(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年3月2日10時10分
高知県室戸岬南方沖合
(北緯33度01.2分 東経134度07.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船紀将丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
71.92メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
紀将丸は,平成7年3月に進水した,主に石灰石やスラグの輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船兼石材砂利運搬船で,A受審人ほか3人が乗り組み,石灰石1,600トンを積載し,船首3.2メートル船尾5.0メートルの喫水をもって,同17年3月1日22時00分大分県津久見港を発し,京浜港に向かった。
これより先,紀将丸は,同日07時40分関門港に入港し,廃棄物を陸揚げして10時00分出港し,空倉で大分県津久見港に向かい,17時30分同港に入港して石灰石を積載した後,22時00分出港したもので,その間,A受審人は,荷役作業及び船橋当直でゆっくりと休息をとることができず,津久見港で荷役開始までの合間に仮眠を約1時間とっただけであった。
A受審人は,船橋当直を,22時から02時までをA受審人,02時から06時までを一等航海士,06時から10時までを再び同受審人が入直する,出港から4時間ごとの単独2直制とし,発航後,豊後水道を南下して足摺岬を回り,四国南方沖合を東行した。
A受審人は,四国南方沖をよく航行し,土佐黒潮牧場10号施設灯設置箇所付近もたびたび航行していたので,その存在をよく承知しており,GPSプロッター画面上にも,9海里レンジにすると同施設灯が表示されていた。
A受審人は,翌2日02時00分ころ当直を交替して自室に戻り,03時00分ころから約2時間30分の睡眠をとった後,05時30分足摺岬東方沖合で当直を交替し,06時00分足摺岬灯台から053度(真方位,以下同じ。)16.3海里の地点において,針路を080度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力で進行した。
A受審人は,操舵輪後方の背もたれ及び両肘掛け付きのいすに腰掛けて当直に当たり,08時20分室戸岬灯台から232度27.7海里の地点に達したとき,睡眠不足と疲労の蓄積から眠気を催したが,たばこを吸い,いすから立ち上がってウイングに出て新鮮な外気に当たったことから大丈夫と思い,船橋当直に当たっていない休息中の機関長か機関員を昇橋させて2人当直とするなど居眠り運航の防止措置を十分にとることなく続航し,再び操舵輪後方のいすに腰掛けたまま当直を続けるうち,08時45分室戸岬灯台から227度24.0海里付近で居眠りに陥った。
こうして,A受審人は,土佐黒潮牧場10号施設灯に向首していることに気付かず進行中,10時10分室戸岬灯台から192度14.0海里の地点において,紀将丸は,原針路,原速力のまま,同施設灯に衝突した。
当時,天候は晴で風力2の東風が吹き,視界は良好であった。
衝突の結果,紀将丸の球状船首に凹損及び船首部の手摺りに曲損を生じ,土佐黒潮牧場10号施設灯の浮体に凹損及びレーダーリフレクターに損壊を生じたが,のち修理された。
(海難の原因)
本件養殖施設灯衝突は,高知県室戸岬南方沖合において,東行する際,居眠り運航の防止措置が不十分で,養殖施設灯に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,高知県室戸岬南方沖合において,単独の船橋当直に就いて東行中,眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,休息中の乗組員を昇橋させるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,たばこを吸い,いすから立ち上がって,ウイングに出て外気に当たったので大丈夫と思い,船橋当直に当たっていない休息中の機関長か機関員を昇橋させて2人当直とするなど居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,養殖施設灯に向首していることに気付かず,そのまま進行して同施設灯との衝突を招き,紀将丸の球状船首に凹損及び船首部の手摺りに曲損を生じさせ,養殖施設灯の浮体に凹損及びレーダーリフレクターに損壊を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。