日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年門審第21号
件名

貨物船第五松寿丸漁船錦海丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年11月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治,西林 眞,片山哲三)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:第五松寿丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
補佐人
a
受審人
B 職名:錦海丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第五松寿丸・・・船首材等に擦過傷
錦海丸・・・右舷中央よりやや後部外板に破口等,船長が負傷

原因
錦海丸・・・動静監視不十分,追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第五松寿丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第五松寿丸を追い越す錦海丸が,動静監視不十分で,第五松寿丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまで同船の進路を避けなかったことによって発生したが,第五松寿丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月15日03時10分
 鹿児島湾
 (北緯31度18.4分 東経130度40.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第五松寿丸 漁船錦海丸
総トン数 199トン 2.9トン
全長 57.83メートル 10.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 147キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第五松寿丸
 第五松寿丸(以下「松寿丸」という。)は,平成6年2月に進水し,主に鹿児島港と奄美大島各港との間で生活物資等の運搬に従事する全通二層甲板船尾船橋型鋼製貨物船で,バウスラスタ,固定ピッチ式推進器1個,レーダー1台,GPS,電動油圧式操舵装置,自動操舵装置,エアホーン,モーターサイレン,及び船橋上部に探照灯を装備していた。
 同船は,船橋後壁にも窓が設置してあって船橋から周囲の見張りを妨げるものはなかった。
イ 錦海丸
 錦海丸は,平成8年3月に進水し,一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で,船体中央部に機関室,同室の上部後方に操舵室があり,固定ピッチ式推進器1個,GPSプロッタ及び同画面に組み込まれた魚群探知器,主機駆動油圧式操舵装置並びに電気ホーンを装備し,操舵室上部に設置されたマストの頂部に白色全周灯,同灯の下方に黄色回転灯,及び同マストの下部に両色灯を設備していた。
 同船は,操舵室内の右舷寄りにある舵輪の後方に操舵用椅子が設置されており,航走中,わずかに船首浮上が生じるものの,前方の見通しは良好であった。
 同船は,操舵室前部に機関室への出入口階段が設けられていたが,同階段には機関音を遮る扉などは設けられておらず,また,操舵室後部には後部甲板へ通じる引戸が設置されていた。

