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平成17年門審第36号
件名

遊漁船大成丸モーターボートポインター衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月3日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年)

理事官
中谷啓二

受審人
A 職名:大成丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:ポインター船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
損害 大成丸・・・船首部外板に擦過傷
ポインター・・・右舷後部ブルワーク及び操舵室外壁に損傷等,船長が肋骨骨折等,同乗者が頸椎及び腰椎捻挫の負傷

原因
大成丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守

裁決主文

 本件衝突は,大成丸が,見張り不十分で,錨泊中のポインターに向けて定針したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月14日10時37分
 福岡県姫島南方

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船大成丸 モーターボートポインター
総トン数 3.4トン  
全長 11.32メートル  
登録長   6.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 102キロワット 95キロワット

3 事実の経過
 大成丸は,航行区域を沿海区域とし,操舵室を船体中央やや後部に設けたFRP製遊漁船で,船首端から操舵位置までが約7.0メートルであり,平成8年2月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が単独で乗り組み,釣客9人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.18メートル船尾0.54メートルの喫水をもって,平成16年11月14日05時55分福岡県大入漁港を発し,06時20分同県姫島南方に設置された魚礁付近の釣場に至り,錨泊して遊漁を開始した。
 ところで,当日,同魚礁周辺には十数隻の遊漁船等が密集して錨泊し,大成丸はこれらの南端部に占位し,同船の北西方に1隻,南東方に3隻の遊漁船がそれぞれ十数メートルの間隔で,ほぼ一線に並んで遊漁中のところ,06時40分からポインターが南端部の東端の遊漁船から更に南東方に十数メートル離れて錨泊を開始していた。
 10時30分A受審人は,遊漁を終えて帰航準備にかかり,同時36分姫島曽根灯浮標から193.5度(真方位,以下同じ。)2,790メートルの地点で,抜錨を終え,船首が190度を向いていたとき,左舷船首51度55メートルのところにポインターが存在したものの,これに気付かず,南東方の遊漁船3隻のみを替わして行けば東南東の帰航針路をとることができると考え,機関を極微速力前進にかけ,190度の針路で発進し,1.8ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で手動操舵によって進行した。
 10時36分22秒A受審人は,左舷方の一番近い遊漁船を替わし,姫島曽根灯浮標から193.5度2,810メートルの地点に達したとき,左転して帰航針路をとることとしたものの,このとき,予定針路線にあたる左舷船首70度45メートルのところに南南西方を向いたポインターを認めることができ,同船が錨泊中を示す形象物を掲げていなかったものの,その船首の向きや同魚礁周辺の各船が錨泊していることから,同船も錨泊中であることが分かる状況であったが,南東端の遊漁船を替わしさえすれば大丈夫と思い,同遊漁船との航過距離をとることに気を奪われ,予定針路方向に対する見張りを十分に行っていなかったので,ポインターが存在することも,同船が錨泊していることにも気付かず,左転を開始した。
 10時36分44秒A受審人は,姫島曽根灯浮標から193度2,820メートルの地点に達し,針路を大入漁港のわずか沖合に向く100度に定めたとき,正船首方30メートルに存在するポインターに向首する状況となったが,依然として左舷方の遊漁船を見ていて,このことに気付かず,機関の回転を上げて3.0ノットに増速し,ポインターが発する注意喚起信号をも聞き取らないまま続航中,同時37分わずか前,船首部にいた釣客の騒ぎを知り,ふと船首方を見たとき,眼前に同船を認めて,機関のクラッチを後進に操作したが,及ばず,10時37分00秒姫島曽根灯浮標から192.5度2,820メートルの地点において,大成丸は,原針路,原速力のまま,その船首がポインターの右舷後部に直角に衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の南南西風が吹き,潮候は高潮時で,視界は良好であった。
 また,ポインターは,航行区域を沿海区域とし,操舵室を船体中央やや後部に設けた,船外機を推進器とするFRP製プレジャーモーターボートで,平成元年6月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が単独で乗り組み,友人等3人を乗せ,釣りの目的で,船首0.15メートル船尾0.25メートルの喫水をもって,同月14日06時30分福岡県岐志漁港を発し,同時40分前示衝突地点付近の水深約25メートルの釣場に至り,機関を停止して船首から投錨した。
 B受審人は,直径約20ミリメートルの合成繊維製錨索を約60メートル延出して,船首部のクリートに係止して錨泊したが,錨泊していることを示す球形形象物を掲げないまま,船首が南南西方を向いた状態で,間もなく友人らとともに釣りを開始した。
 10時36分B受審人は,操舵室の右舷後部にある操縦席に右舷側を向いて腰をかけ,釣竿2本を使用して釣りを行い,船首が190度を向いていたとき,右舷船尾51度55メートルのところで大成丸がゆっくり南下し始めたのを認め,その動静を監視していたところ,同時36分22秒同船が右舷船尾70度45メートルに接近したところで左転を開始したことを知った。
 10時36分44秒B受審人は,大成丸が右舷正横30メートルに接近したところで,自船に向首したことを認め,衝突の危険を感じ,友人らと手を振り大声で叫び,続いて電気ホーンを鳴らして注意喚起信号を行ったが,及ばず,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大成丸は船首部外板に擦過傷を生じ,ポインターは右舷後部ブルワーク及び操舵室外壁に損傷等を生じたが,のち修理され,B受審人が肋骨骨折等で全治3週間の,ポインター同乗者Cが頸椎及び腰椎捻挫で約4箇月の加療を要する傷をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は,遊漁船等が密集する福岡県姫島南方の釣場において,大成丸が,発進して帰航針路をとる際,予定針路方向に対する見張りが不十分で,至近で錨泊中のポインターに向けて定針したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,遊漁船等が密集して錨泊する福岡県姫島南方の釣場において,発進して帰航針路をとる場合,予定針路方向に存在する他船を見落とさないよう,同方向に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,南東端の遊漁船を替わしさえすれば大丈夫と思い,同遊漁船との航過距離をとることに気を奪われ,予定針路方向に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,至近で錨泊中のポインターに気付かず,同船に向けて定針して衝突を招き,大成丸の船首部外板に擦過傷を,ポインターの右舷後部ブルワーク及び操舵室外壁に損傷等をそれぞれ生じさせ,B受審人に肋骨骨折等の,ポインター同乗者Cに頸椎及び腰椎捻挫の傷をそれぞれ負わせるに至った。以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。


参考図
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