(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月12日19時55分
大分県姫島西方沖合
(北緯33度44.8分 東経131度31.0分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船泉翔丸 |
漁船幸義丸 |
総トン数 |
497トン |
4.76トン |
全長 |
69.81メートル |
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登録長 |
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10.63メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
泉翔丸は,船尾船橋型全通二層甲板の貨物船兼砕石運搬船で,A受審人ほか4人が乗り組み,コークス1,005トンを積載し,船首3.1メートル船尾4.5メートルの喫水をもって,平成16年8月12日16時15分関門港若松区を発し,千葉県木更津港に向かった。
A受審人は,17時00分部埼灯台から050度(真方位,以下同じ。)720メートルの地点で,船長から船橋当直を引き継いで単独で同当直に就き,折からの西流に抗し,推薦航路線に沿って自動操舵で進行し,18時15分本山灯標から242度3.2海里の地点で,針路を112度に定め,10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で続航した。
19時52分A受審人は,香々地灯台から349度4.1海里の地点に達したとき,左舷船首12度990メートルのところに,南下する幸義丸の垂直連掲した漁ろうに従事中を示す灯火2灯のほか舷灯の緑1灯を視認でき,その後,同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,周囲の漁船や反航船の動静監視に気をとられ,前方の見張りを十分に行っていなかったので,幸義丸の存在も,同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であることにも気付かなかった。
A受審人は,漁ろうに従事中の幸義丸の進路を避けずに同じ針路及び速力で続航中,泉翔丸は,19時55分香々地灯台から356度3.8海里の地点において,その船首部が幸義丸の右舷船尾部に後方から88度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候はほぼ高潮時で,視界は良好であった。
また,幸義丸は,小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,昭和50年12月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免許を取得したB受審人が単独で乗り組み,操業の目的で,同日17時 00分大分県長洲漁港を発し,同県姫島西方沖合の漁場に向かった。
ところで,幸義丸の底引き網漁は,船体中央部から両舷に張り出した各張り出し棒の先端から延出したワイヤーロープの引き索に合成繊維索及び網部を繋いで全長約230メートルとした漁具を2ないし3ノットの速力で曳網するものであった。
B受審人は,18時ごろ目的地に着き,漁ろうに従事中の法定灯火を掲げて操業を始めたものの,漁模様が芳しくなかったので,漁場を変えることとし,19時20分香々地灯台から334度2.4海里の地点で,針路を034度に定め,網を海中に投じたまま,3.2ノットの速力で北東に向かって進行した。
19時52分B受審人は,香々地灯台から355度4.0海里の地点に至り,反転して針路を200度に転じ,2.3ノットの速力で曳網を再開したとき,右舷船首80度990メートルのところに泉翔丸の表示する白,白,紅3灯を視認することができ,その後,同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,漁ろうに従事中の法定灯火を掲げているので,接近する他船が避けてくれるものと思い,操舵室後方でたばこを吸っていて,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,同船の存在も,衝突のおそれがある態勢で接近する状況であることにも気付かなかった。
B受審人は,避航の様子を見せないまま接近する泉翔丸に対し,有効な音響による避航を促す信号を行わず,更に接近した際,行きあしを止めるなどして衝突を避けるための協力動作をとらずに曳網中,幸義丸は,同じ針路及び速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,泉翔丸は球状船首及び右舷船首部に擦過傷を,幸義丸は右舷船尾部に破口をそれぞれ生じ,B受審人が右背部挫傷を負った。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,姫島西方沖合において,東行する泉翔丸が,見張り不十分で,漁ろうに従事している幸義丸の進路を避けなかったことによって発生したが,幸義丸が,見張り不十分で,有効な音響による避航を促す信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,姫島西方沖合において,東行する場合,前路で漁ろうに従事中の幸義丸を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,周囲の漁船や反航船の動静監視に気をとられ,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漁ろうに従事中の幸義丸に気付かず,同船の進路を避けずに進行して衝突を招き,泉翔丸の球状船首及び右舷船首部に擦過傷を,幸義丸の右舷船尾部に破口をそれぞれ生じさせ,B受審人に右背部挫傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
B受審人は,夜間,姫島西方沖合において,漁ろうに従事しながら南下する場合,衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,漁ろうに従事中の法定灯火を掲げているので,接近する他船が避けてくれるものと思い,操舵室後方でたばこを吸っていて,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する泉翔丸に気付かず,有効な音響による避航を促す信号を行わず,更に接近した際,行きあしを止めるなどして衝突を避けるための協力動作をとらずに曳網を続けて同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自身が右背部挫傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。