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平成17年神審第7号
件名

貨物船明和丸巡視艇ぬのびき衝突事件
第二審請求者〔理事官黒田敏幸,受審人A,補佐人e〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年11月17日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(工藤民雄,中井 勤,横須賀勇一)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:明和丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
補佐人
a,b,c,d
受審人
B 職名:ぬのびき船長 海技免許 一級海技士(航海)
補佐人
e,f,g,h,i

損害
明和丸・・・船首部に凹損
ぬのびき・・・右舷中央部に破口を伴う凹損,乗組員2人が頭部打撲や腰部打撲等

原因
明和丸・・・狭視界時の航法(レーダー,速力)不遵守
ぬのびき・・・狭視界時の航法(速力)不遵守

主文

 本件衝突は,明和丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,ぬのびきが,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月29日07時54分
 明石海峡
 (北緯34度37.85分 東経135度00.40分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船明和丸 巡視艇ぬのびき
総トン数 334トン 127トン
全長 52.76メートル 37.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 4,946キロワット
(2)設備及び性能等
ア 明和丸
 明和丸は,平成4年2月に進水した,限定沿海区域を航行区域とする一層甲板船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で,船首から約46メートル後方に操舵室があり,主として瀬戸内海諸港と中部地方諸港との間で苛性ソーダなどの輸送に従事していた。
 操舵室には,前部中央に操舵スタンドが設けられ,これに磁気コンパスと操舵装置が,また,左舷側にレーダー1台が,右舷側に主機遠隔操縦盤等がそれぞれ配置され,VHF無線電話,GPSプロッタ及びモーターホーンが装備されていた。
 明和丸は,単暗車,1枚舵を有し,海上公試運転成績書(船体部)によれば,最大速力は,主機回転数毎分350の11.4ノットであり,同速力における右舵35度での最大縦距が143メートル,最大横距が146メートル,左舵35度での最大縦距が159メートル,最大横距が172メートルで,同速力で前進中,全速力後進発令から船体停止に要する時間は1分33秒,航走距離は298メートルであった。
イ ぬのびき
 ぬのびきは,平成14年12月に進水した,一層甲板型の鋼製巡視艇で,船首から約15メートル後方に操舵室があり,播磨灘での警備救難活動や明石海峡での哨戒業務に従事していた。
 操舵室には,前部中央に操舵スタンド,その左横に主機遠隔操縦盤等が,同スタンド右横に電子海図表示装置,ジャイロコンパス・レピーター及び警備救難情報表示モニター(以下「情報モニター」という。),その後方に自動衝突予防援助装置(以下「ARPA」という。)が組み込まれたレーダーがあり,後部中央から右舷側にかけて無線機及び海図台がそれぞれ配置され,VHF無線電話,GPS及びモーターホーンが装備されていた。
 情報モニターは,ジャイロコンパス,GPS等から方位,速力信号と位置情報を取り入れて,自船位置を表示した電子海図とレーダー映像とをモニター画面に重ねて表示するもので,他船の動静監視ができるものであった。
 ぬのびきは,2機2軸のウォータージェット推進装置を有し,海上運転試験成績書によると,最大速力は,両舷主機回転数毎分2,035の25.4ノットであり,同速力における右舵30度での最大縦距が160メートル,最大横距が127メートル,左舵30度での最大縦距が159メートル,最大横距が138メートル,また右舵15度での最大縦距が265メートル及び最大横距が351メートル,左舵15度での最大縦距が244メートル及び最大横距が335メートルで,同速力で前進中,全速力後進発令から船体停止に要する時間は21.3秒,航走距離は146メートルであった。

3 明石海峡航路
 本件発生地点の明石海峡は,兵庫県明石市と淡路島との間にある最狭部幅約2海里の海峡で,大阪湾と播磨灘を結ぶ船舶交通の輻輳するところとなっており,同海峡内には,海上交通安全法に規定された明石海峡航路が設定され,同海峡中央付近に明石海峡大橋が南北に架けられていた。
 明石海峡航路は,東西方向にへの字形に屈曲して延び,航路幅が1,500ないし1,600メートルとなっており,同航路の中央には,第1号から第3号までの各灯浮標が西側から順次設置され,全長50メートル以上の船舶は,これに沿って中央より右の部分を航行することが義務付けられていた。

