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平成17年広審第82号
件名

引船大興丸引船列漁船住吉丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年11月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(島友二郎,川本 豊,米原健一)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:大興丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:住吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
大興丸引船列・・・台船うえだ1001の左舷前部に擦過傷
住吉丸・・・船首部に亀裂等

原因
大興丸引船列・・・動静監視不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
住吉丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,大興丸引船列が,動静監視不十分で,漁ろうに従事している住吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが,住吉丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月27日12時30分
 燧灘
 (北緯34度09.8分 東経133度26.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 引船大興丸 台船うえだ1001
総トン数 19トン  
登録長 15.30メートル  
全長   40.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 367キロワット  
船種船名 漁船住吉丸  
総トン数 4.87トン  
全長 12.80メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 15  
(2)設備及び性能等
ア 大興丸
 大興丸は,平成4年に進水した航行区域を限定沿海区域とする引船で,レーダー,測深儀及びモーターホーンを装備していた。
イ うえだ1001
 うえだ1001(以下「台船」という。)は,1997年に建造された非自航の鋼製台船で,甲板上に構造物はなかった。
ウ 住吉丸
 住吉丸は,昭和52年4月に進水した小型機船底びき網漁業に従事する木製漁船で,船体中央後部に操舵室を有し,航海計器類は装備されておらず,モーターサイレンは10年ほど前から故障して,使用不能であった。また,自動操舵装置は装備されておらず,操業中に舵輪から手を離して作業を行うときは,30センチメートルほどの紐の先に取付けた針金製のフックを舵輪に掛け,その紐を舵輪前方の窓枠に縛り,舵輪を固定していた。

3 事実の経過
 大興丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,船首1.20メートル船尾1.25メートルの喫水をもって,空船のまま船首尾とも0.5メートルの喫水となった台船との間に引索50メートルをとり,大興丸の船尾から台船船尾端までの長さが約100メートルの引船列(以下「大興丸引船列」という。)をなし,平成17年1月27日09時20分愛媛県西条港を発し,水島港に向かった。
 10時04分A受審人は,船上岩灯標から035度(真方位,以下同じ。)0.5海里の地点で,針路を042度に定め,機関を回転数毎分330にかけて6.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,ひし形の形象物を掲げて,自動操舵により進行した。
 12時10分A受審人は,篠塚港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から,121度5.3海里の地点に差し掛かったとき,左舷船首21度2.2海里のところに,住吉丸を初めて視認し,同船が法定の形象物を表示していなかったものの,曳網していることから,漁ろうに従事していることを認めた。
 12時20分A受審人は,北防波堤灯台から111度5.6海里の地点に達したとき,住吉丸の方位が変わらないまま,1.1海里となり,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,住吉丸の速力が遅いのでその前路を無難に航過できるものと思い,同船に対する動静監視を十分に行っていなかったのでこのことに気付かず,機関を使用して行きあしを止めるなど,その進路を避けることなく続航した。
 12時30分少し前A受審人は,住吉丸が自船の左舷正横至近に接近したのを認め,同船が台船と衝突する危険を感じ,機関を回転数毎分310に減じて左舵をとったものの効なく,12時30分北防波堤灯台から102度6.0海里の地点において,大興丸引船列は,大興丸が342度を,台船が012度をそれぞれ向いたとき,5.5ノットの速力で,台船の左舷前部に住吉丸の船首が前方から54度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候はほぼ高潮時にあたり,視界は良好であった。
また,住吉丸は,B受審人が1人で乗り組み,小型機船底びき網漁の目的で,船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって,同日04時00分愛媛県川之江漁港を発し,燧灘の漁場に向かった。
 B受審人は,05時30分目的の漁場に到着し,法定の形象物を表示しないまま操業を繰り返し,12時10分北防波堤灯台から097度5.3海里の地点で,8回目の曳網のために発進し,針路を138度に定め,機関を回転数毎分2,700にかけて2.5ノットの速力として,手動操舵によって進行した。
 発進したときB受審人は,右舷船首63度2.2海里のところに,大興丸引船列を視認できる状況であったが,接近する他船が漁ろう中の自船を避けてくれるものと思い,後部甲板で漁獲物の選別作業を開始し,周囲の見張りを十分行っていなかったので,同引船列に気付かなかった。
12時20分B受審人は,北防波堤灯台から100度5.7海里の地点に差し掛かったとき,大興丸引船列の方位が変わらないまま,1.1海里となり,その後同引船列と衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然周囲の見張りが不十分でこのことに気付かず,警告信号を行わず,間近に接近しても機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航し,住吉丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大興丸引船列は台船の左舷前部に擦過傷を,住吉丸は船首部に亀裂等をそれぞれ生じた。

(航法の適用)
 本件は,燧灘において,航行中の動力船である大興丸引船列と漁ろう中の住吉丸が衝突したもので,住吉丸は法定の形象物を表示していなかったが,A受審人が,同船が曳網中であることを視認し,漁ろうに従事していることを認識していたので,海上衝突予防法第18条の各種船舶間の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 大興丸引船列
(1)住吉丸の動静監視を十分に行っていなかったこと
(2)住吉丸の進路を避けなかったこと

2 住吉丸
(1)法定の形象物を掲げていなかったこと
(2)汽笛が故障していたこと
(3)周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(4)警告信号を行わなかったこと
(5)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,大興丸引船列が,住吉丸を認めたのち,引き続きその動静監視を十分に行っていれば,台船と住吉丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることがわかり,余裕のある時期に住吉丸の進路を避けることができ,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,住吉丸の速力が遅いのでその前路を無難に航過できるものと思い,動静監視を十分に行わず,住吉丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,漁ろう中の住吉丸が,見張りを十分に行っていれば,衝突のおそれがある態勢で接近する大興丸を認識して,警告信号を行うことも,自船の進路を避けないまま間近に接近したときに,衝突を避けるための協力動作をとることもでき,本件発生は回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,接近する他船が漁ろう中の自船を避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わず,警告信号も,大興丸引船列が自船の進路を避けないまま間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも,本件発生の原因となる。
 住吉丸の汽笛が故障していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,B受審人が,大興丸引船列を認めていなかったので,たとえ汽笛が故障していなかったとしても,警告信号を行うことができないのであるから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。また,住吉丸が法定の形象物を表示していなかったことも,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,A受審人が,同船が漁ろうに従事中の船舶であることを認識しているので,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,いずれも海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,燧灘において,北上中の大興丸引船列が,動静監視不十分で,漁ろうに従事している住吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが,住吉丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,燧灘を北上中,前路に漁ろうに従事している住吉丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,住吉丸の速力が遅いのでその前路を無難に航過できるものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,機関を使用して行きあしを止めるなど,その進路を避けることなく進行して住吉丸との衝突を招き,台船の左舷前部に擦過傷を,住吉丸の船首部に亀裂等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,燧灘において,漁ろうに従事する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,接近する他船が漁ろう中の自船を避けてくれるものと思い,後部甲板で漁獲物の選別作業にあたり,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれのある態勢で接近する大興丸引船列に気付かず,機関を使用して行きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとらないで同引船列との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

  よって主文のとおり裁決する。


参考図
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