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平成17年広審第70号
件名

引船第八盛運丸引船列漁船豊福丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年12月13日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,吉川 進,島友二郎)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第八盛運丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:豊福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八盛運丸引船列・・・損傷ない
豊福丸・・・船首部圧壊

原因
第八盛運丸引船列・・・動静監視不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
豊福丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第八盛運丸引船列が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る豊福丸の進路を避けなかったことによって発生したが,豊福丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月16日17時30分
 瀬戸内海 備讃瀬戸
 (北緯34度20.7分 東経133度47.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 引船第八盛運丸 はしけ大VIII
総トン数 19トン  
全長 17.15メートル 42.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
船種船名 漁船豊福丸  
総トン数 4.5トン  
全長 14.35メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 15  
(2)設備及び性能等
ア 第八盛運丸
 第八盛運丸(以下「盛運丸」という。)は,平成15年10月に建造された航行区域を限定沿海区域とする鋼製引船で,自動操舵装置,レーダー,GPSプロッター及びモーターホーンを装備していた。
イ 大VIII(だいはち)
 大VIIIは,非自航の鋼製はしけで,船尾甲板に長さ3メートル幅5メートル高さ2メートルの居住区を有していた。
ウ 豊福丸
 豊福丸は,昭和50年10月に進水した底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室及び同室後部に揚網用リールが配置され,自動操舵装置及びGPSプロッターは装備されていたが,汽笛は装備されていなかった。

3 盛運丸引船列の状況
 盛運丸引船列は,盛運丸の船尾から直径50ミリメートル長さ58メートルの化学繊維製引索を延出して大VIIIを船尾に引き,盛運丸船尾から大VIII後端までの長さが100メートルであった。

4 豊福丸の操業方法
 豊福丸の操業方法は,長さ6メートルの小袋,長さ9メートルの袋網及び長さ15メートルの袖網で構成する漁網を,約45メートルの引索2本を延出して引くもので,投網に約10分,引網に2時間ないし5時間及び揚網に約30分を要するものであった。

5 事実の経過
 盛運丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,船首1.1メートル船尾2.9メートルの喫水をもって,スクラップ700トンを積載して船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水となった大VIIIを引いて盛運丸引船列を形成し,平成16年11月16日16時40分香川県多度津港を発し,大阪港に向かった。
 16時55分A受審人は,多度津港西防波堤灯台から040度(真方位,以下同じ。)400メートルの地点で,針路を039度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,折からの東流に乗じて8.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,甲板員を見張りにつけて進行した。
 17時ころA受審人は,盛運丸にマスト灯3個,舷灯,船尾灯及び引船灯のほかにマスト頂部に黄色回転灯を,また,大VIIIの居住区に舷灯,船尾灯,作業灯2個及びマスト頂部に緑色回転灯をそれぞれ点灯した。
 17時25分A受審人は,牛島灯標から164度1.9海里の地点に達したとき,右舷船首7度1海里のところに南西進する豊福丸の船体を初認したが,一瞥(いちべつ)して豊福丸は大VIIIの船尾を替わるものと思い,引き続きその動静監視を十分に行わなかったので,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であることに気付かず,右転するなど豊福丸の進路を避けることなく続航した。
 17時30分少し前A受審人は,豊福丸が盛運丸の右舷側30メートルばかりのところを航過したとき,大VIIIとの衝突の危険を感じて機関を停止したが効なく,17時30分牛島灯標から144度1.6海里の地点において,盛運丸引船列は,原針路,原速力のまま,大VIIIの右舷船首に,豊福丸の船首が前方から22度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,付近には1ノットばかりの東流があり,日没は17時21分であった。
 また,豊福丸は,B受審人が1人で乗り組み,底びき網漁の目的で,船首0.27メートル船尾1.55メートルの喫水をもって,同日17時00分香川県西浦漁港を発し,備讃瀬戸丸亀港北東方の漁場に向かった。
 17時23分B受審人は,牛島灯標から127度1.7海里の地点で,トロールにより漁ろうに従事している船舶の灯火及び作業灯6個を点灯し,針路を241度に定めて手動操舵とし,機関を回転数毎分1,800にかけ,折からの東流に抗して5.0ノットの速力で進行しながら最初の投網作業を開始した。
 定針したころB受審人は,左舷船首1.5海里ばかりのところに北東進する盛運丸の白灯3個及び黄色回転灯を初認し,その灯火模様から同船は引船列を形成しているものと認めた。
 17時25分B受審人は,牛島灯標から133度1.7海里の地点に達し,小袋が全量海面に出て袋網が出始めたとき,揚網用リールに巻かれている袋網が絡まって出なくなったので,同リールにブレーキをかけて絡みを直す作業を開始し,すでに投入している小袋の抵抗で4.0ノットの速力となって続航した。
 網の絡みを直す作業を開始したころB受審人は,盛運丸引船列が左舷船首15度1海里となり,その後同引船列が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,網の絡みを直す作業に気をとられ,引き続きその動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 B受審人は,その後,警告信号を行うことも,盛運丸引船列が避航の気配がないまま間近に接近したとき,右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
 17時30分少し前B受審人は,ふと顔を上げたとき,船首至近に大VIIIを視認し,急いで機関を後進としたが及ばず,豊福丸は,原針路のまま,2.0ノットの速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,盛運丸引船列に損傷はなく,豊福丸は船首部を圧壊したが,のち修理された。

