左舷側にGPSプロッター,レーダー及びVHFが,右舷側にGPSプロッター,主機遠隔操縦装置,レーダー及びVHFがそれぞれ配置され,自動操舵装置はなかったがジャイロコンパス及び汽笛などが装備されていた。
リダは,専ら,中華人民共和国各港及び本邦各港間の航海に従事し,往航時には沙石や石炭を,復航時にはスクラップ等をそれぞれ輸送していた。
3 事実の経過
ミヤは,A指定海難関係人及びB指定海難関係人ほかいずれも中華人民共和国の国籍を有する6人が乗り組み,スクラップ1,135トンを積載し,船首2.95メートル船尾5.00メートルの喫水をもって,平成16年5月13日14時40分大阪港を発し,来島海峡経由の予定で中華人民共和国海門港に向かった。
A指定海難関係人は,船橋当直を,01時から05時まで及び13時から17時までをB指定海難関係人が,05時から09時まで及び17時から21時までを一等航海士が,09時から13時まで及び21時から翌01時までを自らがそれぞれ受け持つ4時間3直制で,各直に6時間2交替で当直に入る甲板手1人を配した2人1組の輪番制とし,自らの船橋当直以外に入出港時,視界制限時,狭水道通航時及び船舶輻輳時等,必要に応じて昇橋し,操船指揮を執っていた。
A指定海難関係人は,同日21時ころ備讃瀬戸東航路中央第6号灯浮標付近において,前直の一等航海士と交替して船橋当直に当り,翌14日00時35分昇橋してきたB指定海難関係人を見張りに当たらせ,引き続き操船指揮を執って03時20分来島海峡航路に入り,折から逆潮時であったので西水道を通過した。
A指定海難関係人は,小島東灯標を左舷側0.2海里に見て左転し,04時05分桴磯灯標から102度(真方位,以下同じ。)2.0海里の地点において,針路を306度に定め,機関を全速力前進にかけ,潮流に抗して9.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,法定の灯火を表示し,できる限り四国側に近寄って,手動操舵により進行した。
04時13分A指定海難関係人は,桴磯灯標から074度1.0海里の地点に差し掛かったとき,3海里レンジとし中心を後方にオフセンターして作動させていた1号レーダーにより,左舷船首49度3.1海里のところにリダの映像を初認し,その後同船が来島海峡航路西口に向け北上するのを認めた。
04時15分A指定海難関係人は,桴磯灯標から058度0.9海里の地点に達したとき,来島海峡航路の最狭部を通過し終えたので当直をB指定海難関係人に任せることとし,同人に航路に沿って注意して航行するように指示しただけで,視界が制限されたときには直ちに報告するように指示することなく,同航路内での操船指揮を維持せずに降橋した。
B指定海難関係人は,レーダーでリダの動静を監視しながら続航し,04時17分桴磯灯標から038度0.8海里の地点に差し掛かったとき,航路に沿って徐々に左転を開始し,その後04時18分ごろ霧のため急激に視程が40メートルほどに悪化し,視界が制限される状況となったが,このことをA指定海難関係人に報告せず,霧中信号を行うことも,安全な速力とすることもなく,8.0ノットの速力で進行した。
04時21分B指定海難関係人は,桴磯灯標から358度0.8海里の地点に達し,船首が267度を向いたとき,リダの映像が左舷船首4度1.2海里となり,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを止めることもなく続航し,04時22分桴磯灯標から348度0.8海里の地点に差し掛かったとき,針路を245度として進行した。
そのころ,A指定海難関係人は,船窓から外を見て視界が悪化していることに気付いて急いで昇橋し,04時24分少し過ぎレーダーで船首至近に迫ったリダの映像を認めて衝突の危険を感じ,左舵一杯を令したが効なく,04時25分桴磯灯標から321度1,600メートルの地点において,ミヤは,220度に向首したとき,原速力で,その右舷中央部にリダの船首が後方から80度の角度で衝突した。
当時,天候は霧で風力1の南東風が吹き,視程は約40メートルで,潮候は下げ潮の中央期にあたり,付近には約1ノットの東流があった。
また,リダは,C指定海難関係人及びD指定海難関係人ほかいずれも中華人民共和国の国籍を有する9人が乗り組み,石材1,600トンを積載し,船首4.20メートル船尾4.60メートルの喫水をもって,同月10日16時00分(現地時刻)中華人民共和国バイチュアン港を発し,来島海峡経由の予定で岡山県片上港に向かった。
C指定海難関係人は,船橋当直を,01時から05時まで及び13時から17時までをD指定海難関係人が,05時から09時まで及び17時から21時までを一等航海士が,09時から13時まで及び21時から翌01時までを自らがそれぞれ受け持ち,各直に甲板手1人を配した2人1組の4時間3直制とし,自らの船橋当直以外に入出港時,視界制限時,狭水道通航時及び船舶輻輳時等,必要に応じて昇橋し,操船指揮を執っていた。
同月14日00時50分C指定海難関係人は,伊予灘の青島北方沖合で,次直のD指定海難関係人に,視界が制限されたときは直ちに報告するように指示することも,来島海峡航路西口に近づいたときに報告するように指示することもなく船橋当直を引き継ぎ,自室に戻って休息した。
D指定海難関係人は,甲板手を操舵に就け,安芸灘を東行し,04時05分桴磯灯標から244度3.4海里の地点で,針路を040度に定め,機関を全速力前進にかけ,潮流に乗じて10.3ノットの速力で,法定の灯火を表示し,来島海峡航路西口に向けて進行した。
