(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年3月3日14時47分
紀伊水道
(北緯33度52.2分 東経135度01.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船日和丸 |
漁船孝洋丸 |
総トン数 |
499トン |
4.9トン |
全長 |
63.80メートル |
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登録長 |
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10.93メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
漁船法馬力数 |
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90 |
(2)設備及び性能等
ア 日和丸
日和丸は,平成4年9月に進水した,主従2台のレーダーを有する航海速力11.0ノットの船尾船橋型鋼製貨物船で,主として千葉,京浜,福山及び広島の各港でコールタールやクレオソートなどを積み,石巻,四日市,坂出及び関門の各港で揚げる航路に就航していた。
イ 孝洋丸
孝洋丸は,平成8年9月に進水した,主として紀伊水道における一本釣り漁業に従事する,音響信号装置を装備したFRP製小型漁船で,操縦室中央部前面の舵輪左後方に操舵用のいすが設置されており,その左前方に当たる同室前面左角には,操船者の目線より低い位置に魚群探知機が据えられていた。
3 事実の経過
日和丸は,C船長及びA指定海難関係人ほか3人が乗り組み,カーボンオイル1,000トンを積載し,船首3.0メートル船尾4.3メートルの喫水をもって,平成17年3月3日06時10分広島県福山港を発し,鳴門海峡を経由する予定で名古屋港へ向かった。
出港後,C船長は,8〜0直を同人,0〜4直をA指定海難関係人,4〜8直を一等航海士による単独4時間交替3直制の船橋当直時間割に定めて瀬戸内海を東航し,同日正午ごろ,自らが通峡操船の指揮を執って鳴門海峡最狭部を通過したのち,前示経歴を有するA指定海難関係人に,見張りを厳重に行うように指示して降橋した。
A指定海難関係人は,船長から当直を引き継いだのち,紀伊水道を南下して,14時30分紀伊日ノ御埼灯台から294度(真方位,以下同じ。)4.1海里の地点に達したとき,針路を140度に定め,機関を全速力前進の回転数毎分295にかけ,11.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵によって進行した。
そして,14時42分少し前A指定海難関係人は,紀伊日ノ御埼灯台から270度2.4海里の地点に至ったとき,右舷船首35度1.5海里のところに,航行中の孝洋丸を視認することができ,やがて,同船が自船の前路を左方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,折悪しく,船首方から反航してきた自動車運搬船及び小型貨物船計2隻の動静に気を取られ,見張りを十分に行わなかったので,孝洋丸の存在に気付かず,同船の進路を避けることなく続航した。
こうして,A指定海難関係人は,その後も,見張りを十分に行わず,依然として,孝洋丸と衝突のおそれがある状況となったことに気付かないまま進行中,14時47分紀伊日ノ御埼灯台から247度1.9海里の地点において,日和丸は,原針路,原速力で,その右舷中央部に孝洋丸の船首が前方から75度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風はほとんどなく,視界は良好であった。
また,孝洋丸は,平成16年9月に一級小型船舶操縦士免許を取得したB受審人が1人で乗り組み,さば一本釣り漁の目的で,船首0.5メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,同17年3月3日05時00分和歌山県由良港を発し,06時30分同港南西方沖合20海里付近の漁場に到着して操業を開始した。
13時30分B受審人は,さば約200尾を漁獲したところで操業を終え,14時00分同漁場を発進して帰途につき,同時30分紀伊日ノ御埼灯台から228度4.6海里の地点に達したとき,針路を035度に定め,機関を半速力前進にかけ,10.0ノットの速力で,手動操舵によって進行した。
ところで,当時,B受審人は,来るさわら一本釣り漁に備え,航行中は常にその魚群を探すことに努めていたことから,帰航中であったにも拘わらず,前示魚群探知機を覗きながら操船していたのであった。
そして,14時42分少し前B受審人は,紀伊日ノ御埼灯台から237度2.7海里の地点に至ったとき,左舷船首40度1.5海里のところに,航行中の日和丸を視認することができ,やがて,同船が自船の前路を右方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,魚群探知機を覗くことに気を取られ,見張りを十分に行わなかったので,その存在に気付かず,警告信号を行うことも,さらに接近しても衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
こうして,B受審人は,その後も,見張りを十分に行わず,依然として,日和丸と衝突のおそれがある状況となったことに気付かないまま進行中,孝洋丸は,原針路,原速力で,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,日和丸は,右舷中央部外板に凹損及び同部ハンドレールなどに曲損を生じ,孝洋丸は船首部を圧壊した。
(航法の適用)
本件は,紀伊水道において,航行中の日和丸及び孝洋丸の両船が,互いに視野の内にあり,且つ,互いに進路を横切る態勢で衝突したことは明白である。よって,海上衝突予防法第15条横切り船の航法をもって律することとする。
(本件発生に至る事由)
1 日和丸
(1)A指定海難関係人が,船首方から反航してきた自動車運搬船及び小型貨物船計2隻の動静に気を取られ,見張りを十分に行わなかったこと
(2)A指定海難関係人が,航行中の孝洋丸に気付かなかったこと
(3)A指定海難関係人が,孝洋丸の進路を避けることなく進行したこと
2 孝洋丸
(1)B受審人が,魚群探知機を覗くことに気を取られ,見張りを十分に行わなかったこと
(2)B受審人が,航行中の日和丸に気付かなかったこと
(3)B受審人が,警告信号を行わなかったこと
(4)B受審人が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
日和丸は,紀伊水道において,潮岬沖へ向けて航行中,船橋当直者が,見張りを十分に行っていたならば,前路を左方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する孝洋丸に容易に気付き,その進路を避けることは十分に可能であったものと認められる。
したがって,A指定海難関係人が,船首方から反航してきた船舶の動静に気を取られて,見張りを十分に行わず,孝洋丸の進路を避けることなく進行したことは,本件発生の原因となる。
一方,孝洋丸は,紀伊水道において,発航地へ向けて帰航中,操縦室で手動操舵に当たっていた船長が,見張りを十分に行っていたならば,前路を右方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する日和丸に容易に気付き,同船に対して警告信号を行い,さらに間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとることは十分に可能であったものと認められる。
したがって,B受審人が,魚群探知機を覗くことに気を取られて,見張りを十分に行わず,警告信号を行わなかったばかりか,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行したことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,紀伊水道において,鳴門海峡から潮岬沖へ向けて航行中の日和丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する孝洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが,漁場から由良港へ向けて帰航中の孝洋丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
B受審人は,紀伊水道において,漁場から由良港へ向けて帰航する場合,同水道は多くの船舶が航行する海域であることから,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,魚群探知機を覗くことに気を取られ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を右方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する日和丸に気付かず,同船に対して警告信号を行わなかったばかりか,さらに間近に接近しても,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き,自船の船首部を圧壊させるとともに,日和丸の右舷中央部外板に凹損及び同部ハンドレールなどに曲損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A指定海難関係人が,紀伊水道において,単独で船橋当直に当たり,鳴門海峡から潮岬沖へ向けて航行中,見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対して勧告しないが,見張りを厳重に行うように努めなければならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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