(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月17日15時30分
徳島県徳島小松島港徳島区第1区
(北緯34度02.9分 東経134度35.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船大和丸 |
総トン数 |
179トン |
全長 |
46.315メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
3 事実の経過
大和丸は,平成3年10月に進水した,専ら原木の国内輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人ほか3人が乗り組み,丸太500立方メートルを倉内に積載し,船首2.60メートル船尾3.80メートルの喫水をもって,平成17年5月17日15時00分徳島県徳島小松島港小松島区第3区にある金磯岸壁を発し,さらに丸太50立方メートルを甲板積みするため,同港徳島区第1区にある物専ふ頭へ向かった。
ところで,A受審人は,平成元年ごろから父親の所有する内航船に機関員として乗り始め,平成6年3月に五級海技士(機関),続いて平成10年5月に五級海技士(航海)の免許を取得したのち,機関長や船長の職をとっていた。
船橋の舵輪の後ろに立って手動操舵に当たったA受審人は,船首に甲板員と機関長を,また,船尾に父親である一等航海士をそれぞれ配置に付けて無線で連絡をとりながら物専ふ頭に向けて進行したが,東南東寄りの風が強まることを予想していたので,同ふ頭から容易に離岸できるよう,右錨と錨鎖3節を使用して着岸することとしていた。
15時27分A受審人は,徳島沖の洲導流堤灯台から193度(真方位,以下同じ。)205メートルの地点に達したとき,船首を000度に向けたまま停止して,右錨を投入した。
その後,A受審人は,機関を後進微速として船尾を右舷方に振りながら後退させ,15時28分徳島沖の洲導流堤灯台から187度265メートルの地点まで一旦下がって船首を物専ふ頭に向けて態勢を整え,再度前進微速として,右舵をとって船首を右舷方に振りながら,2.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,秒速8メートルほどの東南東風を右舷後方から受けて同ふ頭に接近して行った。
15時29分半A受審人は,機関を停止して惰力で岸壁に接近したが,岸壁まで距離があるので大丈夫と思い,接岸速度が過大とならないよう早期に機関を後進とするなど,行き脚の制御を十分に行わないで続航し,15時30分少し前行き脚が落ちないことに気付いた同人は,後進一杯としたものの,効なく,15時30分徳島沖の洲導流堤灯台から209度220メートルの地点において大和丸の船首が000度に向いたとき,その左舷錨が岸壁のゴムフェンダーに2.0ノットの速力のまま衝突した。
当時,天候は晴で,風力4の東南東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
衝突の結果,大和丸の船首左舷外板に左舷錨の爪で破口を生じ,同錨のシャンクが折損して下部のクラウンなどが脱落した。
(海難の原因)
本件岸壁衝突は,徳島小松島港徳島区第1区において,右舷後方から強風を受ける態勢で接岸する際,行き脚の制御が不十分であったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,徳島小松島港徳島区第1区において,右舷後方から強風を受ける状況下,右舷錨を使用して接岸しようとする場合,接岸速度が過大とならないよう早期に機関を後進とするなど,行き脚の制御を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,岸壁まで距離があるので大丈夫と思い,行き脚の制御を十分に行わなかった職務上の過失により,左舷船首部が岸壁のゴムフェンダーに衝突して,左舷錨の爪で外板に破口を生じさせるとともに,同錨のシャンクを折損させて下部のクラウンなどを脱落させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。