4 ぬのびきの哨戒業務
 哨戒業務は,第五管区海上保安本部が作成した運用計画に基づき,神戸海上保安部又は姫路海上保安署に所属する巡視船艇が大阪湾海上交通センター(以下「交通センター」という。)の指示のもと,明石海峡における気象海象状況の確認や船舶の航行安全確保のための警戒に当たるもので,ぬのびきは,平成16年6月27日から同海峡の哨戒業務に就いていた。

5 事実の経過
 明和丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,空倉で,船首0.90メートル船尾3.30メートルの喫水をもって,平成16年6月28日11時30分三重県四日市港を発し,兵庫県東播磨港に向かった。
 A受審人は,船橋当直を自らと一等航海士の2人による単独6時間交替制として紀伊半島沿いに航海を続け,翌29日05時30分ごろ友ケ島水道南方において,昇橋した一等航海士と当直を交替することにしたが,明石海峡航路に接近したときには報告するよう指示することなく,同航海士に当直を任せて降橋し,自室で休息をとった。
 A受審人は,明石海峡航路に入航したことを知らないまま休息していたところ,07時40分ごろ一等航海士から霧のため視界が悪化した旨の報告を受け,07時42分江埼灯台から082.5度(真方位,以下同じ。)2.57海里の地点で昇橋し,霧のため視程が約100メートルに狭められていることを認め,自動による霧中信号を開始したものの,安全な速力に減じることなく,針路を301度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの南東流に抗して11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,航行中の動力船の灯火を表示し,明石海峡航路内の北側境界線近くをこれに沿って進行した。
 その後,A受審人は,一等航海士を見張りに就け,舵輪の後ろに立ってレーダーを見ながら自らが手動で操舵に当たり,機関室で軸発電機から独立動力の発電機に切り換える作業を終えて昇橋した機関長を目視による見張りに加えたものの,依然として操船指揮とレーダー監視に専念できる体制としないまま続航した。
 A受審人は,明石海峡大橋を通過し,07時48分半,江埼灯台から058.5度1.79海里の地点に達したとき,1.5海里レンジとしたレーダーにより左舷船首12度1.5海里のところに,明石海峡航路外の北側境界線近くを東行するぬのびきの映像を探知することができ,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,操舵と保針に気をとられ,レーダー画面を注意深く観察するなど,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めることなく進行した。
 A受審人は,07時51分半,江埼灯台から041度1.61海里の地点に達したとき,レーダーで左舷船首12度0.75海里のところに,著しく接近するぬのびきの映像を初めて認めたものの,系統的な観察ができないまま,同じ針路,速力で続航した。
 07時54分少し前,A受審人は,左舷船首方約100メートルのところにぬのびきの右舷船側を視認し,驚いて右舵一杯,次いで機関を全速力後進としたが及ばず,07時54分江埼灯台から025度3,000メートルの地点において,明和丸は,316度に向いたとき,ほぼ原速力のまま,その船首がぬのびきの右舷中央部に後方から84度の角度で衝突した。
 当時,天候は霧で風力1の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視程は約100メートルで,衝突地点付近には約0.7ノットの南東流があった。
 また,ぬのびきは,B受審人ほか7人が乗り組み,明石海峡の視界模様を調査するなどの哨戒業務の目的で,船首1.35メートル船尾1.45メートルの喫水をもって,同29日07時35分兵庫県明石港を発し,明石海峡に向かった。
 出港後,B受審人は,視程が約200メートルに狭められていたので,航行中の動力船の灯火を表示したほか,前部マスト頂部付近にある赤色回転灯を点灯し,出港配置を終えて昇橋した2人の主任航海士を見張りに,機関長を主機の操縦に,航海士補を操舵にそれぞれ配置したうえ,他の2人の乗組員も在橋し,自らは情報モニターを見ることができる右舷前部の椅子に腰を掛け,同モニター画面を監視しながら操船指揮に当たった。
 間もなく,B受審人は,霧が濃くなって視程が約100メートルとなったが,安全な速力とすることなく,両舷主機を回転数毎分700にかけ,7.0ノットの速力で,明石海峡航路近くの視界模様を確かめようと,霧中信号を自動で吹鳴しながら明石海峡北部を南下した。
 07時48分B受審人は,明石海峡航路の北側境界線まで約150メートルの,江埼灯台から359度1.46海里の地点に至ったとき,左転して針路を090度に定め,引き続き両舷主機を回転数毎分700にかけ,折からの南東流により2度右方に圧流されながら,7.0ノットの速力で,明石海峡航路外の北側境界線近くを東行した。
 B受審人は,07時48分半,江埼灯台から001.5度1.46海里の地点に達したとき,1.5海里レンジで表示された情報モニターにより,明石海峡大橋手前の右舷船首19度1.5海里のところに,明和丸の映像を初めて探知し,引き続き同モニターにより同船の監視を続け,その方位の変化を確かめながら進行した。
 その後,B受審人は,明和丸の方位にほとんど変化がなく,同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを認めたが,同船が,北側境界線近くであるものの航路内を西行しており,いずれ航路屈曲部で航路に沿うよう左転するであろうから,無難に航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めることなく続航した。
 07時53分B受審人は,江埼灯台から022度1.54海里の地点に達したとき,明和丸の映像が約500メートルに接近したことを認め,自船も明石海峡航路の北側境界線に近づいたことから,同境界線から離れようと操舵員に左舵15度を命じ,針路を070度にするよう指示して左回頭中,07時54分少し前,右舷船首方約100メートルのところに,明和丸の船首部を視認し,驚いて左舵一杯,次いで増速を令したが及ばず,ぬのびきは,040度に向いたとき,約10ノットの速力をもって前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,明和丸は,船首部に凹損を生じ,ぬのびきは,右舷中央部に破口を伴う凹損を生じたが,のちいずれも修理された。また,ぬのびきの乗組員2人がそれぞれ頭部打撲や腰部打撲等を負った。