04時10分D指定海難関係人は,桴磯灯標から251度2.6海里の地点に差し掛かったとき,霧のため急激に視程が40メートルほどに悪化し,視界が制限される状況となったが,このことをC指定海難関係人に報告せず,霧中信号を行うことも,安全な速力とすることもなく続航した。
04時14分D指定海難関係人は,桴磯灯標から262度2.0海里の地点に達したとき,3海里レンジとして作動させていた左舷側のレーダーにより,右舷船首37度2.9海里のところにミヤの映像を初認し,その後同船が来島海峡航路の四国寄りを,航路に沿って西行するのを認めた。
04時21分D指定海難関係人は,来島海峡航路西口の手前0.3海里で桴磯灯標から297度1.4海里の地点に差し掛かったとき,同航路西口に近づいたことをC指定海難関係人に報告せず,汽笛により長音を2回吹鳴したのち針路を083度に転じ,同航路をできる限り大下島側に近寄って航行することなく進行した。
転針したときD指定海難関係人は,ミヤの映像が正船首1.2海里となり,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
04時24分少し過ぎD指定海難関係人は,レーダーで船首至近に迫ったミヤの映像を認めて衝突の危険を感じ,右舵一杯としたが効なく,リダは140度に向首したとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
C指定海難関係人は,衝突の少し前に昇橋したが,操船指揮を執る間もなく衝突し,事後の措置にあたった。
衝突の結果,ミヤは,右舷中央部外板に破口を生じて浸水し,のち沈没して全損となり,リダは,船首部外板に破口及び凹損等を生じるとともに,左舷錨が水没した。
(航法の適用)
本件は,夜間,東流時の来島海峡航路内において,西行中のミヤと東行中のリダが衝突した事件であり,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の特別法である,海上交通安全法(以下「海交法」という。)に定める航路内で発生しているので,海交法が適用される。
ミヤは,西水道を通過後,航路をできる限り四国側に近寄って航行していたものと認められるが,リダは,中水道に向け来島海峡航路の四国側から入航したのであるから,航路をできる限り大下島側に近寄って航行していたものとは認められない。
また,当時霧のため視程が約40メートルの視界制限状態で,両船は互いに他の船舶の視野の内になかったので,予防法第19条が適用されることとなり,同法40条により海交法第3条は適用されない。
以上のことから,本件は海交法第20条及び予防法第19条を適用するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 ミヤ
(1)A指定海難関係人が,当直者に対する視界制限状態となったときの報告について指示しなかったこと
(2)A指定海難関係人が,来島海峡航路内での操船指揮を維持せずに降橋したこと
(3)B指定海難関係人が,視界制限状態になったことを船長に報告しなかったこと
(4)霧中信号を行わなかったこと
(5)安全な速力としなかったこと
(6)針路を保つことのできる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったこと
2 リダ
(1)C指定海難関係人が,当直者に対する視界制限状態となったときの報告について指示しなかったこと
(2)C指定海難関係人が,当直者に対する来島海峡航路西口に接近したときの報告について指示しなかったこと
(3)D指定海難関係人が,視界制限状態になったことを船長に報告しなかったこと
(4)霧中信号を行わなかったこと
(5)安全な速力としなかったこと
(6)D指定海難関係人が,来島海峡航路西口に接近したことを船長に報告しなかったこと
(7)リダができる限り大下島側に近寄って航行しなかったこと
(8)針路を保つことのできる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったこと
3 気象等
(1)衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたこと
(2)付近に約1ノットの東流があったこと
(原因の考察)
ミヤが,霧のため視界制限状態となった東流時の来島海峡航路を西行中,リダと著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止めていたならば,本件は発生していなかったものと認められる。
また,A指定海難関係人が,当直者に対する視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底していれば,B指定海難関係人から同報告を受けられ,自ら操船指揮を執ることによって,本件発生を防止できたものと認められる。
したがって,A指定海難関係人が,当直者に対する視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底していなかったこと,及び,B指定海難関係人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと,並びに,ミヤが,リダと著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
A指定海難関係人が,来島海峡航路内での操船指揮を維持せずに降橋したこと,並びに,ミヤが,安全な速力としなかったこと及び霧中信号を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
