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平成17年門審第60号
件名

貨物船あき丸漁船漁光丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:あき丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:漁光丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
あき丸・・・船首部に擦過傷
漁光丸・・・左舷舷中央部に破口を生じ廃船処理

原因
あき丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
漁光丸・・・見張り不十分,注意喚起信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,あき丸が,見張り不十分で,錨泊中の漁光丸を避けなかったことによって発生したが,漁光丸が,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年2月4日09時28分
 日向灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船あき丸 漁船漁光丸
総トン数 749トン 3.19トン
全長 69.50メートル  
登録長   8.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 あき丸は,一層甲板の船尾船橋型鋼製セメント運搬船で,船長C,A受審人ほか3人が乗り組み,セメント463トンを積載し,船首1.87メートル船尾3.37メートルの喫水をもって,平成17年2月3日23時20分鹿児島県加治木港を発し,関門港に向かった。
 ところで,C船長は,航海船橋当直体制に関し,0時から4時の時間帯を自らが,4時から8時の時間帯を航海の海技免状を受有する次席一等機関士が,8時から0時の時間帯をA受審人がそれぞれ単独で立直することとしていた。
 翌4日07時40分A受審人は,宮崎県都井岬北東方で,前直の次席一等機関士から,前路には漁船が存在する旨の注意を受け,船橋当直を引き継いで続航し,09時07分戸崎鼻灯台から090度(真方位,以下同じ。)1.8海里の地点で,針路を024度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.5ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
 09時25分A受審人は,戸崎鼻灯台から045度4.7海里の地点に達したとき,正船首方1,150メートルのところに漁光丸を視認することができ,その後,同船が黒色球形形象物を表示していなかったものの,同船に対地速力がなく,また,船首からロープが海面に伸びていることなどから,同船が錨泊しており,同船に衝突のおそれがある態勢で接近するのが分かる状況にあった。しかしながら,同受審人は,定針時,一瞥(いちべつ)しただけで前路に他船はいないと思い,その後,操舵室前面の回転窓のところに立って俯(うつむ)いた姿勢で,一昨日亡くなった親類の葬儀のことなどに思いを馳せ,前路の見張りを十分に行わなかったので,この状況に気付かず,同船を避けることなく続航した。
 こうして,あき丸は,09時28分戸崎鼻灯台から042度5.3海里の地点で,原針路,原速力のまま,その船首部が,漁光丸の左舷ほぼ中央部に後方から84度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は,衝突したことに気付かないでいたところ,ふと右舷側を見て,至近距離の海面上に浮かんでいる漁光丸乗組員を認め,C船長に知らせるとともに救助に当たっているうち,自船が漁光丸と衝突したことを知った。
 また,漁光丸は,一本釣り漁業に従事し,船体中央よりやや後部に操舵室を有する,一層甲板型FRP製漁船で,平成14年12月に一級小型船舶操縦士の操縦免許証の交付を受けたB受審人が1人で乗り組み,知人1人を同乗させ,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同17年2月4日06時30分宮崎県宮崎港を発し,同港南東方の漁場に向かった。
 B受審人は,宮崎港の南東方約5海里の地点で操業を行ったのち,漁場を移動し,09時ごろ前示衝突地点付近の水深約28メートルの地点で,船首から重量25キログラムの鉄製五爪錨を投入し,直径約16ミリメートルの合成繊維製錨索を約80メートル延出して船首中央部の係船柱にこれを係止し,通常,船舶が航行する海域であったが,黒色球形形象物を表示することなく,錨泊を開始し,船尾付近に設けられた渡し板に腰を掛けて,同乗者とともに釣竿を船尾方向に出して操業を始めた。
 09時25分B受審人は,自船が300度を向首しているとき,左舷船尾84度1,150メートルのところにあき丸を視認することができ,その後,同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であった。
 しかしながら,同受審人は,航行船が錨泊中の自船を避航すると思い,操業に熱中し,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,この状況に気付かず,あき丸に対し注意喚起信号を行うことも,更に接近するに及んで機関をかけるなどの衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊中,同時28分わずか前ふと左舷方を見たとき,至近距離に迫ったあき丸を認めたがどうすることもできず,同乗者とともに海中に飛び込んだ直後,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,あき丸は球状船首部に擦過傷を生じ,漁光丸は左舷ほぼ中央部に破口等を生じ,のち廃船処理された。

(原因)
 本件衝突は,日向灘において,北上中のあき丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中の漁光丸を避けなかったことによって発生したが,漁光丸が,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,日向灘において,関門港に向かう目的で北上する場合,前路に存在する漁光丸を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,定針時,一瞥しただけで前路に他船はいないと思い,その後,操舵室前面の回転窓のところに立って俯いた姿勢で,親類の葬儀のことなどに思いを馳せ,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漁光丸に気付かず,錨泊中の同船を避けることなく進行して衝突を招き,自船の球状船首部に擦過傷を,漁光丸の左舷ほぼ中央部に破口等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,日向灘において,操業を行いながら錨泊する場合,接近するあき丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,航行船が錨泊中の自船を避航すると思い,操業に熱中し,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近するあき丸に気付かず,同船に対し注意喚起信号を行わず,機関をかけるなどして衝突を避けるための措置をとることなく,錨泊を続けて衝突を招き,前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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