(航法の適用)
 本件は,海上交通安全法(以下「海交法」という。)の適用される海域である明石海峡で発生したもので,海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の特別法にあたる海交法が優先して適用されることになる。
 しかし,当時,同海域は,霧のため視程が約100メートルに狭められた視界制限状態にあり,予防法第40条の規定によって両船には海交法に定められた避航に関する各規定は適用されず,両船のとるべき動作については予防法第19条によって律することとなる。
 一方,両船には,視界制限状態にあるか否かにかかわらず,海交法の避航に関する事項を除いた規定が適用されることになり,明和丸は,全長が52.76メートルで,海交法第4条の規定により,明石海峡航路に沿って航行する義務のある船舶に該当し,同法第15条の規定により,同航路の中央から右の部分を航行することが求められ,また,ぬのびきは,全長が37.00メートルであるから,航路をこれに沿って航行する船舶に該当しないことになる。
 ところで,本件の場合,衝突は,明石海峡航路の北側境界線から100メートル北方の航路外において,明和丸が同航路の北側境界線外に進出したのちに発生したものであり,衝突時,明和丸が海交法第4条の規定に違反したことは事実である。しかしながら,両船の距離が1.5海里に接近した後,明和丸が明石海峡航路内をこれに沿って西行中に,既に両船は著しく接近することを避けることができない状況となっており,明石海峡航路をこれに沿って西行中の明和丸と同航路の北側境界線外を東行中のぬのびきの両船は,同状況となった時点で危険な事態を解消すべく,予防法の規定により衝突を避けるための動作,即ち,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止める必要があった。したがって,本件は,予防法第19条第6項の視界制限状態における船舶の航法をもって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 明和丸
(1)A受審人が,当直航海士に,明石海峡航路に接近したときには報告するよう指示しなかったこと
(2)安全な速力としなかったこと
(3)A受審人が,自ら手動操舵に当たりながらレーダーによる見張りも行っていたこと
(4)明石海峡航路内の北側境界線近くを西行し,航路屈曲部で航路に沿うよう早期に転針しなかったこと
(5)A受審人が,操舵と保針に気をとられ,レーダーによる見張りを十分に行わず,ぬのびきの探知が遅れたこと
(6)A受審人が,ぬのびきと著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこと

