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平成17年広審第39号
件名

貨物船第22大盛丸漁船寿丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月26日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(川本 豊,黒田 均,道前洋志)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第22大盛丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:寿丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第22大盛丸・・・船首に擦過傷
寿丸・・・船尾外板に亀裂

原因
第22大盛丸・・・見張り不十分,追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
寿丸・・・動静監視不十分,追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,寿丸を追い越す第22大盛丸が,見張り不十分で,寿丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,寿丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月8日09時00分
 安芸灘東部
 (北緯34度07.8分 東経132度51.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第22大盛丸 漁船寿丸
総トン数 698トン 4.99トン
全長 73.83メートル  
登録長   8.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット  
漁船法馬力数   15
(2)設備及び性能等
ア 第22大盛丸(以下「大盛丸」という。)は,平成6年11月に進水した全通二層甲板船尾船橋型の石材及び砂,砂利採取運搬船で,船体中央部に貨物倉1個が,同倉前方に制限荷重15トンの旋回式ジブクレーンと運転室が,同倉後方に選別した海砂を貨物倉内に落とし込む装置がそれぞれ設けられていた。操舵室内には,中央部に操舵スタンドが,その左側にレーダー2台が,その右側に機関操作盤がそれぞれ配置されていた。
 また,最短停止距離は317メートルで,旋回圏の最大縦距と最大横距は,右旋回時でそれぞれ122メートルと129メートルであった。
イ 寿丸は,昭和49年5月に進水し,船体中央部に操舵室を設けた小型機船底びき網漁業に従事する漁船で,操舵室後方の甲板上にネットローラーが,その右側に舵輪と機関操縦ハンドルが設けられていた。また,曳網中は通常曳網用のワイヤーを300メートル延出するが,本件当時は水深が浅かったのでワイヤーを100メートルだけ延出して2.2ノットの曳網速力で操業していた。

3 事実の経過
 大盛丸は,専ら愛媛県今治市の伯方島北浦地区北方5海里ばかり沖合の海砂採取場において採取した海砂を松山港に運搬する海砂採取運搬船でA受審人ほか4人が乗り組み,海砂2,000トンを載せ,船首4.0メートル船尾5.4メートルの喫水をもって,平成16年6月8日07時50分前示の海砂採取場を発し,松山港に向かった。
 A受審人は,08時05分鼻栗瀬戸南口で船長と船橋当直を交替して,愛媛県今治市大三島南岸沖を安芸灘に向け進行した。
 A受審人は,08時48分来島梶取鼻灯台から349度(真方位,以下同じ。)2.7海里の地点で針路を215度に定め,機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で自動操舵により続航した。
 ところで,大盛丸は,貨物倉前方に設置された旋回式ジブクレーンとその運転室により船首方に8度の範囲で死角が生じていた。
 A受審人は,08時54分来島梶取鼻灯台から325度2.1海里の地点に達したとき,正船首1.0海里に曳網中の寿丸を視認し得る状況にあったが,折からの雨模様の中,操舵スタンド左側のレーダーの海面反射の調整に気を奪われ,操舵室内を移動したりウイングに出るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,同船に気付くことなく進行した。
 A受審人は,その後寿丸を追い越し,衝突のおそれのある態勢で接近したが,同船を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく,同じ針路及び速力で続航するうち,09時00分来島梶取鼻灯台から290度2.0海里の地点で,大盛丸の船首が寿丸の船尾に後方から平行に衝突した。
 大盛丸船長は,降橋して休息していたところ,機関の停止音を聞いて急ぎ昇橋して本件発生を知り,事後の措置に当たった。
当時,天候は曇で風力2の南西風が吹き,視程は2.5海里であった。
 また,寿丸は,専ら安芸灘東部漁場において小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,B受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾2.7メートルの喫水をもって,同日04時00分愛媛県小部漁港を発した。
 B受審人は,05時00分漁場に到着したのち引き索を100メートル延出して底びき網漁を開始し,08時10分来島梶取鼻灯台から338度2.3海里の地点で2回目の曳網を行うこととし,針路を215度に定め,機関を全速力前進にかけて2.2ノットの対地速力で進行した。
 08時45分B受審人は,正船尾2.5海里に大盛丸を認めたのち,08時54分来島梶取鼻灯台から296度2.0海里の地点で,後部甲板上のネットローラー右側の舵輪後方に立って手動操舵により曳網していたとき,大盛丸が正船尾1.0海里のところに自船に向首して接近するようになったが,同船がこの付近海域を航行しているのをよく見かけており,自船を追い越すときはいつも避けてくれたので,今回も避けてくれると思い,その動静監視を十分に行うことなく,前方を向いて続航した。
 B受審人は,その後大盛丸が衝突のおそれのある態勢で接近したが,これに気付かず,更に同船が避航の気配のないまま間近に接近したとき,曳網索を緩めて転舵するなど衝突を避けるための協力動作をとらないで進行するうち,09時00分少し前後方を向いたとき,至近に迫った大盛丸の船首を認めて急ぎ右舵一杯をとったが効なく,寿丸は,同じ針路及び速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大盛丸は船首に擦過傷を生じ,寿丸は船尾外板に亀裂を生じたが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 大盛丸
(1)船首方に8度の範囲で死角が生じていたこと
(2)レーダーの調整に気を奪われて船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(3)寿丸の進路を避けなかったこと

2 寿丸
(1)後方から接近する大盛丸を認めたのち,同船がいつも避けてくれたので,今回も避けてくれると思い,その動静監視を十分に行わなかったこと
(2)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

3 その他
 雨模様で視程が2.5海里であったこと

(原因の考察)
 本件は,寿丸を追い越す大盛丸が,見張りを十分に行っていれば,寿丸を見落とすことはなく,その存在を認識して適切な避航動作がとれたものと認められる。
 したがって,A受審人が,レーダーの調整に気を奪われて船首死角を補う見張りを十分に行わず,寿丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 一方,寿丸が,大盛丸を認めたのち,その動静監視を十分に行っていれば,同船が避航の気配がないまま間近に接近することに気付き,適切な協力動作がとれたものと認められる。
 したがって,B受審人が,大盛丸が避けてくれると思い,動静監視を十分に行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 大盛丸に船首死角が生じていたこと及び当時,雨模様で視程が2.5海里であったことは,いずれも本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,安芸灘東部において,両船がともに南下中,寿丸を追い越す大盛丸が,見張り不十分で,寿丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,寿丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,安芸灘東部において,船首に死角が生じた状態で航行する場合,前路の他船を見落とさないよう,操舵室内を移動したりウイングに出るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,レーダーの調整に気を奪われ,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,寿丸との衝突を招き,大盛丸の船首に擦過傷を,寿丸の船尾外板に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,安芸灘東部において曳網中,船尾方に自船を追い越す態勢で接近する大盛丸を認めた場合,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,大盛丸がこの付近海域を航行しているのをよく見かけており,自船を追い越すときはいつも避けてくれたので,今回も避けてくれると思い,その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,大盛丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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