3 事実の経過
 松寿丸は,船長C,A受審人ほか2人が乗り組み,空コンテナ40個を積載し,船首2.5メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成16年6月14日08時30分鹿児島県古仁屋港を発し,鹿児島港谷山2区に向かった。
 ところで,C船長は,航海船橋当直体制については,0時から4時の時間帯をA受審人が,4時から8時の時間帯を自分自身が,8時から0時の時間帯を機関長がそれぞれ単独で当直を実施するように定め,各人に対し,当直中は佐多岬沖合での航行船との見合い関係や鹿児島湾内での漁船の動向などに注意を払うよう指導していた。
 23時30分A受審人は,鹿児島県佐多岬南方で船橋当直を機関長から引き継ぎ,法定の灯火及び船尾甲板の作業灯がそれぞれ点灯していることを確認して舵輪の船尾側に立った姿勢で当直に就き,翌15日03時00分知林島灯台から085度(真方位,以下同じ。)1,730メートルの地点で,自動操舵により針路を329度に定め,機関を全速力前進にかけて11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 03時05分半A受審人は,知林島灯台から021.5度1,950メートルの地点に達したとき,船橋左舷側後部の窓を通して左舷船尾28度530メートルのところに,錦海丸の表示する黄色回転灯を初認し,付近海域の漁船の航行中の灯火表示模様を知っていたことから,同回転灯が同航する漁船のものであると認識したが,一瞥(いちべつ)しただけで,同船が自船を無難に追い越すと思い,その後,同船に対する動静監視を行わなかったので,わずかな交角をもって針路が交差し,自船を追い越し,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となっていることに気付かず,警告信号を行うことも,更に接近するに及んで右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 こうしてA受審人は,前路を見張りながら航行中,03時09分半わずか過ぎふと左舷方を見たところ,船橋至近に錦海丸を認め,衝突の危険を感じて,探照灯の照射に引き続いて汽笛の吹鳴を行ったが効なく,03時10分知林島灯台から358度3,200メートルの地点において,松寿丸は,原針路,原速力のまま,その船首が錦海丸の右舷中央やや後部にほぼ直角に衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の中央期であった。
 C船長は,自室で休息中,自船の汽笛音により異常を感じて昇橋したところ,衝突したことを知り,事後の措置にあたった。
 また,錦海丸は,B受審人が1人で乗り組み,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同月13日10時40分鹿児島港谷山1区を発し,16時ごろ口永良部島沖合の漁場に到着し,操業を行ったのち,翌14日21時45分法定の灯火を点灯したほか,他船に自船の存在を知らせるつもりで黄色回転灯を点灯して同漁場を発進し,水揚げのため,同港本港区に向かった。
 翌15日03時05分半B受審人は,知林島灯台から030度1,480メートルの地点に達したとき,針路を335度に定め,15.0ノットの速力で,操舵用椅子に腰を掛けた姿勢で,手動操舵により進行した。
 定針時,B受審人は,右舷船首22度530メートルのところに白1灯を見せた松寿丸が存在し,その後,同船とわずかな交角をもって針路が交差し,同船を追い越す態勢で接近する状況であったが,このことに気付かず続航した。
 03時07分B受審人は,知林島灯台から013度1,970メートルの地点で,右舷船首22度370メートルのところに松寿丸の船尾灯及び船尾甲板の作業灯を初認したが,一瞥しただけで,このまま無難に航行できると思い,その後,同船に対する動静監視を行わなかったので,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまで同船の進路を避けないまま進行した。
 こうして,03時08分ごろB受審人は,船尾甲板上で小用を足すために操舵室を離れ,同時09分半ごろ操舵室に戻ったものの,同室左舷後方の床に置いたお茶用のポットをしゃがみ込んだ姿勢で探しており,同時09分半わずか過ぎ松寿丸の発した探照灯の照射や汽笛音に気付かず続航中,同時10分直前錦海丸は,松寿丸と接近したことによる相互作用により,同船の船首付近で急激に右転させられて,同船の正船首方に進出して船首が北東方を向いたとき,ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,松寿丸は,船首材等に擦過傷を生じ,錦海丸は,右舷中央よりやや後部外板に破口等を生じたが,のち修理され,B受審人が,9日間の通院治療を要する顔面切傷,頚部捻挫等を負った。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,鹿児島湾において,松寿丸と錦海丸の両船が共に北上中,錦海丸が,松寿丸の舷灯を見ることができない位置から同船を追い越す態勢で接近して発生したものであり,海上衝突予防法第13条を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 松寿丸
(1)錦海丸を一瞥しかしなかったこと
(2)錦海丸が自船を無難に追い越すと思ったこと
(3)錦海丸に対する動静監視を行わなかったこと
(4)警告信号を行わなかったこと
(5)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 錦海丸
(1)松寿丸を一瞥しかしなかったこと
(2)松寿丸は同航船で,このまま無難に航行できると思ったこと
(3)松寿丸に対する動静監視を行わなかったこと
(4)松寿丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまで同船の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 松寿丸が,左舷船尾方に錦海丸を認めた後,同船の動静を監視し,警告信号を行い,更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとっていたならば,本件衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,錦海丸を一瞥しただけで,同船が自船を無難に追い越すと思い,同船に対する動静監視を行わず,警告信号を行わず,更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。なお,松寿丸の汽笛吹鳴は,衝突直前に行われたものであるので,海上衝突予防法に規定する警告信号と認めることはできない。
 錦海丸が,右舷船首方に松寿丸を認めた後,同船の動静を監視し,同船を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまで同船の進路を避けていたならば,本件衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,松寿丸を一瞥しただけで,このまま無難に航行できると思い,同船に対する動静監視を行わず,同船を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまで同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,鹿児島湾において,松寿丸と錦海丸の両船が北上中,松寿丸を追い越す錦海丸が,動静監視不十分で,松寿丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまで同船の進路を避けなかったことによって発生したが,松寿丸が,動静監視不十分で,錦海丸に対して警告信号を行わず,更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,鹿児島湾において,北上中,右舷船首方に同航する松寿丸の灯火を認めた場合,同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,一瞥しただけで,同船は同航船だからこのまま無難に航行できると思い,松寿丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して衝突を招き,同船の船首材等に擦過傷を,自船の右舷中央よりやや後部外板に破口等をそれぞれ生じさせ,自身が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,夜間,鹿児島湾において,北上中,左舷船尾方に同航する錦海丸の灯火を認めた場合,同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,一瞥しただけで,同船が自船を無難に追い越すと思い,錦海丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行わず,更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き,前示のとおり両船に損傷を生じさせ,B受審人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

  よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:13KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION