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平成17年函審第43号
件名

油送船第十明悦丸漁船第六十三八幡丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年12月14日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(堀川康基,西山烝一,野村昌志)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第十明悦丸一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第六十三八幡丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十明悦丸・・・右舷中央部やや船尾寄り外板に擦過傷
第六十三八幡丸・・・左舷船首ブルワークに凹損

原因
第六十三八幡丸・・・見張り不十分,追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第十明悦丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第十明悦丸を追い越す第六十三八幡丸が,見張り不十分で,その進路を避けなかったことによって発生したが,第十明悦丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月4日03時45分
 北海道登別漁港南東方沖合
 (北緯42度17.1分 東経141度18.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船第十明悦丸 漁船第六十三八幡丸
総トン数 998トン 9.7トン
全長 83.05メートル 21.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 501キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十明悦丸
 第十明悦丸(以下「明悦丸」という。)は,平成5年6月に進水した船尾船橋型の鋼製油送船で,主として,北海道室蘭港を積地とし,東北,北海道の各港に灯油などの輸送に従事していた。船橋には,中央前面に汽笛吹鳴ボタンの組み込まれた操舵スタンド,同スタンドの右舷側に機関操縦盤が設けられ,同盤上には主機遠隔操縦装置のほかスラスター操作スイッチが備えられ,同スタンド左舷側にジャイロコンパス,レーダー2台,同室前面左舷角付近にGPSプロッターが備えられていた。
イ 第六十三八幡丸
 第六十三八幡丸(以下「八幡丸」という。)は,平成14年9月に進水したアルミニウム合金製漁船で,操舵室前面中央にマグネットコンパス,右舷側に操舵輪及び主機遠隔操作ハンドルを備え,左舷側にGPSプロッターとレーダー2台が備えられていた。

3 事実の経過
 明悦丸は,A受審人ほか7人が乗り組み,積荷の目的で,空倉のまま,船首1.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,平成16年12月3日11時30分北海道釧路港を発し,室蘭港に向かった。
 翌4日00時30分A受審人は,日高門別灯台から189度(真方位,以下同じ。)14.8海里の地点で昇橋し,船長から船橋当直を引き継ぎ,航行中の動力船が表示する灯火を掲げ,甲板員1人を見張りにつけて北上した。
 02時00分A受審人は,日高門別灯台から241度18.8海里の地点に至り,針路を264度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,10.3ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で進行した。
 03時41分A受審人は,アヨロ鼻灯台から152度11.2海里の地点で,甲板員を船橋前面窓の左舷側後方に配し,自身も同右舷側後方に立って見張りに当たっていたとき,右舷正横後23度410メートルのところに,八幡丸の掲げる白,紅2灯のほか白色作業灯を視認することができ,同船が衝突のおそれのある追い越しの態勢で接近したが,船首方1ないし3海里にかけて操業中の漁船を何隻か認め,その漁船の動静に気をとられ,後方に対する見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることもなく,同一の針路速力で続航した。
 03時44分半A受審人は,八幡丸の作業灯を後方至近に初めて認め,衝突の危険を感じ,機関停止としたものの,効なく,03時45分アヨロ鼻灯台から155度11.1海里の地点において,明悦丸は,原針路のまま,ほぼ原速力でその右舷中央部やや船尾寄りに八幡丸の左舷船首部が後方から15度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力4の西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 また,八幡丸は,B受審人ほか3人が乗り組み,すけとうだら刺網漁業の目的で,船首0.9メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,同月3日23時30分北海道登別漁港を発し,同漁港南方沖合の漁場に向かった。
 すけとうだら刺網漁は,前日投網して翌日揚網するもので,多数の漁船が長さ約4,000メートルの網を200メートル等深線に沿って海底に設置するため,隣接する網との間隔が400メートルばかりと狭く,僚船間で網が絡まないよう,投揚網時刻及び投網方向などが取り決められていた。
 翌4日03時20分B受審人は,アヨロ鼻灯台から150度9.2海里の地点で揚網を終え,すけとうだら2トンを漁獲して,投網地点に向かうこととし,航行中の動力船が表示する灯火に加え,投網準備作業のため,前部甲板に白色作業灯3個と後部甲板に同灯1個をそれぞれ点灯し,レーダーを3海里レンジで作動させ,海面反射の調整を行わないまま南下した。
 B受審人は,操舵室右舷側の操舵輪の後ろに立って見張りに当たり,03時40分アヨロ鼻灯台から150度11.3海里の地点で,僚船間の無線により室蘭沖で漁模様が良い旨の情報を得て同沖に向かうこととし,針路を249度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
 03時41分B受審人は,アヨロ鼻灯台から150.5度11.2海里の地点に達したとき,左舷船首52度410メートルのところに,明悦丸の掲げる白灯を視認することができ,両船の船首の振れなどから,同船のマスト灯及び右舷灯と船尾灯が交互に視認できる状況で,方位がほとんど変わらず,衝突のおそれのある追い越しの態勢で接近したが,右舷方で操業中の僚船の動静に気をとられ,左舷方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同船を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまで,その進路を避けることなく続航した。
 B受審人は,明悦丸に気付かないまま進行中,突然衝突の衝撃を感じ,八幡丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,明悦丸は,右舷側中央部やや船尾寄り外板に擦過傷を,八幡丸は,左舷船首ブルワークに凹損をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,登別漁港南東方沖合において,西航する明悦丸と西南西航する八幡丸とが接近し衝突したものである。
 衝突4分前八幡丸は明悦丸の右舷正横後23度にあって,その速力差から,追い越す態勢であったが,互いに船首が振れる状況で,八幡丸からは,船尾灯のほかときおり明悦丸の右舷灯及びマスト灯を視認できる状態でもあった。
 このように,自船が追い越し船であるかどうか疑わしい場合については,海上衝突予防法第13条第3項に追い越し船と判断しなければならないとされていることから,本件は同条によって律することとなる。