(航法の適用)
 本件は,北東進する盛運丸引船列と,南西進する豊福丸が,互いに進路を横切る態勢で衝突したものである。
 豊福丸は,長さ6メートルの小袋だけを海面に出した状態で南西進中であり,操縦性能が制限される状態ではないので漁ろうに従事している船舶ではなく,航行中の動力船と認められる。
 したがって,両船とも航行中の動力船に当たることから海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 盛運丸引船列
(1)盛運丸船尾から大VIII後端までの長さが100メートルの引船列を形成していたこと
(2)一瞥して豊福丸は大VIIIの船尾を替わるものと思っていたこと
(3)動静監視を十分に行わなかったこと
(4)豊福丸の進路を避けなかったこと

2 豊福丸
(1)汽笛を装備していなかったこと
(2)投網中に網が絡まったこと
(3)網の絡みを直す作業に気をとられていたこと
(4)動静監視を十分に行わなかったこと
(5)警告信号を行わなかったこと
(6)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 盛運丸引船列は,豊福丸を初認した後,その動静監視を十分に行っていたなら,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付き,豊福丸の進路を避けることができ,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,一瞥して豊福丸は大VIIIの船尾を替わるものと思ってその動静監視を十分に行わず,豊福丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 盛運丸船尾から大VIII後端までの長さが100メートルの引船列を形成していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 一方,豊福丸は,盛運丸引船列を初認した後,その動静監視を十分に行っていたなら,その後同引船列が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付き,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作もとることができ,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,網の絡みを直す作業に気をとられて盛運丸引船列の動静監視を十分に行わず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作もとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 豊福丸が,汽笛を装備していなかったことは,海上衝突予防法は全長12メートル以上の船舶に対して装備を義務づけており,同法に違反しているので,早急に装備しなければならない。
 豊福丸が投網中に網が絡まったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,日没後の薄明時,備讃瀬戸において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北東進する盛運丸引船列が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る豊福丸の進路を避けなかったことによって発生したが,南西進する豊福丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,日没後の薄明時,備讃瀬戸を北東進中,右舷前方に豊福丸を視認した場合,衝突のおそれの有無が判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一瞥して同船は大VIIIの船尾を替わるものと思い,その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,豊福丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き,豊福丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,日没後の薄明時,備讃瀬戸を南西進中,左舷前方に盛運丸引船列を視認した場合,衝突のおそれの有無が判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,網の絡みを直す作業に気をとられ,その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,盛運丸引船列が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作もとらないで同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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