一方,リダが,霧のため視界制限状態となった東流時の来島海峡航路を中水道に向け東行中,できる限り大下島側に近寄って航行し,更に,ミヤと著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止めていたならば,本件は発生していなかったものと認められる。
また,C指定海難関係人が,当直者に対する視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底していれば,D指定海難関係人から同報告を受けられ,自ら操船指揮を執ることによって,本件発生を防止できたものと認められる。
したがって,C指定海難関係人が,当直者に対する視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底していなかったこと,D指定海難関係人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと,並びに,リダが,来島海峡航路をできる限り大下島側に近寄って航行しなかったこと及びミヤと著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
C指定海難関係人が,当直者に対する来島海峡航路西口に接近したときの報告についての指示を徹底していなかったこと,及び,D指定海難関係人が,来島海峡航路西口に接近したことを船長に報告しなかったこと,並びに,リダが,霧中信号を行わなかったこと,安全な速力としなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらのことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたこと,約1ノットの東流があったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,リダが来島海峡航路の航法を守り,両船が視界制限状態における航法を適切に遵守していれば本件は発生していなかったと認められることから,原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,霧のため視界制限状態となった来島海峡航路において,中水道に向け東行するリダが,できる限り大下島側に近寄って航行しなかったばかりか,ミヤと著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが,西行するミヤが,リダと著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。
リダの運航が適切でなかったのは,船長が,当直者に対する視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底していなかったことと,当直者が,同状態の報告及び措置を適切に行わなかったこととによるものである。
ミヤの運航が適切でなかったのは,船長が,当直者に対する視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底していなかったことと,当直者が,同状態の報告及び措置を適切に行わなかったこととによるものである。
(指定海難関係人の所為)
C指定海難関係人が,当直者に対する視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底していなかったことは,本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対して勧告しないが,今後当直者に対し,視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底し,安全運航に努めなければならない。
D指定海難関係人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと,来島海峡航路をできる限り大下島側に近寄って航行しなかったこと,及び,ミヤと著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対して勧告しないが,今後,来島海峡航路の航法を遵守し,視界制限状態となったときには適切な措置をとり,安全運航に努めなければならない。
A指定海難関係人が,当直者に対する視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底していなかったことは,本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対して勧告しないが,今後当直者に対し,視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底し,安全運航に努めなければならない。
B指定海難関係人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと,及び,リダと著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対して勧告しないが,視界制限状態となったときには適切な措置をとり,安全運航に努めなければならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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