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平成17年神審第80号
件名

遊漁船ミヤコIII遊漁船龍丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年11月24日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:ミヤコIII船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:龍丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ミヤコIII・・・船首部に擦過傷
龍丸・・・右舷船首部に亀裂,釣客2人が左肋骨骨折など

原因
ミヤコIII・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
龍丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,ミヤコIIIが,見張り不十分で,前路で錨泊する龍丸を避けなかったことによって発生したが,龍丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月8日16時55分
 福井県鋸埼北方沖合
 (北緯35度36.4分 東経135度40.3分)

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船ミヤコIII 遊漁船龍丸
総トン数   4.0トン
登録長 11.95メートル 11.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 200キロワット 139キロワット

3 事実の経過
 ミヤコIIIは,昭和57年3月に進水した,船体中央に操舵室のあるFRP製遊漁船で,昭和62年8月に四級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が単独で乗り組み,釣客4人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.30メートル船尾1.20メートルの喫水をもって,平成17年6月8日14時45分福井県小浜港西津地区を発し,同日23時ごろ帰港の予定で,小浜湾を出て,鋸埼北方沖合の釣場に向かった。
 ところで,ミヤコIIIは,航走を開始すると船首が持ち上がり始め,14ノットの速力では,船首及び同構造物によって前方視界に死角が生じる状態であったが,船首を左右に振ることなどによって前方の見張りを行うことができた。
 A受審人は,同日15時20分ごろ,予めGPSプロッターに記録させていた,鋸埼灯台から007.5度(真方位,以下同じ。)2.37海里の地点に達し,船首から錨を投入して遊漁を開始した。
 その後,釣客の要望に応じて釣場を変更することとして錨を揚げたA受審人は,16時53分半前示錨泊地点から,針路を030度に定め,機関回転数毎分2,400による14.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,手動操舵により,次の釣場に向けて進行した。
 定針したとき,A受審人は,正船首700メートルのところに龍丸を視認することができ,同船が錨泊していることを示す黒球を掲げていなかったものの,船首から錨索を伸ばしていたことなどから,錨泊中であることを認識することができ,その後衝突のおそれがある態勢で接近したが,航走を開始するとき周囲を一瞥して進行方向に他船はいないものと思い,船首が持ち上がって船首方に死角が生じるようになっても,船首を左右に振るなどして前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かないで続航した。
 16時55分わずか前A受審人が,船首左舷に見えてきた龍丸の船尾に気付き,右舵を一杯にとり,機関中立,後進一杯としたが効なく,16時55分鋸埼灯台から010.5度2.7海里の地点において,ミヤコIIIの船首が052度を向いたとき,5ノットの速力で,龍丸の右舷船首に後方から45度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の東南東風が吹き,視界は良好であった。
 また,龍丸は,昭和60年3月に進水した,操舵室が船体中央やや後ろにあるFRP製遊漁船で,昭和51年2月に一級小型船舶操縦士免許を取得したB受審人が単独で乗り組み,釣客3人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.48メートル船尾1.35メートルの喫水をもって,同日09時30分福井県小浜港甲ケ崎地区を発し,17時ごろ帰港する予定で,小浜湾を出て,鋸埼北方の釣場に向かった。
 B受審人は,10時過ぎに釣場に到着し,錨を入れて遊漁を開始したが,釣果等の状況によって釣場を移動していた。
 15時ごろB受審人は,前示衝突位置の釣場で船首から35キログラムでストック付きの錨を投入して錨索を75メートルほど伸ばし,船首を097度に向けて錨泊し,遊漁を再開した。
 16時53分半B受審人は,右舷船尾67度700メートルのところに航走を開始したミヤコIIIが自船に向首する態勢であることを視認でき,その後同船に避航の気配がなく,衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが,左舷側の釣客への対応に気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行わなかった。
 16時55分わずか前,B受審人が,右舷方至近に接近したミヤコIIIを視認したが,機関を始動して後進をかけるなど衝突を避けるための措置をとることもなく,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,ミヤコIIIは船首に擦過傷を生じ,龍丸は右舷船首部に亀裂を生じたが,のちいずれも修理され,龍丸の釣客1人が約1箇月の加療を要する左肋骨骨折と,同船の別の釣客1人が約1週間の通院加療を要する左膝打撲などを負った。

(海難の原因)
 本件衝突は,福井県鋸埼北方沖合において,北上中のミヤコIIIが,見張り不十分で,前路で錨泊中の龍丸を避けなかったことによって発生したが,龍丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,鋸埼北方沖合において,釣場を移動するために北上する場合,船首浮上による死角が生じることを知っていたのであるから,前路で錨泊中の龍丸を見落とすことのないよう,船首を左右に振るなど,死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,航走を開始するとき周囲を一瞥して前路に他船はいないものと思い,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊中の龍丸に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,ミヤコIIIの船首部に擦過傷を,龍丸の右舷船首部に亀裂をそれぞれ生じさせ,龍丸の釣客2人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,鋸埼北方沖合において,錨泊して遊漁を行う場合,自船に接近する船舶の有無を判断できるよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,釣客への対応に気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近するミヤコIIIに気付かず,警告信号を行うことなく,機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けて衝突を招き,前示のとおり損傷等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
 





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