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平成17年広審第35号
件名

作業艇(船名なし)防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年10月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均,吉川 進,道前洋志)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:作業艇(船名なし)艇長
補佐人
a

損害
船首部を圧壊,艇長ほか艇員及び上陸員12人が負傷

原因
過大速力,船位確認不十分

主文

 本件防波堤衝突は,安全な速力としなかったばかりか,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月22日19時00分
 広島県呉港
 (北緯34度14.3分 東経132度33.3分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 作業艇(船名なし)
排水量 9トン
全長 11.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 154キロワット
(2)設備及び性能等
 作業艇(船名なし)(以下「作業艇」という。)は,防衛庁所管の輸送艦B号に搭載された2隻のFRP製作業艇のうちの1隻で,定員が45人となっており,船体中央部左舷側に操縦席を有し,その前方と後方とにオーニングが展張され,両舷に腰掛けが設備されていた。操縦席の前方には見張りの妨げとなる構造物はなく,見通しは良好であった。また,航海灯の設備や磁気コンパスを有していたが,レーダーやGPSなどの航海計器はなかった。
 操縦性能として,機関の回転数毎分2,800のとき,速力は15.0ノットで,旋回径は約28メートル,最短停止距離は約28メートルであった。

3 本件発生地点付近の状況
 本件発生地点は,広島県呉港呉区の,小麗女島灯台から090度(真方位,以下同じ。)1.3海里の川原石南ふ頭南端(以下「基点」という。)から東方1,000メートルのところにある,くの字型をした春日沖防波堤で,同防波堤の両端には,基点から100度970メートルのところに赤色標識灯が,109度1,110メートルのところに緑色標識灯がそれぞれ設置され,これらは4秒毎に1閃光を発し,光達距離が5.5キロメートルで,当時はいずれも正常に点灯していた。
 また,作業艇の航行目的は,港域外に錨泊中のB号と,基点から163度1,260メートルのところにあるF-5と呼ばれる浮桟橋(以下「F-5」という。)及び105度1,200メートルのところにあるB-2と呼ばれる浮桟橋(以下「B-2」という。)との間で,上陸員の送迎などを行うものであった。
 F-5からB-2に至る海域には,基点から152.5度690メートル,133度690メートル及び122度840メートルのところなどに灯火設備のない係船浮標(それぞれ第1浮標,第2浮標及び第3浮標という。)が設置されていた。

4 A指定海難関係人の採っていた航行経路
 A指定海難関係人は,昼夜とも,F-5を発したのち,前示の係船浮標を右舷につけ回し,減速したのち,春日沖防波堤東端に接近して左転し,緑色標識灯を左舷に見ながら同防波堤内に進入し,B-2に向かう経路を採っていた。

5 事実の経過
 作業艇は,A指定海難関係人が艇長としてほか艇員2人と運航に当たり,B号の上陸員16人を乗船させ,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年1月22日18時45分呉港外の,基点から221度1.8海里の地点で錨泊中のB号を発し,F-5に寄せて上陸員6人を下船させたのち,18時55分同所を発進し,B-2に向かった。
 18時58分A指定海難関係人は,基点から163度700メートルの地点において,針路を040度に定め,機関を回転数毎分2,500にかけ13.4ノットの対地速力とし,上陸員を両舷に腰掛けさせ,艇員を船首尾で見張りに当たらせ,自らは操縦席に立ち,手動操舵と見張りに当たって進行した。
 A指定海難関係人は,第1浮標を右舷側至近に替わしながら第2浮標に接近し,18時59分少し前基点から130度600メートルの地点でこれに並航し,右転して針路を073度に転じたとき,いつもは右舷船首方に視認していた転針目標の第3浮標を視認できなかったが,直ちに減速するなど,安全な速力とすることなく,船首の艇員に同浮標を見つけるよう命じ,自らも第3浮標を探すことに気をとられ,磁気コンパスを見て緑色標識灯の方位を測定して春日沖防波堤への接近状況を確かめるなど,船位の確認を十分に行わないで続航した。
 A指定海難関係人は,18時59分半基点から110度800メートルの地点で,緑色標識灯を左舷船首方に見る115度の針路への転針予定地点に達したことにも,春日沖防波堤に接近していることにも気付かないまま進行し,19時00分少し前ふと前方を見たとき,陸上の灯火が春日沖防波堤に遮られて見えないことに気付き,同防波堤が極めて近いと直感して機関を後進にかけた直後,19時00分基点から105度940メートルの地点において,作業艇は,原針路原速力のまま,同防波堤に衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 防波堤衝突の結果,船首部を圧壊したが,のち修理された。また,A指定海難関係人が頭部打撲を負ったほか,艇員及び上陸員12人が骨折などを負った。

(本件発生に至る事由)
1 灯火設備のない係船浮標を転針目標としていたこと
2 転針目標を視認できなかったこと
3 安全な速力としなかったこと
4 船位の確認を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,作業艇が,転針目標を視認できなかったとき,安全な速力とし,船位の確認を十分に行っておれば,春日沖防波堤への衝突を避けることができたと考えられる。したがって,A指定海難関係人が,転針目標を視認できなかった際,安全な速力としなかったこと及び船位の確認を十分に行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人が,灯火設備のない係船浮標を転針目標としていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件防波堤衝突は,夜間,広島県呉港内のF-5からB-2へ移動中,転針目標を視認できなかった際,安全な速力としなかったばかりか,船位の確認が不十分で,春日沖防波堤に向首進行したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,夜間,広島県呉港に入港中,転針目標を視認できなかった際,船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,本件後,B号艦長から作業艇の運航などについて教育を受けたうえ,転針目標となる灯火を定めるなど,船位を確認することの重要性を十分認識し,再発防止に努めていることに徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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