(本件発生に至る事由)
1 明悦丸
(1)A受審人が,前路の漁船の動静に気をとられ,後方の見張りを十分に行っていなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 八幡丸
(1)法定灯火の他に作業灯が点灯されていたこと
(2)B受審人が,右舷方の僚船の動静に気をとられ,左舷方の見張りを十分に行っていなかったこと
(3)レーダーの海面反射の調整が十分に行われなかったこと
(4)明悦丸の進路を避けなかったこと

3 その他
(1)多数の漁船が操業している海域であったこと

(原因の考察)
 本件は,明悦丸が,後方の見張りを十分に行っていたなら,後方から接近する八幡丸の灯火を認識し,警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとることによって防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,前方の漁船の動静に気をとられて後方の見張りを行わず,警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作もとらなかったことは,いずれも本件の原因となる。
 一方,八幡丸が,左舷方の見張りを十分に行っていたなら,自船が追い越す態勢で接近する明悦丸の灯火を認識し,同船の進路を避けることによって衝突を防止できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,右舷方の僚船の動静に気をとられ,左舷方の見張りを行わず,明悦丸の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 レーダー画面の海面反射の調整を行っていなかったこと,作業灯を点灯していたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない,しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 多数の漁船が操業していた海域であったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,両船が北海道登別漁港南東方沖合を西航中,明悦丸を追い越す八幡丸が,見張り不十分で,明悦丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,明悦丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,北海道登別漁港南東方沖合を漁場移動のため西航する場合,左舷前路を航行中の明悦丸を見落とすことのないよう,左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,右舷方の僚船の動静に気をとられ,左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,明悦丸を追い越す態勢で接近していることに気付かず,同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き,明悦丸の右舷中央部やや船尾寄り外板に擦過傷を,八幡丸の左舷船首ブルワークに凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,夜間,北海道登別漁港南東方沖合を室蘭港に向け西航する場合,漁船が多数操業している海域であったから,右舷後方から接近する八幡丸を見落とすことのないよう,後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,前方の漁船の動静に気をとられ,後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船を追い越す態勢で接近する八幡丸に気付かず,警告信号を行うことも,間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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