日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年神審第76号
件名

遊漁船第2千都丸漁船第3和希丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年12月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,甲斐賢一郎,中井 勤)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:第2千都丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第3和希丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第2千都丸・・・船底外板に破損
第3和希丸・・・右舷側船首部外板に破損,左舷側船尾部外板に亀裂,船長が左足下腿部等に打撲傷

原因
第2千都丸・・・見張り不十分,狭い水道等の航法(右側航行,衝突回避措置)不遵守(主因)
第3和希丸・・・動静監視不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第2千都丸が,狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,第3和希丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月28日14時50分
 高知県土佐清水市竜串漁港沖
 (北緯32度47.2分 東経132度52.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 遊漁船第2千都丸 漁船第3和希丸
総トン数 1.2トン 1.22トン
全長 7.69メートル 5.42メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 36キロワット  
漁船法馬力数   30
(2)設備及び性能等
ア 第2千都丸
 第2千都丸(以下「千都丸」という。)は,昭和60年10月に進水した,船外機を装備する旅客定員8人の和船型FRP製遊漁船で,燃料油タンクと蓄電池を置いた船尾端物入れの右舷側に腰掛けて船外機のスロットルレバーにより操縦するようになっており,見張りを妨げる構造物はなかったが,約15ノットの速力で航走すると船首が約50センチメートル浮上し,正船首から右舷側に5度及び左舷側に15度の死角が生じていた。
 航海速力は,全速力前進が17.0ノットで,極微速力前進が3.0ノットであった。
イ 第3和希丸
 第3和希丸(以下「和希丸」という。)は,昭和57年1月に進水し,船外機を装備した一本釣り漁業に従事する和船型FRP製漁船で,燃料油タンクと蓄電池を置いた船尾端物入れの右舷側に腰掛けて船外機のスロットルレバーにより操縦するもので,スロットルレバーから手を離しても進路及び推力を保持することができ,見張りを妨げる構造物はなかった。
 航海速力は,全速力前進が6.5ノットで,極微速力前進が2.0ノットであった。

3 高知県竜串漁港入口付近
 竜串漁港は,東西に延びる竜串漁港A防波堤と南北に延びる防波堤とに囲まれた地元の小型漁船が利用する漁港で,東方に開いた港口は幅が約25メートルで,竜串漁港A防波堤の海面上の高さが約5メートルと高く,南方沖合から入航する漁船にとっては港内の漁船の動向を視認することが困難であった。
 一方,竜串漁港A防波堤東端に設置された竜串港A防波堤灯台(以下「A防波堤灯台」という。)から南方約80メートルの沖合には,海面上の高さが高いところで約1メートル露出した中碆と称する周囲約300メートルの水上岩が存在し,その水上岩と同防波堤によって水路幅が40メートルの屈曲した狭い水道(以下「狭い水道」という。)が形成されていた。

4 事実の経過
 千都丸は,A受審人が1人で乗り組み,潜水客5人を乗せ,船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,平成16年11月28日13時30分竜串漁港を発し,13時40分同漁港から2,500メートル南方の千尋岬南端付近の潜水ポイントに至って1時間ばかり客の補助を行い,14時43分同ポイントを発し,帰港の途に就いた。
 ところで,A受審人は,平素,竜串漁港に帰港する場合,中碆の300メートル南方にある大碆付近から15ノットの速力で北進し,中碆を右に見ながら狭い水道の右側端に寄って東進し,左舷正横にA防波堤灯台が見えたところで,減速したのち左転して入港することにしていた。
 14時49分半A受審人は,A防波堤灯台から203度(真方位,以下同じ。)240メートルの地点に達したとき,狭い水道の西側に向けて針路を016度に定め,15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
 14時49分半少し過ぎA受審人は,A防波堤灯台から206度150メートルの地点に達したとき,右舷船首14度160メートルのところに竜串漁港A防波堤東端を出て狭い水道に向かって南下する和希丸を認めることができ,狭い水道内で行き会う状況となったが,これまでの経験からこの時間帯に出航する船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行うことなく,同船に気付かず続航した。
 14時50分少し前A受審人は,A防波堤灯台から217度80メートルの地点に達したとき,依然,見張り不十分で右舷船首30度80メートルのところに接近した和希丸に気付かず,その後,少しでも早く帰ろうと思い,針路を狭い水道を斜航する060度として和希丸と衝突する危険を生じさせる状況となったものの,狭い水道の右側端に寄ることなく,船体を停止するなど衝突を避けるための措置をとらずに進行中,14時50分千都丸は,A防波堤灯台から156度25メートルの地点において,原針路,原速力のまま,和希丸の右舷船首部に千都丸の船首が前方から47度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
 また,和希丸は,B受審人が1人で乗り組み,一本釣り漁業の目的で,船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって,同日14時47分千尋岬南方沖の漁場に向け,竜串漁港の係留地を離岸した。
 B受審人は,機関を微速力前進として2.0ノットの速力で竜串漁港の港口に向けて南東進し,その後,竜串漁港A防波堤東端を約10メートル離して右転し,14時49分半少し過ぎA防波堤灯台から078度15メートルの地点に達したとき,針路を狭い水道に向く193度に定め,同速力で手動操舵によって進行した。
 このとき,B受審人は,右舷船首17度160メートルのところに白波を立てて高速力で北上しながら接近する千都丸を視認し,このまま続航すれば,狭い水道内で行き会う状況を認めたが,同船がいずれ減速して狭い水道の右側端に寄って航行するものと思い,千都丸に対する動静監視を行うことなく,たばこを吸うこととして進行した。
 14時50分少し前B受審人は,千都丸が転針して自船と衝突する危険を生じて接近する状況となったが,依然,風に抗してたばこに火を付けることに気をとられて,動静監視不十分のまま,これに気付かず,右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航中,14時50分わずか前右舷船首至近に迫った千都丸を認めたものの,どうすることもできず,和希丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,千都丸は船底外板に破損,和希丸は右舷側船首部外板に破損,左舷側船尾部外板に亀裂をそれぞれ生じ,B受審人が左足下腿部等に打撲傷を負った。

