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平成17年門審第66号
件名

漁船第二福吉丸貨物船ゴールド リーダー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年11月2日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,西林 眞,尾崎安則)

理事官
勝又三郎

受審人
A 職名:第二福吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第二福吉丸・・・右舷船首部外板に亀裂を伴う擦過傷
ゴールド リーダー・・・左舷船尾部ハンドレール等の損傷

原因
第二福吉丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
ゴールド リーダー・・・見張り不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第二福吉丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切るゴールド リーダーの進路を避けなかったことによって発生したが,ゴールド リーダーが,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月1日15時35分
 長崎県壱岐島北方沖合
 (北緯34度02.4分 東経129度48.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第二福吉丸 貨物船ゴールド リーダー
総トン数 19トン 1,466トン
全長 25.50メートル 72.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 1,471キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第二福吉丸
 第二福吉丸(以下「福吉丸」という。)は,平成5年7月に進水したFRP製漁船で,船体中央よりやや船尾側に機関室を,その上に操舵室を,船首部及び船尾端にそれぞれマストを有する構造で,操舵室には2台のレーダー,GPSプロッタ,魚群探知機及び無線方位測定機などがそれぞれ備えられていた。
イ ゴールド リーダー
 ゴールド リーダー(以下「ゴ号」という。)は,西暦1980年9月にD社で進水した鋼材等を積載する船尾船橋型の鋼製貨物船で,船橋にはレーダー2台,GPS及び音響測深機などがそれぞれ備えられていた。

3 事実の経過
 福吉丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.5メートル船尾2.1メートルの喫水をもって,平成16年9月1日14時10分芦辺港を発し,壱岐島北北東方沖合の漁場に向かった。
 発航後,A受審人は,舵と機関とを適宜使用して外防波堤の南端を航過し,速力を航海速力の10.5ノット(対地速力,以下同じ。)に増速して北上した。そして,14時24分魚釣埼灯台から139度(真方位,以下同じ。)0.8海里の地点で,針路を007度に定めて手動操舵で進行し,同時35分自動操舵に切り替えて続航した。
 A受審人は,15時05分魚釣埼灯台から012度6.8海里の地点に達したとき,周囲を見回して他船を認めなかったので,1台のレーダーを,平素は設定していた警報装置のガードリングを設定しないまま,6海里レンジで作動させ,操舵室の床に腰を下ろし,目視による周囲の見張りができない体勢で機器類の調整を始め,引き続き,同じ体勢のままテレビジョン放送を見始めた。
 15時30分A受審人は,魚釣埼灯台から011度11.1海里の地点に至ったとき,右舷船首36度1.2海里のところに,ゴ号を視認でき,その後,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することが分かる状況であったが,腰を下ろす前に周囲を見回したとき他船を認めなかったことから,付近に他船はいないと思い,操舵室の床に座ったまま,テレビジョン放送を見ることに夢中になり,立ち上がって周囲を見回すなど見張りを十分に行わず,また,作動中のレーダー画面を見るなどしていなかったので,ゴ号の存在も,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かず,同船の進路を避けずに進行した。
 福吉丸は,同じ針路及び速力で続航中,15時35分魚釣埼灯台から010度12.0海里の地点において,その右舷船首部がゴ号の左舷船尾部に後方から45度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力3の西風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 また,ゴ号は,船長B及び二等航海士Cほか7人(全員フィリピン人)が乗り組み,鋼材1,980.914トンを積載し,船首4.5メートル船尾4.9メートルの喫水をもって,同年8月31日05時45分阪南港を発し,大韓民国仁川港に向かった。
 C二等航海士は,翌9月1日12時00分福岡県大島北方沖合11海里ばかりの地点で,昇橋して前直者と交代し,単独の船橋当直に就き,針路を269度に定め,8.7ノットの速力で,2台のレーダーを作動させて同当直を続けていたが,周囲の見張りを十分に行うことなく進行した。
 15時30分C二等航海士は,魚釣埼灯台から013度12.1海里の地点に達したとき,左舷船首46度1.2海里のところに,福吉丸を視認でき,その後,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することが分かる状況であったが,依然として周囲の見張りを十分に行っていなかったので,福吉丸の存在も,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かず,警告信号を行うことも,さらに接近するに及んで,右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることもせずに続航中,同時34分半少し前左舷船首46度400メートルまでに迫った福吉丸を初めて認め,右舵一杯をとったが,効なく,ゴ号は,右回頭中,322度を向首したとき,ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,福吉丸は右舷船首部外板に亀裂を伴う擦過傷を生じ,ゴ号は左舷船尾部ハンドレール等を損傷したが,のち,いずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 福吉丸
(1)作動中のレーダー画面を見ていなかったこと
(2)腰を下ろす前に周囲を見回したとき他船を認めなかったことから,付近に他船はいないと思ったこと
(3)操舵室の床に腰を下ろしてテレビジョン放送を見ることに夢中になっていたこと
(4)周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(5)ゴ号の進路を避けなかったこと

2 ゴ号
(1)周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
1 福吉丸
 福吉丸が,周囲の見張りを十分に行っていたなら,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するゴ号に気付き同船の進路を避けていたものと認められる。
 従って,A受審人が腰を下ろす前に周囲を見回したとき他船を認めなかったことから,付近に他船はいないと思い,操舵室の床に腰を下ろしてテレビジョン放送を見ることに夢中になり,周囲の見張りを十分に行わず,ゴ号の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 A受審人が,作動中のレーダー画面を見ていなかったことは,レーダー画面を監視していれば,ゴ号の存在を知ることができたものであるが,当時視界は良好であり,目視で十分に視認できる状況であったのであるから,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかし,このことは,海難防止の観点から,是正すべき事項である。

2 ゴ号
 ゴ号が,周囲の十分な見張りを行っていたなら,福吉丸との横切り関係に気付き,同船に避航の気配がないときは,警告信号を行い,更に間近に接近したときは,衝突を避けるための協力動作をとり,本件は回避されていたものと認められる。
 従って,十分な見張りを行わず,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,壱岐島北方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際,漁場に向け北上する福吉丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切るゴ号の進路を避けなかったことによって発生したが,西行中のゴ号が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,壱岐島北方沖合において,漁場に向け北上する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,腰を下ろす前に周囲を見回したとき他船を認めなかったことから,付近に他船はいないと思い,操舵室の床に座ったまま,テレビジョン放送を見ることに夢中になり,立ち上がって周囲を見回すなどして,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するゴ号に気付かず,同船の進路を避けずに進行して衝突を招き,福吉丸の右舷船首部外板に亀裂を伴う擦過傷を,ゴ号の左舷船尾部ハンドレール等を損傷させる至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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