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平成17年門審第47号
件名

引船第十五伊勢丸引船列漁船祥風丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,清重隆彦,西林 眞)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:第十五伊勢丸甲板 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:祥風丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十五伊勢丸引船列・・・第77伊勢号の右舷後部外板に擦過傷
祥風丸・・・船首部を圧壊

原因
第十五伊勢丸引船列・・・動静監視不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
祥風丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第十五伊勢丸引船列が,動静監視不十分で,漁ろうに従事中の祥風丸の進路を避けなかったことによって発生したが,祥風丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月24日14時34分
 周防灘東部
 (北緯33度54.7分 東経131度36.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 引船第十五伊勢丸 起重機船第77伊勢号
総トン数 19.76トン 約433トン
全長 13.70メートル 35.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 99キロワット  
船種船名 漁船祥風丸  
総トン数 4.9トン  
全長 15.50メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 15  
(2)設備及び性能等
ア 第十五伊勢丸
 第十五伊勢丸(以下「伊勢丸」という。)は,昭和57年10月に第1回定期検査を受けた鋼製交通船兼作業船で,山口県三田尻中関港を基地とし,専ら起重機船の第77伊勢号とともに瀬戸内海の山口県周辺海域で港湾土木工事に従事していた。
 同船は,船体中央やや前方に操舵室が配置され,同室中央に舵輪が,その右舷側に機関操縦レバーが,左舷側にGPSプロッタがそれぞれ備えられていたが,レーダーは装備されておらず,同室後方の機関室囲壁後端中央部に曳航(えいこう)用フックが設置されていた。
イ 第77伊勢号
 第77伊勢号(以下「77号」という。)は,長方形の甲板を有し,同甲板船尾部に居住区が,同船首部に石材等の積み降ろしに使用するクレーン1基が装備された非自航の起重機船で,船体中央部に長さ17.5メートル,幅12.0メートルの船倉1個が設けられていた。
ウ 祥風丸
 祥風丸は,昭和61年5月に進水し,小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室が配置され,同室には,レーダー,GPSプロッタ及び魚群探知機などの計器類がそれぞれ備えられ,また,同室からコードを延ばして船尾甲板で使用可能な遠隔操縦装置が,汽笛設備として電気ホーンがそれぞれ備えられていた。
(3)祥風丸のけた網漁業
 祥風丸は,毎年11月10日から翌年4月19日までの期間,くるまえびなどを対象魚種とするけた網漁業に従事しており,その漁法は,長さ6メートルのブーム2本を操舵室前部から両舷船外へそれぞれ振り出し,船体中央部両舷側にあるロープリールから船尾方向に伸出したワイヤ製のひき綱を各ブームの先端に取り付けた長さ11メートルのとったりロープの先端を介して120メートル繰り出していた。ひき綱の先には,ワイヤ製で長さ3メートルの2本の股綱を取り付けた幅2.3メートル,高さ0.4メートル,重量70キログラムの鉄枠製のけたとこれに長さ6メートル重量約20キログラムの網を繋いだけた網を取り付け,2個のけた網を同時に曳くもので,投網に約3分,曳網に約35分,揚網と次の投網準備に約10分を要するものであった。

