(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月16日09時15分
香川県四海漁港
(北緯34度30.9分 東経134度09.9分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二新栄丸 |
漁船八幡丸 |
総トン数 |
0.80トン |
0.52トン |
登録長 |
5.73メートル |
4.95メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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7キロワット |
漁船法馬力数 |
30 |
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3 事実の経過
第二新栄丸(以下「新栄丸」という。)は,船外機を備えた,雑漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和61年12月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,自宅に帰る目的で,船首0.05メートル船尾0.55メートルの喫水をもって,平成16年10月16日09時14分半四海港12号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から129度(真方位,以下同じ。)260メートルの岸壁を発し,四海漁港小江地区の係留地に向かった。
A受審人は,低速力で左回頭したのち,09時15分少し前防波堤灯台から125度255メートルの地点において,針路を311度に定め,機関を全速力前進にかけ16.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,右舷船尾部に腰掛け,手動操舵により進行した。
ところで,A受審人は,機関を全速力前進にかけると船首部が浮上し,操船位置の正船首方から左舷に約15度にかけて死角が生じることを知っていたので,普段は船首を左右に振るなど,船首方の死角を補う見張りを行っていた。
定針したときA受審人は,左舷船首4度80メートルのところに,東行中の八幡丸を視認することができ,無難に航過する態勢の同船の前路に進出する状況で接近したが,港内を航行する船舶が少ない時間帯なので,前路に他船はいないものと思い,船首を左右に振るなど,船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
A受審人は,同じ針路及び速力で続航し,09時15分防波堤灯台から124度190メートルの地点において,新栄丸は,原針路原速力のまま,その右舷船首部が,八幡丸の右舷船首部に,前方から15度の角度で衝突し,乗り切った。
当時,天候は晴で風力1の東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
また,八幡丸は,船外機を備えた,刺し網漁業などに従事するFRP製漁船で,B受審人(昭和50年5月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,同乗者1人を搬送する目的で,船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,同日09時08分四海漁港西方にある沖ノ島南岸の船だまりを発し,同漁港に向かった。
09時11分B受審人は,防波堤灯台から291度500メートルの地点において,針路を116度に定め,機関を全速力前進より少し遅い5.0ノットの速力とし,同乗者を船体中央部に腰掛けさせ,自らは右舷船尾部に腰掛け,手動操舵により進行した。
09時15分少し前B受審人は,防波堤灯台から124度175メートルの地点に達したとき,右舷船首 11度80メートルのところに,自船の前路に進出してくる北上中の新栄丸を初めて視認し,衝突の危険を感じて機関を中立とし,左舷側でかがみ込んだ直後,八幡丸は,ほぼ原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,新栄丸は右舷船首部外板に擦過傷を生じただけであったが,八幡丸は右舷船首部外板などに破口を伴う損傷を生じ,同乗者が全身打撲などを負った。
(海難の原因)
本件衝突は,香川県四海漁港において,北上中の新栄丸が,見張り不十分で,東行中の八幡丸の前路に進出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,香川県四海漁港において,単独で操舵と見張りに当たり,船首方に死角のある状況で,係留地に向け北上する場合,左舷前方の八幡丸を見落とさないよう,船首を左右に振るなど,船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,港内を航行する船舶が少ない時間帯なので,前路に他船はいないものと思い,船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,八幡丸の存在に気付かず,無難に航過する態勢の同船の前路に進出して衝突を招き,新栄丸の右舷船首部外板に擦過傷を,八幡丸の右舷船首部外板に破口を伴う損傷をそれぞれ生じさせ,同船の同乗者に全身打撲などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。