(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月14日13時27分
広島湾
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートひかり丸 |
総トン数 |
3.6トン |
全長 |
11.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
169キロワット |
3 事実の経過
ひかり丸は,船体中央から少し後方に操舵室を有するFRP製モーターボートで,A受審人(昭和51年6月四級小型船舶操縦士免許取得,平成16年11月二級及び特殊小型船舶操縦士免許に更新)が単独で乗り組み,友人2人を乗せ,釣りの目的で,船首0.25メートル船尾0.80メートルの喫水をもって,平成16年12月14日07時30分広島県広島港宇品島北側の船だまりを発し,広島湾南部の釣り場に向かった。
A受審人は,広島湾南部に至り,山口県片島や黒島周辺の海域で釣りを行ったのち,広島県大黒神島東方沖合を経て同島北方沖合の釣り場に移動することとし,12時47分半黒島島頂(117メートル)から030度(真方位,以下同じ。)1,000メートルの地点を発進するとともに,針路を大黒神島東端を正船首少し左方に見る024度に定め,機関を全速力前進から少し落とした回転数毎分2,000にかけて15.1ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
ところで,A受審人は,長年土曜日及び日曜日に友人などをひかり丸に乗せて広島湾で釣りを行っていたことから,同湾内の養殖施設の設置状況について詳しく,大黒神島東岸沖にかき養殖施設が設置されていることを知っていた。
大黒神島東岸沖のかき養殖施設は,県知事が許可した漁業免許に基づくもので,平成15年9月1日から同20年8月31日までの間,鹿川港シーバース灯から238度1.03海里(以下「A地点」という。),218度2.21海里(以下「B地点」という。),208度1.40海里(以下「C地点」という。),224度1.30海里,227度1.27海里,234度1.24海里及び240度1.08海里の地点を順次結ぶ線及び同島によって囲まれた区域内にかき筏垂直式養殖施設が設置され,A,B及びCの各地点に,同施設の存在を示す浮台付き標識灯が設置されていた。
発進したあと,A受審人は,友人2人のうち,1人が左舷前部の甲板上に左舷方を向いて腰を下ろし,もう1人が操舵室左舷側の入口のところに後方を向いて腰を下ろした状態で,自らは同室右舷側の舵輪後方に置いたいすに腰を掛け,昼食の握り飯を食べながら操船にあたった。
A受審人は,昼食を終えたのち,天気がよくて暖かく,海上も穏やかであったうえ,周囲に他船を見かけなかったことや満腹感などから気が緩み,13時18分安芸白石灯標から141度4.3海里の地点に差し掛かったころ,眠気を催したが,まさか居眠りすることはあるまいと思い,立ち上がり,操舵室天井のハッチなどを開けて外気を同室内に取り入れるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,いすに腰を掛けたまま続航した。
A受審人は,いつしか居眠りに陥り,大黒神島東岸沖のかき養殖施設に向首していることに気付かないまま進行し,13時27分鹿川港シーバース灯から208度1.40海里の地点において,ひかり丸は,原針路,原速力のまま,同養殖施設の南東端C地点に設置された標識灯に衝突し,船底部が同浮台に乗り上がった。
当時,天候は晴で風力1の北風が吹き,潮候は下げ潮の初期にあたり,視界は良好であった。
衝突の結果,ひかり丸は,船首部右舷側外板に破口を伴う亀裂並びにプロペラ及び同軸に曲損を,かき養殖施設は,標識灯及び同浮台に曲損等をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。また,友人1人が全治2週間の右前頭部挫創及び頚部捻挫等を負った。
(原因)
本件かき養殖施設衝突は,広島湾において,同湾南部の釣り場から広島県大黒神島北方沖合の釣り場に向けて北上中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同島東岸沖に設置されたかき養殖施設に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,広島湾において,いすに腰を掛けて単独で操船にあたり,同湾南部の釣り場から広島県大黒神島北方沖合の釣り場に向けて北上中,天気がよくて暖かく,海上も穏やかであったうえ,周囲に他船を見かけなかったことや昼食直後の満腹感などから気が緩み,眠気を催した場合,居眠り運航にならないよう,立ち上がり,操舵室天井のハッチなどを開けて外気を同室内に取り入れるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,大黒神島東岸沖のかき養殖施設に向首していることに気付かないまま進行し,同施設の南東端に設置された標識灯への衝突を招き,ひかり丸の船首部右舷側外板に破口を伴う亀裂及びプロペラ等に曲損を,かき養殖施設の標識灯及び同浮台に曲損等をそれぞれ生じさせ,友人1人に全治2週間の右前頭部挫創等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。