3 事実の経過
 伊勢丸は,船長C及びA受審人が乗り組み,捨石投入作業を終えて空倉となり,船首0.8メートル船尾0.5メートルの喫水となった77号に作業員2人を乗せ,伊勢丸の曳航フックに係止した直径36ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ20メートルの合成繊維製の曳航索に,77号の船首部両舷のボラードに係止した直径40ミリ長さ5メートルの合成繊維索2本をブライドルに繋ぎ,船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,平成16年12月24日11時00分大分県東国東郡姫島村の東浦漁港を発し,三田尻中関港に向け,帰途に就いた。
 ところで,A受審人は,交通船であるD丸の船長職であったところ,伊勢丸が東浦漁港での臨時の捨石投入作業に従事することとなり,C船長が作業船の運航経験が浅く,同港の入港経験もなかったことから,同船の運航及び同作業指揮を執るため,同月23日の夜から同船に乗り組んだものであった。
 A受審人は,出港操船に引き続き操船に当たり,11時15分東浦漁港港外の,姫島灯台から324度(真方位,以下同じ。)1,300メートルの地点で,使用していた曳航索を直径40ミリ長さ100メートルの合成繊維製の曳航索に取り替え,伊勢丸の船尾端から77号の船尾端までの長さが約135メートルの引船列(以下「伊勢丸引船列」という。)を構成し,針路を三田尻中関港の少し左方に向く336度に定め,機関を全速力前進にかけ,3.4ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 定針後,A受審人は,出港時の係留索解らんなどの甲板作業と機関室の巡視を終えて操舵室に戻ったC船長と操船を交代して1時間ばかり昼食を兼ねた休息をとったのち,12時35分周防野島灯台から195度8.0海里の地点で,再び同船長と操船を交代して舵輪後方のいすに腰を掛け,操舵室右舷後部の長いすに腰を掛けた同船長と基地到着予定時刻などの話を交わしながら続航した。
 14時04分A受審人は,周防野島灯台から234度5.1海里の地点に差し掛かり,右舷船首50度2海里ばかりのところに西行する祥風丸を初認し,同時24分同灯台から246度5.0海里の地点に達したとき,同船が右舷船首52度1,150メートルに近づき,同船の掲げる鼓型形象物を認めなかったものの,同船の舷側から振り出したブームを視認したうえ,低速力であったことから,同船がトロールによる漁ろうに従事中の漁船であることを知ったが,同船が77号の後方を替わりそうに見えたことや,たとえ衝突のおそれが生じたとしても,同船が引船列を構成している自船を避航してくれるものと思い,同船の動静監視を続けなかった。
 そして,A受審人は,実質的には自身が伊勢丸の船長職を務めており,伊勢丸引船列の運航指揮を執っていたことから,C船長に祥風丸の存在や接近状況を知らせることなく,船首方から左舷方にかけて曳網しながら西方に向かう数隻の漁船を見たり,時折,後方を向いて曳航の状態を確認しながら進行した。
 このころ,C船長は,開放した操舵室左舷側出入口に移動して左舷方を向いて座っており,右舷方から接近する祥風丸の存在に気付かなかった。
 14時27分A受審人は,周防野島灯台から248度5.0海里の地点に達したとき,祥風丸が,右舷船首55度770メートルのところに接近し,その後,同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが,依然,引船列である自船を避けてくれるものと思い,祥風丸に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,早期に右転するなど同船の進路を避けることなく続航した。
 14時34分少し前A受審人は,ふと右舷方を見たとき,77号の右舷側至近に迫った祥風丸を認め,衝突の危険を感じたが何もできないまま,14時34分周防野島灯台から253度5.0海里の地点に至ったとき,同灯台から252度5.0海里の地点において,伊勢丸引船列は,原針路,原速力のまま,77号の右舷後部に祥風丸の船首が後方から76度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期にあたり,視界は良好であった。
C船長は,操舵室左舷側出入口に座っていたところ,A受審人から報告を受けて衝突の事実を知り,事後の措置に当たった。
 また,祥風丸は,B受審人が1人で乗り組み,けた網漁の目的で,船首0.20メートル船尾1.45メートルの喫水をもって,同日04時40分山口県床波漁港を発し,06時50分同県野島南方約2海里の漁場に至り,トロールによる漁ろうに従事していることを示す鼓型形象物を操舵室上部のマストに掲げ,操業を開始した。
 11時30分B受審人は,漁獲が芳しくなかったことから,操業を続けながら帰途に就くこととし,曳網と揚網を繰り返しながら3ノットばかりの速力で西進した。
 14時24分B受審人は,周防野島灯台から251度4.5海里の地点に差し掛かり,船尾甲板に立ち,当日11回目となる操業を行うため周囲を見回したところ,左舷船首52度1,150メートルのところに,北上する伊勢丸を初認し,同船が77号を曳航して引船列を構成していることを認めたものの,一べつしただけで特に気に留めることなく,けた網を海中に投入し,遠隔操縦装置で針路を宇部港南方沖合に向く260度に定め,3.0ノットの速力で,ひき綱を繰り出しながら自動操舵により進行した。
 14時27分B受審人は,周防野島灯台から251度4.6海里の地点に達し,投網を終えて機関を全速力前進にかけ,引き続き3.0ノットの曳網速力としたとき,伊勢丸が左舷船首55度770メートルのところに接近し,その後,伊勢丸引船列と衝突のおそれのある態勢で接近したが,操業中の自船を避けていくものと思い,船尾甲板で漁獲したあかえびの選別作業に熱中していて,同引船列の動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,避航の気配を見せない同引船列に対し警告信号を行うことも,更に接近するに及んで機関を使用して行きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中,祥風丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,伊勢丸引船列は,77号の右舷後部外板に擦過傷を生じ,祥風丸は,船首部を圧壊したが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 伊勢丸引船列
(1)引船列を構成している自船を避けてくれると思ったこと
(2)動静監視を十分に行わなかったこと
(3)祥風丸の進路を避けなかったこと

2 祥風丸
(1)操業中の自船を避けていくと思ったこと
(2)漁獲物の選別作業に熱中していたこと
(3)動静監視を十分に行わなかったこと
(4)警告信号を行わなかったこと
(5)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,伊勢丸引船列が,動静監視を十分に行っていれば,トロールによる漁ろうに従事中の祥風丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり,早期に右転するなど同船の進路を避けることができ,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,引船列を構成している自船を避けてくれるものと思い,動静監視が不十分となり,祥風丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,祥風丸が,動静監視を十分に行っていれば,伊勢丸引船列と衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり,避航の気配を見せない同船に対し警告信号を行うことができ,更に接近したとき,機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることができ,発生を回避できたものと認められる。したがって,B受審人が,操業中の自船の進路を避けていくと思い,漁獲物の選別作業に熱中していて,動静監視が不十分となり,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,周防灘東部において,北上中の伊勢丸引船列が,動静監視不十分で,けた網による漁ろうに従事中の祥風丸の進路を避けなかったことによって発生したが,祥風丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,周防灘東部を北上中,右舷前方にけた網による漁ろうに従事している祥風丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,同船が引船列を構成している自船を避けてくれるものと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,同船の進路を避けずに進行して衝突を招き,77号の右舷後部外板に擦過傷を,祥風丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,周防灘東部において,けた網による漁ろうに従事中,左舷前方に北上する伊勢丸引船列を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,伊勢丸引船列が操業中の自船を避けていくものと思い,漁獲物の選別作業に熱中していて,その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同引船列と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,同引船列に対し警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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