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平成17年広審第89号
件名

漁船大海丸漁船征海丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年12月14日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一)

副理事官
鎌倉保男

受審人
A 職名:大海丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:征海丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
大海丸・・・右舷船首部を圧壊
征海丸・・・船首部外板に破口等の損傷

原因
大海丸・・・見張り不十分,行会い船の航法不遵守
征海丸・・・見張り不十分,行会い船の航法不遵守

裁決主文

 本件衝突は,大海丸と征海丸とが,ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき,大海丸が,見張り不十分で,針路を右に転じなかったことと,征海丸が,見張り不十分で,針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月8日06時30分
 鳥取県鳥取港
 (北緯35度32.5分 東経134度11.1分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船大海丸 漁船征海丸
総トン数 4.98トン 4.8トン
全長 14.15メートル  
登録長   11.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 169キロワット 161キロワット

3 事実の経過
 大海丸は,船体中央部に操舵室を,同室後方にローラー及びやぐらをそれぞれ有し,小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和55年7月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,操業に使用した漁網を洗浄する目的で,船首0.40メートル船尾1.45メートルの喫水をもって,平成16年11月8日06時15分鳥取県鳥取港第4防波堤南側の船だまりの係留地を発し,同港第1防波堤北西方沖合の海域に向かった。
 ところで,鳥取港は,鳥取県の中央部を北方に流れて日本海に注ぐ千代川の左岸西側に位置する港で,同港の東側には同川左岸に沿って南北方向に伸びる第2防波堤が,北側には北東方から南西方に伸びる第1防波堤が,西側には南北方向に伸びる第3防波堤及び同防波堤南端沖から同港西部の船だまりを囲む第4防波堤がそれぞれ築造され,第1防波堤東端と第2防波堤北端との距離300メートルの間に大型船が通航する東口が,第1防波堤西部と第3防波堤北端との距離60メートルの間に漁船などが行き来する西口がそれぞれ存在していた。
 A受審人は,操舵室後方に続く機関室囲壁後部中央に備えた舵輪のところに立って操船にあたり,06時25分鳥取港灯台から168度(真方位,以下同じ。)320メートルの地点で,針路を西口に向く008度に定め,機関を回転数毎分600にかけて1.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,日出近くで周囲がかなり明るく,視界も良好であったことから,航行中の動力船の灯火を表示しないまま,手動操舵により進行した。
 定針したあと,A受審人は,漁船が水揚げのために入港する時刻をすでに過ぎていたことや周囲に航行の妨げとなる他船を見かけなかったので,いつもより早く漁網洗浄の準備を始めることとし,06時28分舵輪から離れて後部甲板に赴き,網口を開いた長さ35メートルの漁網の一部を正船尾から海中に垂らしたところ,1.0ノットの速力となり,同じ針路のまま続航した。
 A受審人は,06時28分半鳥取港灯台から150度180メートルの地点に達したとき,右舷船首3度560メートルのところにほとんど真向かいに行き会う征海丸の灯火や白い船体を視認でき,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,周囲に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,征海丸の左舷側を通過できるよう,速やかに針路を右に転じることなく,後部甲板で下を向き漁網の股綱をローラー近くの金具にかけるなどの洗浄準備作業を続けて進行し,06時30分鳥取港灯台から140度150メートルの地点において,大海丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船首部が,征海丸の右舷船首部に,前方から4度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の東南東風が吹き,潮候は上げ潮の初期にあたり,視界は良好で,日出は06時32分であった。
 また,征海丸は,船体中央部に操舵室を,同室左舷側外壁にローラーを有し,小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,B受審人(昭和51年5月一級小型船舶操縦士(5トン限定)免許取得)が1人で乗り組み,操業に使用した漁網を洗浄する目的で,船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同日06時00分鳥取港第4防波堤南側の船だまりの係留地を発し,同港第1防波堤北方沖合に向かい,06時25分漁網の洗浄を終え,同防波堤西方沖合を発進して係留地に向け帰途についた。
 B受審人は,発進後舵輪後方に置いた木製台の上に立って操船にあたり,西口を経て防波堤内に入り,06時28分半鳥取港灯台から028度430メートルの地点で,針路を192度に定め,機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力で,航行中の動力船の灯火を表示し,手動操舵により進行した。
 定針したとき,B受審人は,左舷船首1度560メートルのところにほとんど真向かいに行き会う大海丸の白い船体を視認でき,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,この時刻に西口に向けて出港する漁船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,大海丸の左舷側を通過できるよう,速やかに針路を右に転じることなく,前示木製台から甲板に下り,同台の右舷端に右舷前方を向いて腰を掛け,右舷方100メートルばかり離れた第3防波堤との距離を確認したりするなど,専ら右舷方を注視して続航し,征海丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大海丸は,右舷船首部を圧壊し,征海丸は,船首部外板に破口等の損傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(海難の原因)
 本件衝突は,日出前の薄明時,鳥取県鳥取港において,大海丸と征海丸とが,ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあった際,大海丸が,見張り不十分で,針路を右に転じなかったことと,征海丸が,見張り不十分で,針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,日出前の薄明時,鳥取県鳥取港において,漁網の洗浄準備作業を行いながら同港西口に向けて北上する場合,ほとんど真向かいに行き会う態勢で接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,周囲に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する征海丸に気付かず,速やかに針路を右に転じることなく進行して同船との衝突を招き,大海丸の右舷船首部に圧壊を,征海丸の船首部外板に破口等の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,日出前の薄明時,鳥取県鳥取港において,同港西口を経て第4防波堤南側の船だまりに向け南下する場合,ほとんど真向かいに行き会う態勢で接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,この時刻に西口に向けて出港する漁船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する大海丸に気付かず,速やかに針路を右に転じることなく進行して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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