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平成17年函審第42号
件名

漁船第三十五恵比寿丸岸壁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年12月20日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志,西山烝一,堀川康基)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:第三十五恵比寿丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
第三十五恵比寿丸・・・左舷船首部に凹損など
僚船2隻・・・船尾ギャロスに圧損など

原因
操船不適切(着岸時の減速不十分)

主文

 本件岸壁衝突は,着岸時の減速が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年2月2日23時25分
 北海道小樽港高島漁港区
 (北緯43度12.9分 東経141度00.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十五恵比寿丸
総トン数 160トン
全長 35.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット
(2)設備及び性能等
 第三十五恵比寿丸(以下「恵比寿丸」という。)は,昭和57年8月に進水した可変翼角推進器を有し,船首船橋型の沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で,小樽港を基地として主に日帰りで操業を行っていた。
 船橋内には,中央にジャイロコンパス組込型操舵スタンドが,その右方にGPSプロッタ及びレーダー2基,左方に魚群探知機,潮流計及び機関操縦盤が,操舵スタンド前方上部に針路及び速力の表示計が,同スタンド後方上部にドップラー式ログの表示計などがそれぞれ配置されていた。また,両舷側壁にダイヤル式の遠隔操舵装置がそれぞれ備えられ,離着岸操船時などに使用されていた。
 停止翼角は,後進1度(翼角指示計の示度,以下同じ。)ないし後進2度であり,また速力(対地速力,以下同じ。)は,港内操船時などに使用する機関回転数毎分375(以下,回転数は毎分のものとする。)において前進3度で4.5ノット,同4度で4.7ノット,同5度で5.4ノットであった。
 また,ほぼ同型船である僚船の海上公試運転成績書によれば,機関回転数600前進15.5度で,13.9ノットの速力で航走中,後進全速力発令から船体停止するまでに要する時間及び航走距離は,それぞれ42秒及び194メートルであった。
 操船位置からの見通しは,眼高が当時の喫水で4.5メートルとなり,また船橋前面から船首端まで6メートルほどしかないため,前方及び両舷方ともに良好であった。
(3)小樽港高島漁港区高島地区岸壁
 小樽港高島漁港区は,小樽港第3区の北側にあって同漁港区の南方に港口が開き,同区に魚卸売市場を備えた,南北に長さ460メートル水深5.0メートルの高島地区岸壁があり,同港を基地とする恵比寿丸ほか8隻の沖合底びき網漁船が水揚などのため同岸壁を使用していた。

3 事実の経過

 恵比寿丸は,A受審人ほか16人が乗り組み,操業の目的で,船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成17年2月2日01時50分北海道小樽港高島漁港区を発し,04時ごろ同港北方約20海里の漁場に至って操業を開始し,21時00分ほっけ等120トンを漁獲して帰途に就いた。
 A受審人は,帰途に就いて間もなく,漁ろう長から単独の船橋当直を引き継いで南下し,23時ごろ同港沖に至り,船舶所有者から水揚げのため高島地区岸壁に係留するよう指示され,同岸壁に入船左舷付けで着岸することとし,船首に一等航海士ほか2人,船尾に4人を入港配置に就かせるとともに昇橋してきた通信長を僚船との無線交信に当たらせ,その後,徐々に減速し,港口に向け右転して航行した。
 23時21分少し前A受審人は,小樽港高島北防波堤灯台(以下「高島北防波堤灯台」という。)から161度(真方位,以下同じ。)260メートルの地点で,針路を港口に向首する328度に定め,機関回転数を350に減じるとともに前進5度とし,5.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
 23時22分半わずか過ぎA受審人は,高島北防波堤灯台から270度70メートルの地点の港口に至って,左舷側の窓1枚を開けて左舷船首方の高島地区岸壁の使用状況を確認したところ,同岸壁には先に入港した5隻の僚船がそれぞれ入船左舷付けで係船しており,その北側から2隻目と,右舷側に小型給油船を接舷させた3隻目の間に50メートルほどの空き岸壁があるのを認め,今までにも同様な状況下で着岸経験があり,同岸壁に着岸するため,針路を空き岸壁の北端に向首して岸壁線と交差角が40度となる319度に転じ,前進3度の4.0ノットの速力とし,左舷側の遠隔操舵装置を使用した手動操舵により続航した。
 23時24分A受審人は,高島北防波堤灯台から305度220メートルの地点に達し,向首した空き岸壁北端まで120メートルとなって着岸する態勢となったが,このまま岸壁に接近するには速力が過大で,その後行きあしを止めることが困難となるおそれがあったものの,漁獲物を魚倉のほか甲板上にも積載するほど船脚が入っていたことから,低速力では舵効が得られなくなることを気にし,もう少し着岸岸壁に接近しても行きあしを止めることができるものと思い,直ちに一旦停止とし,また必要に応じて後進とするなど,着岸時の減速を十分に行うことなく,同岸壁に接近した。
 こうして,A受審人は,その後も減速することなく進行し,23時25分わずか前,岸壁との距離が10メートルほどとなり,過大な速力で向首接近して岸壁への衝突の危険に気付き,翼角を後進一杯とするとともに右舵一杯としたが効なく,23時25分高島北防波堤灯台から310度340メートルの地点において,恵比寿丸は,船首が321度を向いたとき,ほぼ原速力のまま,その左舷船首部が岸壁に対して30度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力3の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 恵比寿丸は,岸壁に衝突したのち,船首部が前方に係留中の僚船船尾部に再衝突し,その衝撃によって係留索が切断した同船の船首部が更に前方に係留中の他の僚船船尾部に衝突した。
 この結果,岸壁に目立った損傷はなかったが,恵比寿丸は左舷船首部に凹損などを,僚船2隻は船尾ギャロスに圧損などをそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 着岸岸壁の前後に僚船が係留していたこと
2 船脚が入っていて低速力では舵効の得にくい状況であったこと
3 A受審人が着岸時の減速を行わずに岸壁に接近したこと

(原因の考察)
 本件は,着岸時の減速を行っていれば避けられたものと認められる。
 したがって,A受審人が,低速力では舵効の得られなくなることを気にし,もう少し着岸岸壁に接近しても行きあしを止めることができるものと思い,着岸時の減速を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 着岸岸壁の前後に僚船が係留していたこと,船脚が入っていて低速力では舵効が得にくい状況であったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件岸壁衝突は,夜間,北海道小樽港高島漁港区において,高島地区岸壁に着岸するため接近中,着岸時の減速が不十分で,過大な速力のまま同岸壁に向首接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が,夜間,北海道小樽港高島漁港区において,前後に僚船が係留している高島地区岸壁に入船左舷付けで着岸する場合,過大な速力のまま同岸壁に接近すれば,その後行きあしを止めることが困難となるおそれがあったから,直ちに一旦停止とし,また必要に応じて後進とするなど,着岸時の減速を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は,低速力では舵効が得られなくなることを気にし,もう少し着岸岸壁に接近しても行きあしを止めることができるものと思い,着岸時の減速を十分に行わなかった職務上の過失により,過大な速力のまま高島地区岸壁に向首接近し,同岸壁への衝突を招き,次いで船首部を前方に係留中の僚船船尾部に再衝突させるとともに,その衝撃によって係留索が切断した同船の船首部を更に前方に係留中の他の僚船船尾部に衝突させ,恵比寿丸の左舷船首部に凹損などを,僚船2隻の船尾ギャロスに圧損などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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