(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月4日21時32分
伊豆諸島大島北方沖合
(北緯34度55.5分 東経139度27.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船第十二東洋丸 |
貨物船第一鐵運丸 |
総トン数 |
4,375トン |
499トン |
全長 |
132.52メートル |
76.38メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
6,178キロワット |
1,471キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第十二東洋丸
第十二東洋丸(以下「東洋丸」という。)は,平成3年12月に進水した,操船位置から船首端までの長さが約30メートル,眼高が約12メートルの船首船橋型の鋼製自動車運搬船兼貨物船で,自動衝突予防援助装置付きのレーダーを備えていた。また,海上試運転成績書写によると,右旋回時の縦距が406メートル,横距が509メートル,所要時間が4分38秒,左旋回時はそれぞれ392メートル,479メートル,4分11秒で,最短停止距離が910メートル,所要時間が2分48秒となっていた。
イ 第一鐵運丸
第一鐵運丸(以下「鐵運丸」という。)は,平成15年7月に進水した,操船位置から船首端までの長さが約64メートル,眼高が約11メートルの船尾船橋型の鋼製貨物船で,レーダーやGPSプロッタを備えていた。また,海上試運転成績表写によると,右旋回時の縦距が233メートル,横距が112メートル,所要時間が2分49秒,左旋回時はそれぞれ210メートル,81メートル,2分31秒で,最短停止距離が650メートル,所要時間が2分10秒となっていた。
3 事実の経過
東洋丸は,A受審人ほか9人が乗り組み,シャーシ35本,コンテナ1個及び車両348台を積載し,船首4.20メートル船尾6.20メートルの喫水をもって,平成16年9月4日18時12分京浜港東京区を発し,岡山県宇野港に向かった。
A受審人は,自ら操船の指揮に当たって浦賀水道を通過したのち,20時00分次席二等航海士を補佐として船橋当直に就き,20時24分剱埼灯台から142度(真方位,以下同じ。)2.0海里の地点において,針路を231度に定め,機関を全速力前進にかけたところ,海潮流の影響で3度左方に圧流され,228度の実効針路及び15.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)となり,所定の灯火を表示し,ヨーイングしながら自動操舵により進行した。
21時ごろA受審人は,降雨のため視程が0.7海里に狭まり視界制限状態になったことを認めたものの,霧中信号を行うことも,安全な速力に減じることもなく続航した。
21時28分少し過ぎA受審人は,伊豆大島灯台から028.5度9.6海里の地点に達したとき,6海里レンジとしたレーダーで,右舷船首4度1.8海里のところに,東行中の鐵運丸の映像を初めて認め,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,もっと接近してから避航措置をとっても間に合うものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することも行わないで進行した。
21時30分少し過ぎA受審人は,鐵運丸まで0.7海里に接近したとき,同船のマスト灯と両舷灯を初めて視認し,衝突の危険を感じて右転を命じ,次席二等航海士が手動で右舵をとったところ,回頭が遅く感じられたので左舵一杯を令して回頭を始めたが及ばず,鐵運丸の吹鳴した汽笛を聞いたのち,21時32分伊豆大島灯台から026度8.6海里の地点において,東洋丸は,201度に向首したとき,ほぼ原速力のまま,その右舷中央部に,鐵運丸の左舷中央部が,平行に衝突した。
当時,天候は雷を伴う雨で風力3の南風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,付近には東方に流れる2.0ノットの海潮流があり,視程は0.7海里で,伊豆諸島北部には雷,波浪注意報が発表されていた。
また,鐵運丸は,B受審人ほか4人が乗り組み,コンテナ約860トンを積載し,海水バラスト530トンを張り,船首3.30メートル船尾4.35メートルの喫水をもって,同日16時15分静岡県清水港を発し,京浜港東京区に向かった。
19時50分B受審人は,伊豆半島東方沖合で単独の船橋当直に就き,21時00分伊豆大島灯台から320度4.6海里の地点において,針路を054度に定め,機関を全速力前進にかけたところ,海潮流の影響で3度右方に圧流され,057度の実効針路及び15.0ノットの速力となり,所定の灯火を表示し,ヨーイングしながら自動操舵により進行した。
定針したときB受審人は,降雨のため視程が0.7海里に狭まり視界制限状態になったものの,霧中信号を行うことも,安全な速力に減じることもなく続航した。
21時28分少し過ぎB受審人は,伊豆大島灯台から023度8.0海里の地点に達したとき,6海里レンジとしたレーダーで,左舷船首1度1.8海里のところに,西行中の東洋丸の映像を探知することができ,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,付近は同航船がいるだけで,反航してくる他船はいないものと思い,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することも行わないで進行した。
