(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月11日06時30分
青森県八戸港北東方沖合
(北緯40度48.0分 東経141度49.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五十五甚宝丸 |
漁船第十一新洋丸 |
総トン数 |
144トン |
4.9トン |
全長 |
36.61メートル |
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登録長 |
31.52メートル |
11.75メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
330キロワット |
3 事実の経過
第五十五甚宝丸(以下「甚宝丸」という。)は,従業区域を乙区域とし,駆け回し式沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で,A受審人ほか13人が乗り組み,操業の目的で,船首1.80メートル船尾3.50メートルの喫水をもって,平成16年9月11日02時00分青森県八戸港第二魚市場前岸壁を発し,同港北東方沖合の漁場に向かった。
発航時から操船にあたっていた船長Cは,03時30分ごろ鮫角灯台から038度(真方位,以下同じ。)16海里ばかりの地点に至り,漁場に近づいたので,当直を交替してA受審人に操船を委ね,自らは甲板上に降りて他の乗組員とともに操業の準備作業などにあたった。
操船を引き継いだA受審人は,単独で操業の指揮にあたり,2回目の操業を終えたとき,漁獲量が少なかったことから,漁場を移動することとし,06時26分鮫角灯台から037度20.2海里の地点で,左転して針路を210度に定め,機関を半速力前進にかけ,舵輪の少し左側に立ち,7.0ノットの対地速力として自動操舵により進行した。
定針前,A受審人は,自船の北北西方向5海里ばかりのところに,いか釣り漁船団を視認しており,定針したとき,同人は,正船首860メートルのところに,漂泊中の第十一新洋丸(以下「新洋丸」という。)を視認でき,その後,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となっていたが,依然として右後方となった同船団の動向に気をとられ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま続航した。
こうして,甚宝丸は,A受審人が新洋丸に向首していることに気付かずに進行中,06時30分わずか前ふと前方を見て漂泊中の新洋丸に初めて気付き,自動操舵のまま機関停止,続いて左舵一杯としたが,及ばず,06時30分鮫角灯台から037度19.6海里の地点において,甚宝丸の船首が新洋丸の右舷後部外板に前方から60度の角度をもって衝突した。
当時,天候は晴で,風力2の南西風が吹き,視界は良好であった。
また,新洋丸は,従業区域を丙区域とし,いか一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で,平成4年3月に取得した一級小型船舶操縦士の免許を所有するB受審人ほか1人が乗り組み,船首0.50メートル船尾1.20メートルの喫水をもって,同日04時20分青森県小舟渡漁港を発し,いか釣りの目的で,同漁港北北東方沖合の漁場に向かった。
05時45分ごろB受審人は,漁場に至り,順次場所を変えて15分ばかり探索を行い,06時00分前示衝突地点に至り,330度に向首して漂泊し,左右両舷に3台ずつ設置した自動いか釣り機を稼働して釣りを始めた。
ところで,いか釣り機は船首方から順に1号機,2号機及び3号機と呼称していたが,06時15分ごろ左舷側の2号機と3号機の釣り糸が絡んだので,B受審人は,すべてのいか釣り機を停止して絡んだ釣り糸の修復作業を始めた。
B受審人は,絡んだ釣り糸の修復作業を行う際,乗組員と2人で左舷正横に身体を向け,釣り糸の絡みを直すことに気をとられ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,甚宝丸が自船の右舷前方から衝突のおそれがある態勢で接近する状況となっていたが,このことに気付かず,有効な音響による警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく,漂泊を続けて同作業を続行した。
こうして,新洋丸は,B受審人が甚宝丸の接近に気付かないまま漂泊中,06時30分わずか前至近に迫った同船を視認したが,どうする暇もなく,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,甚宝丸は,船首部に擦過傷を,新洋丸は,右舷船尾部などの船体各部に亀裂を伴う損傷を生じたが,のち修理された。また,B受審人が,左肘に打撲傷を負った。
(海難の原因)
本件衝突は,青森県八戸港北東方沖合において,第五十五甚宝丸が,見張り不十分で,漂泊中の第十一新洋丸を避けなかったことによって発生したが,第十一新洋丸が,見張り不十分で,有効な音響による警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,青森県八戸港北東方沖合において,漁場を移動するため針路を転じて航行する場合,前路で漂泊中の第十一新洋丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,針路を転じる前に視認したいか釣り漁船団の動向に気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,第十一新洋丸に向首する針路のまま進行して同船との衝突を招き,自船の船首部に擦過傷を,第十一新洋丸の右舷船尾部などの船体各部に亀裂を伴う損傷を生じさせ,B受審人に左肘の打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は,青森県八戸港北東方沖合において,漂泊していか釣り機の釣り糸の絡みを直す場合,自船に向首接近する第五十五甚宝丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,釣り糸の絡みを直すことに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,有効な音響による警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて第五十五甚宝丸との衝突を招き,前示損傷を生じさせ,自らも打撲傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。