(航法の適用)
 本件は,高知県土佐清水市竜串漁港A防波堤と水上岩により形成された狭い水路で発生したものであるが,航法の適用については次のとおり認める。
 竜串漁港は,防波堤に囲まれた漁港法に規定された地元の漁業を主とする第1種漁港であり,港則法及び海上交通安全法の適用がなく,海上衝突予防法が適用されることになる。
 当該漁港は,主として小型の漁船が利用するもので,竜串漁港A防波堤と沖合の水上岩間の水路が狭められているので,この水域は海上衝突予防法第9条に規定される狭い水道に該当する。よって,当該水域を航行する際は,同条の規定により狭い水道の右側端に寄って航行しなければならない。
 また,同法第5条の見張りに関する規定は常に遵守されなければならず,さらに,同法第38条に規定される切迫した危険がある特殊な状況においては,この危険を回避する措置をとる必要があり,これを怠れば同法第39条の規定により責任を免れることはできない。

(本件発生に至る事由)
1 千都丸
(1)船首浮上による死角が存在したこと
(2)A受審人が安全な速力で航行しなかったこと
(3)A受審人が狭い水道の右側端に寄って航行しなかったこと
(4)A受審人が見張りを十分に行わなかったこと
(5)A受審人が衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 和希丸
(1)B受審人が動静監視を行わなかったこと
(2)B受審人が右転するなどして衝突を避けるための措置をとらなかったこと

3 その他
 防波堤と水上岩によって屈曲した見通しの悪い狭い水道であったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,防波堤と水上岩によって屈曲した見通しの悪い狭い水道において,漁港から出て南西進する和希丸と外洋から漁港に向けて北東進する千都丸が衝突したものである。
 A受審人が,屈曲した見通しの悪い狭い水道に向かう際,見張り不十分で,和希丸の存在に気付かず,衝突を避けるための措置をとらずに衝突に至ったことは,本件発生の原因となる。
 さらに,衝突地点からも明らかなようにa受審人が,航法に従って狭い水道の右側端に寄って航行しなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,安全な速力で航行しなかったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,見張りを十分に行っていれば,本件発生を回避することができたものであり,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 千都丸が船首浮上により船首方に死角を生じていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,A受審人の操縦位置から視野内に和希丸を認めることができたのであるから,本件衝突と相当な因果関係があると認められない。
 一方,B受審人が,動静監視を行うことなく,衝突を避けるための措置をとらずに衝突に至ったことは,本件発生の原因となる。
 防波堤と水上岩によって屈曲した見通しの悪い狭い水道であったことについては,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,そのことを認識したうえで運航すれば,安全運航が可能な状況であったことから,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,竜串漁港A防波堤と水上岩によって形成される屈曲した見通しの悪い狭い水道において,千都丸が,狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか,前路の見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,和希丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,竜串漁港A防波堤と水上岩によって形成される屈曲した見通しの悪い狭い水道に向けて航行する場合,和希丸を見落とすことがないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,この時間帯に出航する船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,和希丸に気付かず,狭い水道の右側端に寄らずに衝突の危険を生じさせ,衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き,千都丸の船底外板に破損,和希丸の右舷側船首部外板に破損,左舷側船尾部外板に亀裂をそれぞれ生じさせ,B受審人に左足下腿部等に打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,竜串漁港A防波堤と水上岩によって形成される屈曲した見通しの悪い狭い水道に向けて航行中,前路に接近する千都丸を認めた場合,衝突の有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,千都丸が狭い水道の右側に寄って航行するものと思い,同船に対する動静監視を行わなかった職務上の過失により,千都丸との衝突を招き,両船に前示損傷等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:34KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION