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平成17年長審第32号
件名

漁船第三優紀丸モーターボート潤天丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年11月17日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦,山本哲也,藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:第三優紀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a,b,c,d

損害
第三優紀丸・・・右舷船首部に擦過傷
潤天丸・・・右舷中央部から左舷船尾にかけて甲板等に破口等,船長及び同乗者1人が死亡,他同乗者2人が頚椎捻挫,上気道炎の負傷

原因
第三優紀丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
潤天丸・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第三優紀丸が,見張り不十分で,停留中の潤天丸を避けなかったことによって発生したが,潤天丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月5日07時45分
 鹿児島県黒之瀬戸
 (北緯32度06.1分 東経130度10.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三優紀丸 モーターボート潤天丸
総トン数 9.1トン  
登録長 12.53メートル 5.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   7キロワット
漁船法馬力数 110  
(2)設備及び性能等
ア 第三優紀丸
 第三優紀丸(以下「優紀丸」という。)は,平成2年12月に進水し,鹿児島県長島,熊本県御所浦島及び同県天草下島の周辺に設置された養殖いけすの清掃に従事する一層甲板型FRP製漁船で,船体中央より少し後方に操舵室を配して同室上にも操縦席を有し,操舵室には,ほぼ中央に舵輪,左舷側に機関操作レバー,また前面の棚に左舷側からレーダー,GPSプロッター及び魚群探知機が配置され,舵輪後方にいすが備えられていた。
 最大速力は,機関回転数毎分2,200(以下,回転数については毎分のものを示す。)の約20ノットで,航海速力は同回転数1,800の約16.5ノットとし,最大舵角時の旋回径が約25メートルであった。
 操舵位置からの船首方見通し状況は,徐々に機関回転数を上げると,同回転数1,000の速力約10ノットから船首が浮上し始めて同回転数1,300の速力約13ノットで船首浮上が最大となり,正船首から両舷側にそれぞれ3ないし5度の範囲で前方の見通しが妨げられる状態となるが,さらに速力を上げるにしたがって船首が徐々に下がり,航海速力状態では船首浮上が収まり,見張りに支障を生じることはなかった。
イ 潤天丸
 潤天丸は,昭和50年5月に進水した,有効な音響による信号を行うことができる設備を有さない,最大とう載人員4人の,船尾端に船外機を備えたFRP製モーターボートで,甲板上に構造物がなく,甲板中央部に2個のいけすが,船尾右舷側に1個の物入れがそれぞれさぶた付で設けられていた。

3 事実の経過
 優紀丸は,A受審人が1人で乗り組み,養殖いけすの清掃に従事する目的で,船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成17年1月5日07時40分鹿児島県黒之浜港を発し,熊本県天草下島の宮野河内湾に設置されている養殖場に向かった。
 発航後,A受審人は,操舵室の舵輪後方に立って手動操舵で港口に向かい,外防波堤に並んだとき,港口の西方200メートルばかり沖合で,船首方から右方に掛けて南北に4隻並んで操業中のはえ縄漁船を認めたので,同漁船群の手前で右転して黒之瀬戸大橋(以下「大橋」という。)中央部付近に向けることとした。
 このとき,A受審人は,大橋付近の海域を一見したものの,正月明け早々であったためか,平素この時間帯に多数出ている釣り船などを見掛けなかったうえ,1隻だけ停留して釣りを行っていた潤天丸が,甲板上に構造物がなく,距離を隔てると視認し難かったこともあって,その存在を見落としたまま,大橋付近の海域には航行の支障となる他船はないものと思い,漁船群との距離に注意しながらゆっくり右転を開始した。
 07時43分A受審人は,黒之浜港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から321度(真方位,以下同じ。)300メートルの地点において,自船に近い漁船を左舷側に約10メートル離す態勢となったとき,針路を大橋のほぼ中央部に向く005度に定め,機関を全速力前進にかけ,16.5ノットの速力で手動操舵によって進行した。
 定針したとき,A受審人は,右舷船首1度1,060メートルに停留中の潤天丸が存在し,その後,ほぼ自船に船首を向けた態勢の同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近していたが,依然として前路に当たる,大橋付近の海域には航行の支障となる他船はないものと思い,船首方の見張りを十分に行うことなく,このことに気付かなかった。
 こうして,A受審人は,右転するなど,潤天丸を避けることなく続航中,07時45分南防波堤灯台から356度1,260メートルの地点において,優紀丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船首が潤天丸の右舷中央部外板に前方から35度の角度で衝突し,乗り切った。
 当時,天候は晴で風力3の北東風が吹き,視界は良好であった。
 また,潤天丸は,船長Bが1人で乗り組み,姉2人と義兄を同乗させ,釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,同日07時25分長島の火ノ浦船だまりを発し,大橋の東側橋脚付近に向かった。
 07時30分B船長は,南防波堤灯台から003度1,590メートルの地点に当たる,釣り場に達し,機関を停止回転として停留し,折からの南流によって0.8ノットの速力で206度方向に圧流されながら左舷船尾に座って船首方を向き,左舷船首で義兄のCが,その後方で同人の妻のDが,さらにその後方で姉のEがそれぞれ船尾方を向く姿勢で座って手釣りを行う状況の下,自らも一本釣りを開始した。
 07時43分B船長は,南防波堤灯台から357度1,310メートルの地点で停留したまま,船首が150度を向いていたとき,右舷船首36度1,060メートルのところに,自船に向首する態勢で接近してくる優紀丸が存在したが,そのころ入れ食い状態であったことから,釣りに夢中になり,周囲の見張りを十分に行うことなく,優紀丸が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かなかった。
 こうして,B船長は,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることなく,同じ船首方向のまま停留して魚釣り中,07時45分わずか前至近に迫った優紀丸を認めたものの,どうすることもできず,潤天丸は,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,優紀丸は右舷船首に擦過傷を生じ,潤天丸は右舷中央部から左舷船尾にかけて甲板等に破口を生じ,B船長(小型船舶操縦士免許受有)が右血気胸,E同乗者が左血気胸で死亡と検案され,他同乗者2人がそれぞれ頚椎捻挫,上気道炎を負った。

