(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年2月22日06時45分
兵庫県姫路港
(北緯34度45.7分 東経134度37.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船めかり丸 |
漁船天神丸 |
総トン数 |
199トン |
4.9トン |
全長 |
58.01メートル |
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登録長 |
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11.42メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
47キロワット |
(2)設備及び性能等
ア めかり丸
めかり丸は,平成6年3月に進水した,航海速力11ノットの船尾船橋型鋼製貨物船で,船橋前面の窓に面して設置されているコンソールスタンドには,その中央部にジャイロコンパス,操舵装置,操舵輪及びエアーホーンの押しボタン,左舷側にレーダー2台及びGPS,右舷側に機関及びスラスターの遠隔操縦ハンドルが装備されており,主として瀬戸内海において石灰石やコークスなどの運搬に従事していた。
イ 天神丸
天神丸は,平成4年3月に進水した,レーダー1台,GPS及び魚群探知機を有するFRP製漁船で,専ら播磨灘の家島諸島南方海域において小型底びき網漁業に従事し,漁獲物は姫路港で水揚げしていた。
3 事実の経過
めかり丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,空倉で,船首1.0メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,平成17年2月21日16時00分徳島県徳島小松島港を発し,兵庫県姫路港へ向かった。
同日20時30分A受審人は,姫路港に到着したものの,着桟予定が翌朝であったことから,広畑東防波堤灯台から172度(真方位,以下同じ。)0.7海里地点で一晩錨泊して,翌22日06時35分夜明けとともに広畑区の新日本製鉄中央岸壁に向けてシフトを開始した。
そして,A受審人は,広畑航路第6号灯浮標の北方250メートル付近から姫路港の広畑航路(以下「航路」という。)に入り,06時41分半広畑東防波堤灯台から203度760メートルの地点で,針路を010度に定め,機関を回転数毎分230の微速力前進にかけ,5.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵によって進行した。
針路を定めたとき,A受審人は,左舷船首56度1,170メートルのところに航行中の天神丸を視認したことから,これを注視していたところ,やがて,同船が航路を横断する態勢で接近し,衝突のおそれがある状況となったが,自船が航路を航行していたことから,航路外から航路に入る天神丸が,自船の進路を避けてくれるものと思い,警告信号を行うことなく,同じ針路及び速力で続航した。
こうして,06時43分A受審人は,広畑東防波堤灯台から211度470メートルの地点に至ったとき,天神丸が,その方位に明確な変化がないまま,自船から500メートルのところまで接近し,衝突の危険がある状況となったが,依然として,警告信号を行うことも,さらに接近しても,機関を用いて行きあしを止めるなりして衝突を避けるための協力動作をとることもなく,その船首方を替わすつもりで右に少しづつ転舵しながら進行中,同時44分少し前同船が左舷間近に迫ったことから,急きょ,機関を全速力前進にかけたが,及ばず,06時45分広畑東防波堤灯台から221度250メートルの地点において,めかり丸は,船首が017度に向いたとき,7.0ノットの速力で,その左舷船尾部と天神丸の船首が直角に衝突した。
当時,天候は晴で風はなく,視界は良好であった。
また,天神丸は,B受審人が1人で乗り組み,漁獲物を水揚げする目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,22日03時00分兵庫県坊勢漁港を発し,姫路港へ向かった。
04時00分B受審人は,姫路港に到着して網干川を遡り,同時15分網干丸松魚市場に到って漁獲物約100キログラムを水揚げしたのち,06時25分自動車運転免許を更新するため,手続きを行っている警察署近くの飾磨区港湾合同庁舎前にある船溜まりに向かった。
そして,06時40分半B受審人は,広畑東防波堤灯台から278度1,420メートルの地点に達したとき,機関を全速力前進にかけ,針路を107度に定め,9.5ノットの速力で,自動操舵によって進行した。
