(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月30日07時05分
大阪港
(北緯34度36.7分 東経135度25.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十五旭丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
76.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
第十五旭丸(以下「旭丸」という。)は,平成8年6月6日に竣工し,専ら大阪港と那覇港間の鋼材輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,A受審人ほか4人が乗り組み,鋼材850トンを半載して追い積みの目的で,船首2.3メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,平成17年4月30日06時50分大阪港大阪区第4区B岸壁第3号を離岸し,同区A岸壁第1号(以下「A1岸壁」という。)に向けて港内移動を開始した。
ところで,A1岸壁の前面水域は,南北に延びた長さ800メートルのA岸壁とその西方対岸の南港鉄鋼流通岸壁との間にある幅270メートルの水路(以下「水路」という。)の南奥で,その南側に隣接して両岸壁をつなぐかもめ大橋が東西に架けられ,三方を囲まれた狭い水域となっていた。
また,A受審人は,A1岸壁に出船右舷付けで着岸操船する際,かもめ大橋まで120メートルに接近したとき,一旦行きあしを止めた後,バウスラスタ,機関及び舵を併用してその場回頭を行っていた。
こうして,A受審人は,A1岸壁の前面水域でその場回頭して右舷付けする予定で,自ら船橋で手動により操舵するとともに機関操縦にあたり,06時55分大阪南港沖防波堤灯台から003度(真方位,以下同じ。)930メートルの地点に達したとき,針路を水路の南奥に向く180度とし,6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で機関を中立として惰力で進行した。
07時00分A受審人は,大阪南港沖防波堤灯台から013度260メートルの地点に達し,かもめ大橋まで120メートルに接近したとき,速力1.0ノットの前進行きあしが残っており,バウスラスタを使用するだけでは旋回圏が大きくなって岸壁に著しく接近するおそれがあったが,依頼されていた着岸時刻となったこともあり,わずかな前進行きあしであれば何とか回頭できるものと思い,機関を後進に掛けるなどして船体を停止させることなく,機関を中立としたまま左舵一杯とし,バウスラスタを左一杯として回頭を開始した。
その後,A受審人は,前進行きあしのために旋回圏が大きくなり,舵効を得ようと機関を前進速力に適宜使用して回頭を続け,07時05分少し前岸壁との衝突の危険を感じ,機関を全速力後進に掛けたものの間に合わず,07時05分大阪南港沖防波堤灯台から053度320メートルの地点のA1岸壁に,0.5ノットの速力で船首が050度となったとき,右舷船首部が050度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候はほぼ高潮時であった。
その後,旭丸は,後進してA1岸壁から離れたところ,かもめ大橋に接触した。
衝突の結果,旭丸は,球状船首部に凹損,右舷側後部ボートダビットに曲損及びかもめ大橋欄干の下フラップに擦過傷を伴う曲損をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。
(海難の原因)
本件岸壁衝突は,大阪港のA1岸壁前面の狭い水域において,着岸操船のためバウスラスタを使用してその場回頭する際,操船不適切で,前進行きあしを止めないまま回頭したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,大阪港のA1岸壁前面の狭い水域において,着岸操船のためバウスラスタを使用してその場回頭する場合,前進行きあしを持ったまま回頭すると,旋回圏が大きくなり同岸壁に衝突する危険があったから,確実にその場で回頭できるよう,前進行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに,同人は,依頼されていた着岸時刻となったこともあり,わずかな前進行きあしであれば何とかバウスラスタで回頭できるものと思い,機関を使用するなどして前進行きあしを止めなかった職務上の過失により,旋回圏が大きくなってA1岸壁との衝突を招き,球状船首部に凹損,右舷側後部ボートダビットに曲損及びかもめ大橋欄干に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。