日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年門審第62号
件名

モーターボート柊樹防波堤衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:柊樹船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
右舷外板に破口を生じて沈没,船長が顔面多発骨折などで約1箇月半の入院加療,同乗者が右手,左足部及び前胸部打撲などで約1箇月半の通院加療

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件防波堤衝突は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月24日20時22分
 博多港

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート柊樹
総トン数 2.8トン
全長 7.88メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 110キロワット

3 事実の経過
 柊樹は,平成16年9月に第1回定期検査を受けたFRP製モーターボートで,同12年11月交付の四級小型船舶操縦士の操縦免許を受有するA受審人が1人で乗り組み,知人1人を同乗させ,釣りの目的で,船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年4月24日18時10分博多港Bマリーナを発し,福岡県能古島西方沖合約500メートルに所在する象瀬周辺の釣り場に向かった。
 18時25分ごろA受審人は,目的の釣り場に至り,停留と低速力での航行を繰り返しながら竿釣りを行ったが釣果が芳しくなかったので,博多港北防波堤(以下,港湾施設及び航路標識については「博多港」の冠称を省略する。)付近ですずきを釣ることとし,法定灯火を表示し,19時30分ごろ同釣り場を発進した。
 ところで,北防波堤の南端に連なる東防波堤は,その南端近くに設置された東防波堤灯台から071度(真方位,以下同じ。)方向に1,090メートル延び,この先から屈曲して019度方向に1,410メートル延びており,更に北防波堤が330度方向に800メートル延びていた。また,東防波堤の北北東方に延びる部分にはその西側に面して消波ブロックが設置され,同防波堤北端と北防波堤南端とがなす屈曲部(以下「防波堤屈曲部」という。)には,灯質が毎2秒に1単閃赤光の標識灯(以下「東防波堤標識灯」という。)が設置されていた。
 A受審人は,博多港内の航行経験が約50回あり,そのうち夜間が8割を占め,東防波堤や北防波堤の位置や形状を良く知っており,すずき狙いの釣りをするときは,すずきが集まりやすい防波堤の至近に沿って試し釣りをしながら航行する必要があったことから,いったん東防波堤南端部付近に接近したのち,同防波堤の西側至近をゆっくりと北上するつもりでいた。
 そして,A受審人は,夜間,防波堤屈曲部付近で北防波堤に沿う針路に転じる際には,月明かりや星明りを頼りに目視によって同屈曲部を確認し,これに並航する70メートルばかり手前を最初の転針地点として針路をいったん北方に転じ,そして北防波堤から30メートル沖合の地点まで近づいたところで,針路を同防波堤に沿う330度に転じることとしていた。
 A受審人は,象瀬の釣り場を発進後,操縦室右舷側に設置された操縦席に座り,針路を能古島南方沖合に向け,機関を半速力前進にかけ,12ノットばかりの速力(対地速力,以下同じ。)で南進し,同沖合に至ったのち,針路を東防波堤南端部付近に向けて東進し,20時02分東防波堤灯台から310度500メートルの地点に達し,間もなく東防波堤に沿って北上することとし,ほぼ満月の夜であったものの,東防波堤の背後方向にあって高度が低く,また,薄雲に覆われており,サーチライトで照射しなければ同防波堤を視認することが困難な状況のもと,機関を微速力前進に減速して南東進した。
 20時05分A受審人は,東防波堤灯台から035度50メートルの地点に至り,サーチライトで同防波堤側面の海面付近を遠隔操作により照射し,目測で同防波堤からの距離を判断し,針路を071度に定め,5.0ノットの速力で,同防波堤から30メートルの距離を保ちながら手動操舵により進行した。
 20時12分A受審人は,東防波堤灯台から069度1,050メートルの地点に達し,東防波堤中ほどの屈曲部に近づいたのを認め,針路を019度に転じ,この先から同防波堤に面して設置されている消波ブロックを照射し,引き続き同消波ブロックから30メートルの距離を保ちながら同じ速力で続航し,同乗者は操縦室左舷後部に立って竿によるルアー釣りを始めた。
 転針したのち,A受審人は,月明かりが期待できない状況であったものの,防波堤屈曲部付近のわずか沖に向かうにあたり,同屈曲部の目安となる消波ブロック北端をサーチライト照射による目測で転針目標とすれば,同ブロックからの目測距離を誤ったとき,北防波堤に衝突するおそれがあったが,これまで同ブロック北端の距離を目測して無難に転針できていたことから,サーチライトで同ブロック北端を確認していれば,転針予定地点を判断できると思い,同消波ブロックを注視していて,いったん沖出しの針路としたのち,サーチライトを消灯するなどして東防波堤標識灯の灯光を確認し,同灯光との相対位置を目測しながら北上するなど,船位の確認を十分に行わなかったので,20時21分東防波堤灯台から041度2,170メートルの,防波堤屈曲部に並航する70メートル手前の最初の転針予定地点に達したことに気付かず進行した。
 20時21分半少し前A受審人は,防波堤屈曲部に並航する20メートル手前の地点に達したものの,目測を誤り,最初の転針予定地点に至ったものと判断し,いつものように針路を350度に転じ,北防波堤に著しく接近していることに気付かず,同じ速力で続航した。
 20時22分わずか前A受審人は,サーチライトの射光の中に北防波堤を視認できなかったことから不安を感じ,機関のクラッチを中立とし,左舵をとったが効なく,20時22分東防波堤灯台から039度2,280メートルの地点において,柊樹は,原針路,原速力のまま,その右舷船首が北防波堤の側面に衝突した。
 当時,天候は満天雲の薄曇で,風力1の東風が吹き,視界は良好で,潮候はほぼ高潮時にあたり,月齢15.3の月が東南東方16度の高度にあった。
 衝突の結果,右舷外板に破口を生じて沈没し,のち引き揚げられたが修理費用の関係で廃船処理され,A受審人は,顔面多発骨折などで約1箇月半の入院加療を,同乗者は,右手,左足部及び前胸部打撲などで約1箇月半の通院加療を要する傷を負った。

(原因)
 本件防波堤衝突は,夜間,博多港において,サーチライトで照射しなければ防波堤を視認することが困難な状況下,東防波堤至近をこれに沿って釣りを行いながら転針目標とした防波堤屈曲部付近を北上するにあたり,船位の確認が不十分で,転針が遅れ,北防波堤に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,博多港において,サーチライトで照射しなければ防波堤を視認することが困難な状況下,東防波堤至近をこれに沿って釣りを行いながら転針目標とした防波堤屈曲部付近のわずか沖に向けて北上する場合,北防波堤に向く針路となっていたのであるから,転針時機を失しないよう,いったん沖出しの針路としたのち,東防波堤標識灯の灯光を確認し,同灯光との相対位置を目測しながら北上するなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,これまで消波ブロック北端からの距離を目測して無難に転針できていたことから,サーチライトで同ブロックを確認していれば転針予定地点を判断できると思い,同ブロックを注視していて,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,目測距離を誤って転針が遅れ,北防波堤に向かって進行して衝突を招き,右舷外板に破口を生じて沈没させ,自らが顔面多発骨折などで約1箇月半の入院加療を要する傷を負い,同乗者に右手,左足部及び前胸部打撲などで約1箇月半の通院加療を要する傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION