(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月14日14時48分
広島県蒲刈港
(北緯34度12.2分 東経132度41.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
瀬渡船あけぼの丸 |
漁船第二山昌丸 |
総トン数 |
2.90トン |
1.28トン |
全長 |
12.50メートル |
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登録長 |
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6.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
209キロワット |
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漁船法馬力数 |
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16 |
(2)設備及び性能等
ア あけぼの丸
あけぼの丸は,平成5年3月に進水したFRP製交通船兼釣船で,船体中央部に操舵室を有し,レーダーを設備していた。また,増速中は船首浮上により船首方に死角を生じたが,18ノット以上の速力で航行すると滑走状態となり,死角が解消されて見通しは良好であった。
イ 第二山昌丸
第二山昌丸(以下「山昌丸」という。)は,昭和44年に進水した木製漁船で,舵柄により操舵し,汽笛はなく,音響信号として笛を備えていた。
3 事実の経過
あけぼの丸は,A受審人が1人で乗り組み,船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,早朝に瀬渡しした釣り客を迎える目的で,平成16年3月14日13時00分広島県蒲刈港の係留地を発し,同港南方の三之瀬瀬戸付近の釣り場で釣り客10人を乗せ,14時41分同県呉港仁方区の桟橋に向かった。
A受審人は,操舵輪後方に立って操舵と見張りに当たり,三之瀬瀬戸を北上したのち,14時46分少し前蒲刈港丸谷外防波堤灯台(以下「外防波堤灯台」という。)から126度(真方位,以下同じ。)550メートルの地点において,針路を351度に定め,機関を全速力前進にかけ18.0ノットの対地速力とし,手動操舵により進行した。
14時47分少し過ぎA受審人は,外防波堤灯台から035度570メートルの地点に達したとき,正船首方に釣船を視認し,同船を避航するため転針することとしたが,魚釣りのポイントではないところで釣りをしているので不審に思って同船に気をとられ,転針方向の見張りを十分に行わなかったので,左舷船首19度450メートルのところに山昌丸が存在することに気付かなかった。
A受審人は,針路を332度に転じたところ,ほとんど移動しないことから漂泊中と分かる山昌丸に向首し,衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然として右舷船首方となった釣船を見ていてこのことに気付かなかったので,山昌丸を避けずに進行し,14時48分外防波堤灯台から007度860メートルの地点において,あけぼの丸は,原針路原速力のまま,その船首部が,山昌丸の左舷船尾部に,前方から83度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の初期であった。
また,山昌丸は,B受審人が1人で乗り組み,船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,一本釣り漁の目的で,同日11時30分蒲刈港の係留地を発し,安芸灘大橋付近の漁場に向かった。
目的地に着いたB受審人は,操業しても釣果が得られなかったので,14時00分前示衝突地点付近の漁場に移動し,機関を中立運転として漂泊し,船体が圧流されると機関を使用して潮上りを繰り返しながら,船尾甲板に右舷方を向いた姿勢で腰掛け,釣りを続けた。
14時47分少し過ぎB受審人は,衝突地点において,船首が235度に向いていたとき,左舷船首83度450メートルのところに,自船に向けて接近するあけぼの丸を視認することができる状況であったが,釣りに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,同船の存在に気付かなかった。
B受審人は,あけぼの丸が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが,避航を促す音響信号を行わず,さらに同船が間近に接近しても,機関を使用して前進するなど,衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続け,14時48分少し前釣果がなくなったので後片付けを開始したとき,左舷側至近に迫ったあけぼの丸を初めて認め,衝突の危険を感じて機関を前進にかけたが及ばず,山昌丸は,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,あけぼの丸は,船首部外板に擦過傷を生じただけであったが,山昌丸は,左舷船尾部を大破し,修理費用の関係で廃船処理された。また,B受審人が左肩打撲などを負った。
(航法の適用)
本件は,広島県蒲刈港において,北上中のあけぼの丸と漂泊中の山昌丸とが衝突したもので,港則法が適用される海域であるが,同法には適用できる航法の規定がない。また,海上衝突予防法には適用できる定型航法の規定がないので,同法第38条及び第39条の船員の常務で律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 あけぼの丸
(1)港内で18.0ノットの高速力で航行したこと
(2)正船首方に釣船を視認したが,魚釣りのポイントではないところで釣りをしているので不審に思って同船に気をとられ,転針方向の見張りを十分に行わなかったこと
(3)前路で漂泊中の山昌丸を避けなかったこと
2 山昌丸
(1)釣りに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)避航を促す音響信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,北上中のあけぼの丸が,転針方向の見張りを十分に行っていれば,山昌丸を視認することができ,ほとんど移動しないことから漂泊中と分かる同船を避け,発生を回避できたと認められる。
したがって,A受審人が,正船首方に釣船を視認したが,魚釣りのポイントではないところで釣りをしているので不審に思って同船に気をとられ,転針方向の見張りを十分に行わなかったこと及び前路で漂泊中の山昌丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,港内で18.0ノットの高速力で航行したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
一方,漂泊中の山昌丸が,周囲の見張りを十分に行っていれば,あけぼの丸を視認することができ,避航を促す音響信号を行い,衝突を避けるための措置をとり,発生を回避できたと認められる。
したがって,B受審人が,釣りに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったこと,避航を促す音響信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,広島県蒲刈港において,北上中のあけぼの丸が,転針方向の見張り不十分で,前路で漂泊中の山昌丸を避けなかったことによって発生したが,山昌丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,広島県蒲刈港において,呉港仁方区の桟橋に向け北上中,正船首方に認めた釣船を避航するため転針する場合,山昌丸を見落とさないよう,転針方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,魚釣りのポイントではないところで釣りをしているので不審に思って釣船に気をとられ,転針方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,山昌丸の存在に気付かず,ほとんど移動しないことから漂泊中と分かる同船を避けずに進行して衝突を招き,あけぼの丸の船首部外板に擦過傷を生じさせ,山昌丸の左舷船尾部を大破し,修理費用の関係で廃船処理され,B受審人が左肩打撲などを負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,広島県蒲刈港において,釣りのため漂泊する場合,自船に向け接近してくるあけぼの丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,釣りに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,あけぼの丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,機関を使用して前進するなど,衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けて衝突を招き,前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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