(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月24日07時53分
播磨灘
(北緯34度36.8分 東経134度53.8分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二十二すみせ丸 |
漁船住吉丸 |
総トン数 |
1,579トン |
4.8トン |
全長 |
|
14.5メートル |
登録長 |
88.40メートル |
|
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
956キロワット |
48キロワット |
3 事実の経過
第二十二すみせ丸(以下「すみせ丸」という。)は,専ら積み地を兵庫県赤穂港とし,揚げ地を大阪港とする,セメント運搬に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,A受審人ほか7人が乗り組み,セメント2,197トンを積載し,船首3.57メートル船尾3.66メートルの喫水をもって,平成16年12月24日04時15分兵庫県赤穂港を発し,大阪港に向かった。
A受審人は,船体中央の甲板上に設置されたエレベーターの存在により,操舵室の中央から左右に約10度の死角があったので,左右に移動して見張りに当たり,07時26分高蔵瀬東灯浮標から300度(真方位,以下同じ。)2.0海里の地点において,針路を105度に定め,機関を全速力前進にかけて6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,折からの潮流の影響により,8度ばかり右に圧流されながら自動操舵によって進行した。
このときA受審人は,漁ろうに従事していることを示す鼓型形象物を掲げた住吉丸を右舷船首11度方向に初めて認め,レーダーで距離2.5海里であることを確認したものの,折しも明石海峡方面から西行する船首方の多数の船舶に注意を向け,もう少し接近してから避ければよいと思い,操舵室後方でコーヒーの準備を始めた操舵手を見張りに就けるなどして住吉丸に対する動静監視を十分に行うことなく続航した。
07時46分A受審人は,高蔵瀬東灯浮標から036度500メートルの地点に達し,同一方位のまま1,200メートルとなった住吉丸と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,依然,前示船舶に気をとられ,住吉丸に対する動静監視不十分で,この状況に気付かず,同船の進路を避けることなく進行した。
07時53分少し前,A受審人は,右舷船首至近に迫った住吉丸を認めて,慌てて左舵一杯としたが及ばず,07時53分すみせ丸は,カンタマ南灯浮標から207度0.8海里の地点において,原針路,原速力のまま,右舷船首が住吉丸の左舷船首に後方から15度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北北西風が吹き,付近には3.0ノットの西へ流れる潮流があり,海上は穏やかで視界はよく,潮候は上げ潮の中央期で,常用日出時刻は07時05分日出方位角度は119度であった。
また,住吉丸は,基地である兵庫県淡路市富島漁港を04時に出漁して当日の14時に同漁港の市場へ漁獲物を揚げる小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で,平成15年8月に一級小型船舶操縦士・特殊小型船舶操縦士免許を取得したB受審人が1人で乗り組み,汽笛を装備しないまま,たこ漁の目的で船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同16年12月24日04時00分富島漁港を発し,同漁港北西方5海里の地点に至り,操業を開始した。
ところで,その操業は,船尾甲板に設置された鋼製の巻き取り機から直径8.5ミリメートル長さ100メートルのワイヤロープの先端に直径20ミリメートル長さ75メートルのナイロンロープをつないだ曳索を2本延出し,それぞれの先端にチェーン及びタイヤを介して接続した長さ22メートルの袋網を取り付けて船尾端から長さ約200メートルとし,投網に5分,揚網に10分,曳網に約1時間をかけていた。
また,B受審人は,20年以上の操業経験から操業海域の海底地形や魚礁の位置については熟知し,魚礁の際まで接近して底引き網により漁獲するもので,1ノット以下の一定の曳網速力で潮流を船首から受けながら,網を魚礁に引っかけないように進路を保つ必要があるとともに,曳網中に曳索を緩めると推進器に絡むおそれがあったので機関を停止することはできなかった。
B受審人は,漁ろうに従事していることを示す鼓型の形象物を甲板上約3メートルのマストの頂上に掲げ,07時20分高蔵瀬東灯浮標から105度900メートルの地点において,3回目の曳網を始め,針路を090度に定め,機関を半速力前進にかけ0.5ノットの速力とし,折からの潮流の影響により6度ばかり左に圧流されながら手動操舵で進行した。
07時46分B受審人は,折から魚礁の北辺をこれに沿って曳網し針路を右に転ずることができない状況となっていたとき,左舷船尾26度1,200メートルのところに東行するすみせ丸を認め,その後,同船が衝突のおそれのある態勢で避航の気配のないまま接近する状況を認めたが,汽笛を装備していなかったので,警告信号を行うことができないまま,間近に接近すれば自船の左舷側を替わすものと思い続航した。
07時52分B受審人は,すみせ丸が,依然,避航の気配がないまま200メートルに接近したので同船との衝突の危険を感じたが,針路を右に転じたり,機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることができずに進行し,住吉丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,すみせ丸は右舷船首外板に擦過傷を生じ,住吉丸は左舷船首防舷材を損傷した。
(海難の原因)
本件衝突は,播磨灘東部において,東行中のすみせ丸が,動静監視不十分で,漁ろうに従事している住吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが,住吉丸が,汽笛を装備せず,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人が,播磨灘東部を東行中,前路で漁ろうに従事する住吉丸を認めた場合,住吉丸との衝突のおそれの有無を判断できるよう,操舵手を見張りに就けるなどして住吉丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,明石海峡から西行する船舶にも注意をしていたので,もう少し接近してから避ければよいと思い,住吉丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,接近する住吉丸に気付かず,同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,すみせ丸の右舷船首外板に擦過傷を,住吉丸の左舷船首防舷材に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が,漁場に向けて発航する場合,播磨灘東部において漁ろうに従事中に衝突を避けるための協力動作が困難となることが予想されたのだから,避航の気配のないまま衝突のおそれがある態勢で接近する航行中の動力船に対して,警告信号を行うことができるよう,汽笛を装備すべき注意義務があった。しかるに,同人は,汽笛を装備しなかった職務上の過失により,船尾方から避航の気配のないまま衝突のおそれがある態勢で接近するすみせ丸を認めた際,同船に対して警告信号を行うことができずに衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。