(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月9日14時09分
佐賀県呼子港
(北緯33度32.8分 東経129度53.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船フェリーげんかい |
総トン数 |
675トン |
登録長 |
61.15メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,647キロワット |
3 事実の経過
フェリーげんかい(以下「げんかい」という。)は,2機2軸で,バウスラスターを備え,佐賀県呼子港と長崎県壱岐島印通寺港間の定期航路に就航する全通船楼型鋼製旅客船兼自動車渡船で,A受審人ほか10人が乗り組み,旅客30人及び車両6台を載せ,船首3.06メートル船尾3.18メートルの喫水をもって,平成16年5月9日13時00分印通寺港を発し,呼子港に向かった。
A受審人は,発航操船に引き続いて航海当直に当たり,甲板員1人を操舵と見張りに就け,機関を14.0ノットの全速力前進にかけて壱岐水道を南下したのち,14時01分呼子港中防波堤南灯台(以下「防波堤南灯台」という。)から039度(真方位,以下同じ。)320メートルの地点に当たる,港界付近の海域に達したとき,乗組員に入港部署配置に就くよう指示して右舵を令し,港内に向けて右転を始めた。そして,14時02分少し前防波堤南灯台を右舷側に80メートル離して航過したのち,昇橋してきた機関長と一等機関士をそれぞれ機関操作と見張りに当たらせ,当直の甲板員を車両甲板の入港準備のために降橋させて自ら操舵に当たり,船首配置に一等航海士と甲板員1人を,船尾配置に甲板長と甲板員1人をそれぞれ就け,折から強風,波浪注意報が発表中で,付近の海域では風力5の南南西風が吹く状況下,全速力前進のまま港奥に向けて西行した。
A受審人は,14時03分少し前防波堤南灯台から247度410メートルの地点に達したとき,機関を8.0ノットの微速力前進としてフェリー岸壁の北方対岸にある佐賀県加部島の南岸沿いに進行し,同時03分少し過ぎ同灯台から244.5度550メートルの地点に当たる,通常の着岸進路に転針する予定地点に達したものの,着岸操船時の風圧による圧流を考慮し,もう少し風上で左転して,同岸壁に対して平素より大きい角度をもって接近することにし,機関を両舷極微速力前進として速力を徐々に減じながら続航した。
14時04分少し過ぎA受審人は,防波堤南灯台から243度700メートルの地点に達してフェリー岸壁の接舷側を見通すことができる状況となったとき,左舷主機停止を令し,左舵一杯として同岸壁に向けて左転を開始した。そして,14時06分少し過ぎ防波堤南灯台から233度840メートルの地点に達してフェリー岸壁の北端までの距離が260メートルとなったとき,針路を同岸壁のほぼ南端に向首するよう127度に定め,右舷主機1軸を極微速力前進時の回転数にかけたまま,3.5ノットの速力で,ほぼ右舷正横方から風力5の風圧を受けながら同岸壁に対して約20度の角度をもった態勢で進行した。
14時08分少し前A受審人は,防波堤南灯台から222度800メートルの地点に達してフェリー岸壁北端までの距離が100メートルとなったとき,右舷主機停止を令し,その後船体が左方に約15度圧流される状況下,両舷主機停止のまま前進惰力で続航した。
機関を停止して間もなく,A受審人は,風圧を受けて船尾が風下に圧流されていることを知ったが,フェリー岸壁に対して平素より大きい角度をもって接近しているので,このまま進行すれば,同岸壁の前面で船体と岸壁とが平行となって無難に着岸できるものと思い,両舷主機を適宜前後進にかけてバウスラスターと舵を使用するなど,風圧に対する船体姿勢制御のための措置を適切にとることなく,徐々に船尾が風下に圧流される態勢のまま続航した。
こうして,A受審人は,14時09分少し前船体がフェリー岸壁とほぼ平行になった態勢で船首端が同岸壁の北端を通過したとき,行きあしを減殺しようと左舷主機を微速力後進にかけたところ,船尾が急速に風下に向けて圧流される状況を認め,急ぎ左舵一杯として右舷主機を極微速力前進にかけたが,げんかいは,14時09分船首が154度を向いた態勢で行きあしが約2ノットになったとき,防波堤南灯台から215度770メートルの地点に当たる,フェリー岸壁の北端に,その左舷側後部が衝突した。
当時,天候は曇で風力5の南南西風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
岸壁衝突の結果,げんかいは,左舷側後部外板に凹損を生じ,フェリー岸壁に擦過傷を生じたが,のち損傷部はそれぞれ修理された。
(海難の原因)
本件岸壁衝突は,佐賀県呼子港において,右舷正横方から風力5の南南西風を受ける態勢でフェリー岸壁に着岸する際,風圧に対する船体姿勢制御のための措置が不適切で,船尾が風下の同岸壁に向けて圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,佐賀県呼子港において,右舷正横方から風力5の南南西風を受ける態勢で,フェリー岸壁に向けて前進惰力で進行中,船尾が風下に圧流されていることを知った場合,両舷主機を適宜前後進にかけてバウスラスターと舵を使用するなど,風圧に対する船体姿勢制御のための措置を適切にとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,フェリー岸壁に対して平素より大きい角度をもって接近しているので,このまま進行すれば,同岸壁の前面で船体と岸壁とが平行となって無難に着岸できるものと思い,風圧に対する船体姿勢制御のための措置を適切にとらなかった職務上の過失により,徐々に船尾が風下の同岸壁に向けて圧流される態勢のまま進行して衝突を招き,げんかいの左舷側後部外板に凹損を,フェリー岸壁に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。