21時30分少し過ぎB受審人は,東洋丸まで0.7海里に接近したとき,同船のマスト灯と両舷灯を初めて視認し,汽笛で短音1回を吹鳴し,手動操舵に切り替えて右転を開始したところ,間もなく東洋丸の左舷灯が見えなくなり,同船の左転を認め,衝突の危険を感じて右舵70度をとり,機関を停止したが及ばず,鐵運丸は,201度に向首し,約5ノットの速力となったとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,東洋丸は,右舷中央部外板などに破口を伴う凹損を,鐵運丸は,左舷中央部外板やハンドレールなどに凹損をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件は,降雨のため視界制限状態になった伊豆諸島大島北方沖合において,西行中の東洋丸と東行中の鐵運丸とが衝突したもので,海上衝突予防法第19条の視界制限状態における船舶の航法を適用するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 東洋丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)安全な速力としなかったこと
(3)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと
(4)右転を命じたが回頭が遅く感じられて左舵一杯を令したこと
2 鐵運丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)安全な速力としなかったこと
(3)レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(4)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと
3 気象等
視界が0.7海里に制限されていたこと
(原因の考察)
東洋丸が,夜間,降雨のため視界制限状態になった伊豆諸島大島北方沖合を西行中,霧中信号を行い,安全な速力とし,鐵運丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止していれば,本件は発生していなかったものと認められる。
したがって,A受審人が,霧中信号を行うことも,安全な速力に減じることもしなかったばかりか,レーダーで前路に探知した鐵運丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,右転を命じたが回頭が遅く感じられたので左舵一杯を令したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
鐵運丸が,夜間,降雨のため視界制限状態になった伊豆諸島大島北方沖合を東行中,霧中信号を行い,安全な速力とし,レーダーによる見張りを十分に行い,東洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止していれば,本件は発生していなかったものと認められる。
したがって,B受審人が,霧中信号を行うことも,安全な速力に減じることもしなかったばかりか,レーダーによる見張りが不十分で,東洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことは,本件発生の原因となる。
視界が0.7海里に制限されていたことは,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,降雨のため視界制限状態になった伊豆諸島大島北方沖合において,西行中の東洋丸が,霧中信号を行うことも,安全な速力に減じることもしなかったばかりか,レーダーで前路に探知した鐵運丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことと,東行中の鐵運丸が,霧中信号を行うことも,安全な速力に減じることもしなかったばかりか,レーダーによる見張り不十分で,東洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,降雨のため視界制限状態になった伊豆諸島大島北方沖合を西行中,レーダーで前路に探知した鐵運丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに,同人は,もっと接近してから避航措置をとっても間に合うものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により,鐵運丸との衝突を招き,東洋丸の右舷中央部外板などに破口を伴う凹損を,鐵運丸の左舷中央部外板やハンドレールなどに凹損を,それぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,降雨のため視界制限状態になった伊豆諸島大島北方沖合を東行する場合,西行する東洋丸を見落とすことのないよう,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,付近は同航船がいるだけで,反航してくる他船はいないものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,東洋丸に気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止することなく進行して東洋丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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