定針後,B受審人は,周囲に危険な他船を認めなかったことから,前示船溜まりでの船首付け係船に備え,後部甲板に移動して船尾ケッジアンカーの準備に取り掛かったところ,06時41分半広畑東防波堤灯台から276度1,150メートルの地点に達したとき,右舷船首27度1,170メートルのところに,航路を航行するめかり丸を視認することができ,やがて,衝突のおそれがある状況となったが,後部甲板での準備作業に気を取られ,見張りを十分に行わなかったので,同船の存在に気付かず,その進路を避けることなく続航した。
こうして,B受審人は,その後も,依然として,見張りを十分に行わず,めかり丸の存在に気付かないまま進行中,天神丸は,原針路,原速力で,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,めかり丸は左舷船尾外板に凹損及び擦過傷を生じ,天神丸は船首部を圧壊した。
(航法の適用)
本件は,港則法に規定された特定港に当たる姫路港において,航路を航行していためかり丸と,航路外から航路に入り,航路を横断する態勢の天神丸が衝突したものであり,以下,適用される航法について検討する。
めかり丸及び天神丸の両船が,前示関係で衝突したことは,明白な事実であり,疑う余地はない。
よって,海上衝突予防法第41条第1項特別法優先の規定により,航路を航行する船舶に優先権があると定めた港則法第14条第1項をもって律することとする。
(本件発生に至る事由)
1 めかり丸
(1)A受審人が,自船が航路を航行していたことから,航路外から航路に入り,航路を横断する態勢の天神丸が,自船の進路を避けてくれるものと思ったこと
(2)A受審人が,天神丸に対して警告信号を行わなかったこと
(3)A受審人が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 天神丸
(1)B受審人が,後部甲板へ移動して作業を行っていたこと
(2)B受審人が,後部甲板での作業に気をとられ,見張りを十分に行わなかったこと
(3)B受審人が,めかり丸の存在に気付かなかったこと
(4)B受審人が,めかり丸の進路を避けることなく進行したこと
(原因の考察)
めかり丸は,港則法が適用される姫路港において,航路を航行中,船橋当直に当たっていた船長が,航路外から航路に入り,航路を横断する態勢で接近する天神丸を認めていたのであるから,同船と衝突のおそれがある状況となったとき,警告信号を行い,さらに間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとることは十分に可能であったものと認められる。
したがって,A受審人が,航路外から航路に入り,航路を横断する態勢で接近する天神丸が,航路を航行する自船の進路を避けてくれるものと思い,同船に対して警告信号を行わなかったばかりか,さらに間近に接近しても,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
一方,天神丸は,姫路港において,船長が船尾甲板に移動して係船準備作業に従事することなく,見張りを十分に行っていたならば,航路を航行するめかり丸に容易に気付き,同船の進路を避けることは十分に可能であったものと認められる。
したがって,B受審人が,見張りを十分に行わず,めかり丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,姫路港において,航路外から航路に入り,航路を横断する態勢の天神丸が,見張り不十分で,航路を航行するめかり丸の進路を避けなかったことによって発生したが,めかり丸が,天神丸に対して警告信号を行わず,さらに同船が間近に接近しても,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,姫路港において,航路外から航路に入り,航路を横断する態勢で航行する場合,航路を航行する船舶を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,後部甲板に移動して係船準備作業をすることに気を取られ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,航路を航行するめかり丸の存在に気付かず,その進路を避けることなく進行して,同船との衝突を招き,自船の船首部を圧壊させるとともに,めかり丸の左舷船尾外板に凹損及び擦過傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は,姫路港において,航路を航行中,航路外から航路に入り,航路を横断する態勢で接近する天神丸と衝突のおそれがある状況となった場合,同船に対して速やかに警告信号を行い,さらに間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,自船が航路を航行していたことから,航路を横切る天神丸が,自船の進路を避けてくれるものと思い,警告信号を行わず,さらに間近に接近しても,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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