(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月17日20時20分
瀬戸内海備讃瀬戸南航路
(北緯34度20.2分 東経133度45.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船御影 |
油送船第三あたご丸 |
総トン数 |
499トン |
199トン |
登録長 |
72.05メートル |
45.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
588キロワット |
3 事実の経過
御影は,航行区域を限定近海区域とし,神戸港を基地として西日本諸港にコンテナを輸送する船尾船橋型貨物船で,A受審人ほか4人が乗り組み,コンテナ53個を積載し,船首2.35メートル船尾3.45メートルの喫水をもって,平成16年8月17日17時30分愛媛県新居浜港を発し,神戸港に向かった。
19時30分A受審人は,備讃瀬戸南航路西口の2海里ばかり手前で単独の船橋当直に就き,法定灯火を表示していることを確認し,19時40分同航路に入航したころ右舷船首方に第三あたご丸(以下「あたご丸」という。)の船尾灯を初認した。
19時53分A受審人は,二面島灯台から099度(真方位,以下同じ。)2.3海里の地点で,針路を058度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,折からの逆潮流に抗して11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
20時04分A受審人は,波節岩灯標から195度2.0海里の地点で,針路を062度に転じ,右舷船首0.5海里ばかりのところにあたご丸の船尾灯を見ながら続航した。
20時15分A受審人は,波節岩灯標から124度1.65海里の地点に達したとき,あたご丸が右舷船首25度270メートルとなり,その後同船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,親族が亡くなり,その葬儀などの手配について携帯電話で妻に指示することに気をとられ,その動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,あたご丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行した。
20時20分少し前A受審人は,備讃瀬戸南航路第7号灯浮標を左舷側に並航して065度に転じた直後,船首至近にあたご丸の船尾灯を認めたが,何もする間もなく,20時20分波節岩灯標から102度2.25海里の地点において,御影は,065度の針路で原速力のまま,その船首があたご丸の船尾に後方から7度の角度で衝突した。
当時,天候は小雨で風力2の東南東風が吹き,視界は良好で,付近には1.5ノットばかりの西南西流があった。
また,あたご丸は,航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型油送船で,B受審人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,船首0.60メートル船尾2.00メートルの喫水をもって,同日12時10分広島県大竹港を発し,和歌山県和歌山下津港に向かった。
16時00分B受審人は,愛媛県大島北方から単独で船橋当直に就き,宮ノ窪瀬戸及び備後灘を通航したのち,19時35分備讃瀬戸南航路に入航して同航路をこれに沿って東行した。
19時49分B受審人は,二面島灯台から105度2.4海里の地点で,針路を058度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,折からの逆潮流に抗して10.0ノットの速力で,法定灯火を表示して進行した。
19時50分B受審人は,左舷船尾0.8海里ばかりのところに御影のマスト灯2個及び右舷灯を初認し,そのころ次直の一等航海士が昇橋してきたが,南備讃瀬戸大橋下までは引き続き操船指揮をとることとした。
20時15分B受審人は,波節岩灯標から122度1.75海里の地点に達したとき,御影が左舷船尾30度270メートルとなり,その後同船が自船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,御影が自船の左舷側を無難に航過するものと思い,その動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かないで続航した。
B受審人は,警告信号を行うことも,その後御影が避航の気配がないまま間近に接近しても右転するなど衝突を避けるための協力動作もとらないで進行するうち,あたご丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,御影は左舷船首部に凹損を生じ,あたご丸は船尾部ハンドレールなどに曲損を生じたが,のちいずれも修理された。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,備讃瀬戸南航路において,あたご丸を追い越す御影が,動静監視不十分で,あたご丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,あたご丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,備讃瀬戸南航路において,単独で船橋当直に就いて東行中,船首方にあたご丸の灯火を視認した場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,妻との電話に気をとられ,あたご丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,あたご丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま進行してあたご丸との衝突を招き,御影の左舷船首部に凹損を,あたご丸の船尾部ハンドレールなどに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,備讃瀬戸南航路において,船橋当直に就いて東行中,船尾方に御影の灯火を視認した場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,御影が自船の左舷側を無難に航過するものと思い,その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,御影が自船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行うことも,御影が間近に接近したとき右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。