(航法の適用)
 本件は,黒之瀬戸において,北上中の優紀丸と停留中の潤天丸とが衝突したもので,海上衝突予防法にはこれら航行中の動力船と停留中の船舶に適用する個別の航法規定が存在しないことから,同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 優紀丸
(1)平素大橋付近の海域に多数出ている釣り船を見掛けなかったこと
(2)大橋付近の海域を一見したのみで潤天丸を見落としたこと
(3)ほぼ自船に船首を向けた態勢で停留する甲板上に構造物のない潤天丸に向首する態勢であったこと
(4)前路に他船はないと思い,見張りが十分でなかったこと
(5)停留中の潤天丸を避けなかったこと

2 潤天丸
(1)甲板上に構造物がなかったこと
(2)航路筋で停留していたこと
(3)衝突の危険に対する認識が十分でなかったこと
(5)釣りに夢中になり,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(6)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,北上中の優紀丸が,見張りを十分に行っていたなら,前路に停留中の潤天丸を視認して発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,大橋付近の海域を一見したのみで潤天丸を見落としたまま,前路に他船はないと思い,見張りを十分に行わず,停留中の潤天丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が平素大橋付近の海域に多数出ている釣り船を見掛けなかったこと及び優紀丸がほぼ自船に船首を向けた態勢で停留する甲板上に構造物のない潤天丸に向首する態勢であったことは,いずれも本件発生に関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 一方,停留中の潤天丸が,見張りを十分に行っていたなら,接近する優紀丸を視認して衝突を避けるための措置をとることができ,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,潤天丸船長が,釣りに夢中になり,周囲の見張りを十分に行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 潤天丸船長が,衝突の危険に対する認識が十分でなかったことは,原因としないが,甲板上に構造物のない潤天丸に同乗者3人を乗せ,漁船などが航行する航路筋に自船のみで停留して釣りを行っていたのであるから,他船の避航に頼るだけではなく,旗等を掲げるなり,特に見張りに気を配るなど,衝突するような事態を積極的に回避するという安全意識が求められたところである。

(海難の原因)
 本件衝突は,鹿児島県黒之瀬戸において,北上中の優紀丸が,見張り不十分で,前路で停留中の潤天丸を避けなかったことによって発生したが,潤天丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,鹿児島県黒之瀬戸をいけす清掃のため天草下島の宮野河内湾に向けて北上する場合,前路で停留中の潤天丸を見落とすことのないよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,大橋付近の海域を一見したのみで同海域には航行の支障となる他船はないものと思い,その後,船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で停留中の潤天丸に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,優紀丸の右舷船首に擦過傷を,潤天丸の右舷中央部から左舷船尾にかけて甲板等に破口をそれぞれ生じさせ,B船長と同乗者1人を死亡させ,同乗者2人にそれぞれ頚椎捻挫,上気道炎を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。

  よって主文のとおり裁決する。


参考図
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