(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月9日15時45分
島根県浜田港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船千弘丸 |
漁船第2宝蔵丸 |
総トン数 |
8.29トン |
1.4トン |
登録長 |
13.45メートル |
6.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
100 |
25 |
3 事実の経過
千弘丸は,主としていか釣りを行うFRP製の遊漁船で,A受審人(昭和53年12月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,釣り客4人を乗せ,遊漁を行う目的で,船首0.15メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,平成16年6月9日15時00分島根県浜田港を発し,同県高島北方沖合の釣り場に向かった。
A受審人は,15時12分馬島灯台から203度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点で,針路を271度に定め10.0ノットの対地速力で遠隔操舵により進行した。
ところで,千弘丸は,操舵室右舷側に立って遠隔操舵により進行すると,計器台上に置いたレーダー,魚群探知器及び衛星航法装置などや高くなった船首部のため前方の見通しが妨げられ,船首方各舷10度にわたり死角が生じる状況にあった。
A受審人は,15時39分馬島灯台から257度5.1海里の地点に達したとき,正船首1.0海里に漂泊中の第2宝蔵丸(以下「宝蔵丸」という。)を視認できる状況にあったが,周囲を一瞥して航行の妨げとなる他船はいないと思い,新しく購入したレーダーを操作することに気を奪われ,操舵室から身体を乗り出すなどして船首死角を補う見張りを行わなかったので,宝蔵丸の存在に気付かなかった。
その後A受審人は,宝蔵丸に衝突のおそれのある態勢で接近したが,同船を避けることなく進行し,15時45分馬島灯台から260度6.2海里の地点で,原針路原速力のまま,千弘丸の船首が宝蔵丸の右舷船首に前方から23度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の西北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期に当たり,視界は良好であった。
また,宝蔵丸は,船体中央部に操舵室を有するFRP製の漁船で,B船長(小型船舶操縦士免許受有,平成17年4月死亡)が1人で乗り組み,あまだい一本釣りの目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日06時00分島根県津摩漁港を発し同漁港の北西5海里の漁場に向かった。
B船長は,06時30分漁場について移動しながら釣りを行い,15時00分ごろ前示衝突地点で,操舵室左舷後方の甲板上においた台に船尾方を向いて腰掛け,釣りを開始した。 B船長は,15時39分船首が068度を向き,機関を停止回転として操舵室により右舷船首方に死角が生じた状態で漂泊していたとき,右舷船首23度1.0海里に自船に向首して接近する千弘丸が存在したが,自船は漂泊して釣りをしているので,接近する他船が避けるものと思い,見張りの位置を移動しながら周囲を見渡すなど死角を補う見張りを行わなかったので,千弘丸の存在に気付かないで釣りを続けた。
B船長は,その後千弘丸が衝突のおそれのある態勢で接近し,更に避航の気配のないまま間近に接近したが,機関を前進にするなど衝突を避けるための措置をとらないでいるうち,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,千弘丸は船首部に凹損を生じ,宝蔵丸は船首部右舷側に擦過傷を生じたほか,B船長が約3箇月の加療を要する頚髄損傷を負った。
(原因)
本件衝突は,島根県浜田港西方沖合において,西行中の千弘丸が,見張り不十分で,前路で漂泊中の宝蔵丸を避けなかったことによって発生したが,宝蔵丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,島根県浜田港西方沖合を船首方に死角を生じた状態で西行する場合,前路で漂泊中の宝蔵丸を見落とさないよう,操舵室から身体を乗り出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,周囲を一瞥して航行の妨げとなる他船はいないと思い,レーダーの操作に気を奪われ,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,宝蔵丸との衝突を招き,同船の船首部右舷側に擦過傷を,自船の船首部に凹損をそれぞれ生じさせたほか,宝蔵丸船長に約3箇月の加療を要する頚髄損傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。