2 ぬのびき
(1)視界が著しく制限された状況下,明石海峡航路外の北側境界線近くを東行したこと
(2)安全な速力としなかったこと
(3)ARPA機能を使用しなかったこと
(4)B受審人が,明和丸は明石海峡航路沿いに西行中で,いずれ航路屈曲部で航路に沿うよう左転するであろうから,無難に航過できるものと思っていたこと
(5)B受審人が,明和丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこと
(6)B受審人が,衝突前に左転して増速したこと

3 その他
 衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたこと

(原因の考察)
 明和丸が,霧のため視界が著しく制限された明石海峡を明石海峡航路に沿って西行中,安全な速力とし,レーダーによる見張りを十分に行っていたなら,ぬのびきと著しく接近することを避けることができない状況となったことを判断でき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止めることで,本件衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,安全な速力とせず,自ら手動操舵に当たって,操舵と保針に気をとられ,レーダーによる見張りを十分に行わず,ぬのびきの探知が遅れ,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,当直航海士に,明石海峡航路に接近したときには報告するよう指示しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,昇橋後,適切な措置をとっていたなら, 本件発生を容易に防止できたことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 また,A受審人が,明石海峡航路内の北側境界線近くを西行し,航路屈曲部で航路に沿うよう早期に転針しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,前述したように,航路屈曲部に達したときには,既に著しく接近することを避けることができない状況となっていたものであり,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,ぬのびきが,霧のため視界が著しく制限された明石海峡において,明石海峡航路外の北側境界線近くを東行中,安全な速力とし,レーダーで前路に認めた明和丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止めていたなら,本件衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,安全な速力とせず,明和丸が明石海峡航路沿いに西行中であり,いずれ航路屈曲部で航路に沿うよう左転するであろうから,無難に航過できるものと思い,明和丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
 ぬのびきが,視界が著しく制限された状況下,明石海峡航路外の北側境界線近くを東行したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。
 また,ぬのびきにおいて,ARPA機能を使用しなかったことは,B受審人が,明和丸の映像を探知後,情報モニターで同船の方位の変化を確かめ,その接近模様を把握していたと認められ,また,衝突前に左転したうえ増速したことは,明和丸と著しく接近することを避けることができない状況となったのちの衝突間近の臨機の緊急的な措置と考えられることから,いずれも本件発生の原因とならない。
 当時,衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたことは,自然的な現象で,運航者の対処で十分に安全運航の確保が可能なことであり,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,霧のため視界が著しく制限された明石海峡において,明石海峡航路に沿って西行する明和丸が,安全な速力とせず,レーダーによる見張りが不十分で,ぬのびきと著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことと,明石海峡航路外の北側境界線近くを東行するぬのびきが,安全な速力とせず,レーダーで前路に認めた明和丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,霧のため視界が著しく制限された明石海峡において,明石海峡航路内の北側境界線近くをこれに沿って西行する場合,同航路外の北側境界線近くを東行して接近するぬのびきの映像を早期に発見できるよう,レーダー画面を注意深く観察するなど,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,操舵と保針に気をとられ,レーダー画面を注意深く観察するなど,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ぬのびきの探知が遅れ,同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めずに同船との衝突を招き,明和丸の船首部に凹損を生じさせ,ぬのびきの右舷中央部外板に破口を伴う凹損を生じさせたほか,同船の乗組員2人に頭部打撲や腰部打撲等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,霧のため視界が制限された明石海峡において,哨戒の目的で,明石海峡航路外の北側境界線近くを東行中,レーダーで右舷船首方に明和丸の映像を探知し,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた場合,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,明和丸が明石海峡航路沿いに西行中で,いずれ航路屈曲部で航路に沿うよう左転するであろうから,無難に航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせたほか,自船の乗組員2人を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

  よって主文のとおり裁決する。


参考図
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