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平成17年長審第25号
件名

漁船進丸漁船久丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月4日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:久丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
進丸・・・左舷側後部外板に損傷,機関室囲壁左舷側に亀裂,甲板員が右下肢挫滅創
久丸・・・船首部に擦過傷

原因
進丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守
久丸・・・動静監視不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守

裁決主文

 本件衝突は,進丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,久丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月15日09時07分
 長崎県時津港北東部

2 船舶の要目
船種船名 漁船進丸 漁船久丸
総トン数 0.9トン 0.7トン
登録長 6.90メートル 5.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 15キロワット  
漁船法馬力数   30

3 事実の経過
 進丸は,船体後部甲板上にある機関室囲壁の後部と,船首楼後部にそれぞれ舵輪を備え,船体中央部にいけすを設けた,有効な音響による信号を行うことができる設備を有さないFRP製漁船で,A受審人(昭和51年6月四級小型船舶操縦士免許取得,平成16年8月二級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)と妻の甲板員が2人で乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,平成16年9月15日07時00分時津港久留里埼防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から050度(真方位,以下同じ。)約750メートルの地点に当たる,長崎県時津港北東部の係船地を発し,同時06分南南西方約600メートルの漁場に到着してしゃこ漁を行ったのち,08時56分針路を係船地に向く017度に定め,機関を微速力前進にかけて防波堤灯台から103.5度420メートルの地点を発進し,1.5ノットの速力で,係船地に向けて帰途に就いた。
 ところで,時津港北東部には,防波堤灯台から047度約750メートルの地点に当たる陸岸から南西方約250メートルにまで,南北2箇所に分かれて拡延する沖ノ瀬と称する浅所があって,そのほぼ中央に当たる幅約30メートルの海域が,小型漁船が航行可能な水路となっており,南北の浅所には,それぞれ平均海面上高さ3.9及び6.2メートルの小島が存在していた。
 発航後,A受審人は,前部甲板上に座って船首楼後部の舵輪で操舵に当たり,甲板員を甲板洗いに従事させて時津港内を北上し,09時06分わずか過ぎ防波堤灯台から059度620メートルの地点に達したとき,沖ノ瀬南側の小島の見通し線上に当たる左舷船首46度370メートルのところに,久丸が存在したが,同船を認めないまま進行した。
 09時06分半A受審人は,防波堤灯台から058度640メートルの地点に達したとき,左舷船首46度200メートルのところに,沖ノ瀬中央の水路から港内に向けて航行する態勢の久丸を初認し,間もなく,同船の方位にほとんど変化がないまま衝突のおそれがある態勢で互いに接近することを知った。
 A受審人は,自船の速力が遅いので,そのうち速力の速い久丸が針路を右に転じて自船の船尾方を航過するものと思い,速やかに機関を中立運転にするなど,衝突を避けるための措置をとることなく,相手船が転針することを期待してその様子を見ながら続航したものの,その後,久丸が依然としてその方位にほとんど変化がないまま間近に接近する状況を認めてようやく衝突の危険を感じ,09時07分わずか前右舵一杯とした直後,進丸は,09時07分防波堤灯台から056度660メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その左舷側後部に久丸の船首が前方から42度の角度で衝突し,乗り上げた。
 当時,天候は晴で風力2の南南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 また,久丸は,船尾端に船外機を備え,船体中央部にいけすを設けた,甲板上に構造物がないFRP製漁船で,B受審人(昭和51年6月四級小型船舶操縦士免許取得,平成16年8月二級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,同日06時40分防波堤灯台から088度約800メートルの地点に当たる,時津港東部の係船地を発し,同時45分北北西方約1,200メートルの漁場に到着してかに漁を行ったのち,かに17匹を獲て操業を終え,09時05分機関を全速力前進にかけて防波堤灯台から013度1,080メートルの地点を発進し,係船地に向けて帰途に就いた。
 発航後,B受審人は,船体後部甲板上に座って左手で船外機のハンドル(以下「ハンドル」という。)を操作しながら時津港に向けて南下したのち,09時06分わずか過ぎ防波堤灯台から028.5度730メートルの地点に達し,沖ノ瀬中央の水路から時津港東部が見通せる状況になったとき,針路を係船地に向首するよう143度に定め,機関を全速力前進にかけたまま,12.0ノットの速力で進行した。
 定針したとき,B受審人は,沖ノ瀬南側の小島の見通し線上に当たる右舷船首8度370メートルのところに,進丸が存在したが,同船を認めないまま進行した。
 B受審人は,09時06分半防波堤灯台から040度680メートルの地点に達したとき,沖ノ瀬南東側の海域に当たる右舷船首8度200メートルのところに,北上する態勢の進丸を初認したが,一見したのみで,同船の速力が遅いので速力の速い自船が相手船の船首方を無難に航過するものと思い,その動静を監視しないまま続航した。
 09時07分少し前B受審人は,防波堤灯台から048度660メートルの地点に当たる沖ノ瀬中央の水路に達したとき,漁具の整理をすることを思い立ち,そのとき,進丸の方位にほとんど変化がないまま100メートルに接近し,同船と衝突のおそれがある態勢であったが,依然として動静監視を行っていなかったので,このことに気付かず,速やかに減速するなど,衝突を避けるための措置をとることなく,ハンドルを中央として手を離し,いけすの後方に立った姿勢で下方を向き,漁具の整理作業を始めた。
 こうして,久丸は,B受審人が作業に当たったまま進行中,原速力のまま,船首が少し右に振れて155度を向いたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,進丸は,左舷側後部外板に損傷及び機関室囲壁左舷側に亀裂を,久丸は,船首部に擦過傷をそれぞれ生じ,のち修理され,甲板作業を終えて機関室囲壁前部左舷側で待機していた進丸の甲板員が右下肢挫滅創を負った。

(原因)
 本件衝突は,長崎県時津港北東部において,漁場から係船地に向けて航行中の進丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,漁場から係船地に向けて航行中の久丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,長崎県時津港北東部において,漁場から係船地に向けて航行中,同港北東部に存在する沖ノ瀬中央の水路から港内に向首する態勢で航行して来る久丸を初認し,その後同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近することを知った場合,速やかに機関を中立運転にするなど,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,そのうち久丸が針路を右に転じて自船の船尾方を航過するものと思い,衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き,進丸の左舷側後部外板に損傷及び機関室囲壁左舷側に亀裂を,久丸の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせ,進丸の甲板員に右下肢挫滅創を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,長崎県時津港北東部において,漁場から係船地に向けて航行中,沖ノ瀬南東側の海域を航行する進丸を認めた場合,衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう,その動静を十分に監視するべき注意義務があった。しかしながら,同人は,一見したのみで自船が相手船の船首方を無難に航過するものと思い,その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により,進丸と衝突のおそれがある態勢で互いに接近することに気付かず,速やかに減速するなど,衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,進丸の甲板員を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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